とある日曜日の朝に、某線の電車に乗った。
終点の駅にある本屋から、取り寄せを頼んでいた漫画が届いたと連絡が来たからなんだけど
久しぶりに電車に乗った俺はその人の多さに早くもやられそうになっていた。
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うわ、なんか具合悪いかも…
そう思えてきたのは、まだ駅をふたつ過ぎたくらいの時だ。
冷や汗とめまい、酸欠みたいな症状だ。
こういう場合は座れば多少楽になれるのだが
残念ながら(当然ながら?)席はひとつも空いていなかった。
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どうしよう、途中下車するか…?
しかしなあ…
なんて考えながらも症状は悪化し、視界が悪くなってくる。
座っている人間達は皆他人のことなど見ないから
当然俺が体調を悪くしていることなんか気づかない。
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(決めた、次の駅で下車しよう)
そう決めた時、いつ乗ってきたのか
知らぬ間に俺の後ろに立っていた老紳士が
丸眼鏡をくいっと上げて微笑んだ。
「大丈夫、降りる必要ないですよ」
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え?なんでこの人俺が次で降りることを…
そう思うや否や、老紳士は座席の一箇所、いかにも今まで悪さばっかやってきたようなヤンキーが座る席を指差した。
その瞬間、ヤンキーが消えた。
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えええっ!!!?
思わず声を上げると周りの人間が一斉にこっちを見て怪訝な顔をしてきた。
恐ろしいのは誰一人としてヤンキーが消えたことに気づいていないのだ。
両隣に座っていた人さえも。
あんなに急に、まるでCGで雑に処理したかのようにいきなり消えたのに。
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あの老紳士は…いなくなっていた。
白昼夢というやつだったのだろうか?
その時には驚きのせいか、もう体調も回復していた。
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なんだか怖くなった俺はヤンキーが元々いたはずの、その不自然に空いた席に座ることなく終点まで突っ立っていた。
駅に着いてホームに降りた時、耳元で声が聞こえた。
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『あなたのために空けてあげたのに、座らなかったんですねぇ』
作者青蓮
友人の妄想から着想を得ました。
あなたなら座りますか?