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中編4
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以前住んでいた家の話

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四年前ぐらい前に住んでいた家の話を。

 

以前住んでいた家は、とある住宅地にありました。

駅からは遠く、築年数はそこそこ経っていたので少し古びた感じの家でしたが、ご近所さん同士も仲が良く、特に引っ越してきた当時はまだ私も弟も幼稚園入園前と幼く、また割りとご高齢の方が多かったということもあり大変可愛がってもらった記憶があります。

 

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さて、この以前住んでいた家なのですが、隣の家はいわゆる「霊道」、つまり読んで字のごとく、霊の通る道なのだそうです。

(大叔母の旧くからの知人の霊能者?の方が仰っていました)

 

霊道が通っているとやはり霊障もあるようで、実際、私たちがその家に住んでいた十数年ほどの間に隣の家の住人は覚えているだけでも四回ほど変わっていて、また、私は記憶にないのですが、母によるとそのうちの一回は引っ越した直後に警察の方が「前の住人のことを教えてほしい」と訊ねてきたこともあるそうです。

 

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そして、その影響なのか、私の家でも度々「色んなこと」が起きていました。

 

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私が小学生だったの頃の話です。

 

学校から帰ってきた私が弟と一緒に二階のリビングで宿題をしていたとき、不意にリビングの扉が「コンコン」と、静かに二回ノックされました。

母は犬の散歩に行って家にはいませんし、第一、ノックなんてするはずがありません。

私と顔を見合わせた弟(当時もでしたが、今でも家の中で一番の怖がりです)が立ち上がって、恐る恐る扉を開きました。

 

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そこには、誰もいませんでした。

こういうとき、ホラー映画であれば「誰もいなかった」と安心させておいて、振り返ったら髪の長い白装束の女が立ってこちらを見ていた…なんていうのが定石ですが、そんなこともなく、結局その日はそれで終わり。

しばらくして犬の散歩から帰ってきた母に「さっきドア勝手にノックされた!でも誰もいなかった!」と、姉弟揃って報告するのみでした。

(母も視えないけど怖がりなので「こわいことを言うな」と怒られました)

 

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その後も似たようなことは何度かありましたが、特にこれといって被害もなかったのでそのまま放置し、月日は経ち、私は中学生になりました。

 

この話とは関係のないことなので詳しいことは割愛しますが、この頃には私と弟は三階にある自室ではなく、二階のリビングで寝起きをしていました。

そんなある日のことです。

 

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いつものように弟と二人で眠っていた私でしたが、眠りに就いた時間が早かったこともあり夜中に目が覚めてしまいました。

時計を見ると、午前二時を少し過ぎていました。

当時はまだスマホもなく、クラスメイトたちが持っていたガラケーも家の決まりで禁止されており持っていなかった私は、やることもなく、冴えてしまった目で薄汚れた天井をじっと見ていました。

 

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同じく二階の寝室にいる両親も寝ているのか、とても静かでした。

家の裏手にある公園から虫の声がしたのを、今でも覚えています。

 

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ふと、誰もいないはずの三階から「カラ…」と小さな物音がしました。

弟の部屋の襖が開いたような音でした。

それに続き、ずず、ずず、と、畳に何かを引きずって歩くような音もします。

 

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じっと耳をそばだてていると、今度はそのずず、という音からカタン、キシッ、という、畳ではなくなにか硬いものに乗っているような、木の軋むような音になりました。

あ、階段を降りてこようとしているんだと気付いた瞬間、全身に鳥肌が立ちました。

慌てて頭まで布団をかぶり、寒くもないのに震える体を擦っている間にも、キシッ。……キシッ。と、音はゆっくり、ゆっくりと一段ずつ降りてくるのです。

 

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音はもう、階段を半分ほど降りてきていました。

階段を最後まで降りてきたらどうしよう。

リビングの中にまで入ってきたらどうしよう。

冗談でもなんでもなく、怖くておかしくなりそうでした。

 

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しかし、音は階段の半分ほどのところで止まったまま、じっと動きません。

階段の音に気を取られすぎていたせいか、全く聞こえなくなってしまっていた虫の鳴く声が再び聞こえるようになってきた頃、気が緩んだ私はそのまま再び眠ってしまったのです。

 

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夢を見ました。

眠っている私を、「私」が「誰かの視点」から覗き込んでいました。

口を開け、寝息を立てながら間抜けな顔をして眠っている私を「誰かの視点から見ている私」はすごく腹立たしい思いで見つめていました。

なぜか、すごくすごく憎らしい。なんで。なんで。悔しい。

いつの間にか「私」が手にしていた、古びたナタのようなものを眠っている私の首に押し当てた瞬間。

そこで目が覚めました。

 

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ナタの刃が押し付けられる感覚がとてもリアルで、起きてからもしばらく心臓が早鐘を打っていました。

落ち着いてから洗面所の鏡で首のあたりを確かめてみましたが、どこにも傷はありませんでした。

 

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あの場所で殺人事件などは一度も起きたことはないようですが(徒歩2分圏内に自殺者や事故死、病死者を複数人出している家はありますが、ナタを使った自殺なんかはないようなので…)、階段を降りてくるあの音は、眠る私を見ていた「私の視点」は一体誰のものなのかは、いまだに分かりません。

 

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ちなみに、引っ越し先である今の家でもごくまれに犬がフローリングを歩くちゃかちゃか、という音(数年前に亡くなってしまった犬の音かなあと勝手に思っています)や軽いラップ音はしますが、霊現象に見舞われることはほとんどなくなりました。

今、あの家は取り壊されてしまい何もありません。

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