中編6
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修学旅行先の旅館にて

 これは自分が高校生時代の修学旅行先の京都で宿泊した旅館での出来事です。

昔から説明の付かない現象は何度か経験した事はありましたが、

たった二日間の間にこれでもかと奇妙な出来事を立て続けに経験した事はこれまでに無かったので、

その出来事を紹介させて頂きたいと思います。

 その旅館へは修学旅行期間中の3日間宿泊する事になっており、

学生と教師含めた30人弱で貸切っていました。

旅館の構造はザックリ言うと受付・宴会場・浴場・宿泊室がある棟と

後から増築した様な短い渡り廊下で繋がっている宿泊室のみの

二棟で構成されています。

 宿泊当日は自由行動を終えバスで旅館へと向い、

馴れない盆地の暑さの中一日中歩き続けてた疲れからか

寝室へ入るなり寝込む人もちらほらおり寝る人と

起きてる人で部屋を分けようという話しになりました。

自分たち男子勢は増築側の2階で寝泊りをする事になっており、

部屋は3~4人位が泊まれるこじんまりとしたA室と

大広間のB・C室3部屋に分けられていて、

A室は使用しないと言う事になって居たので

寝る人はB室へ

起きている人はC室へ

という感じで部屋割りを行いました。

 まだ20時頃でしょうか、

C室側でもそろそろ寝るという人が出てきて

丁度良いから空いてるA室で寝ようと

生徒会長とS君の二人が布団を持ってA室へ出て行きました。

そこからまた暫くしてC室で起きてる連中が

「A室で寝てる会長とSにいたずらしに行こう」

という話しを始め、

それに便乗してA室へ向かう事になりました。

 A室は隣のB室から廊下を挟んだすぐ向かいにあるので

勘付かれないよう静かに廊下へ出て

片開きのドアをこっそり開け

部屋の中を覗いたら

S君が真っ暗い部屋の中で膝に拳を置いて正座しながら前のめりになって砂嵐のTV画面を凝視しているんですよね、

しかも鼻がもう少しでTVの画面に当たる位の距離で。

最初はその光景を見て

「何してるんだよ」

「暑さで頭やられたのか?」

等と笑いながら話し掛けたのですが反応が無く

そこで部屋に入った皆が様子がおかしい事に気付き、

寝てた会長を起こし

S君は3~4人掛かりで持ち上げたり引きずったりしながら

C室まで持ち帰りました。

 部屋に着いてからもS君は寝ぼけた様な感じで

話しかけても応答してくれる様子は無く

仕方が無いのでそのまま寝てもらい、

一緒に居た会長に事情を聞いたが

「部屋に入ったらすぐに寝て、起こされてみたらあの状況だ」

という感じで、

「何か変わった事は無かったか?」

と聞くと

「寝るのに横になってたら誰かが自分の周りを歩いてる様な気配があって気持ち悪かった」

との事だ。

 そんな話しをしていたら向こうでゲームをやってたI君がこっちに来て

「多分憑かれてるよ、あそこの部屋雰囲気悪いもん」

とか言い出した、

こいつ普段からキャラが濃いのに更に属性を増やそうとしてるのかと

話半分に聞いておいて、

面白い話しが出来たなと思い友人数名と女子が泊まっている棟へ話を広めに行った。

 向こうの棟へ着き、

さっき起きた事を話し始めると近くに居たHさんが

「こっちにも居たよ、子供が」

と言い出し、

普段見てる感じだとオカルト系とかそっち系の人では無いと思ってたので

「何?見えるの?」

と聞いたら

「見えるぞ」

と単純明快な一言が返って来た。

ちなみに今見える範囲には居るのか聞いてみたら

「そこの階段の踊り場に男が居る」

と、

今登ってきた階段でこれから帰る時に使う唯一の階段なんですけど、

という気持ちは置いておいて心霊写真とか撮れるのかなと思い、

Hさんに携帯を渡してその階段の踊り場に友人と二人で並んで写真を撮影してもらい、

撮れた画像を見たが別段おかしい所は無く

「写ってる?」

って聞くと自分の手元を指差して

「ここに顔があるよ」

と、

いくら目を凝らしてもそこには壁が写ってるだけにしか見えなかった。

その後部屋に戻って

撮った写真を事情の知らないI君に見せて

「何か霊的なの写ってる?」

と聞くと同じ所を指差して

「顔がある」

と言う、

なんなんでしょうね。

 翌日の夜にA室で百物語をやろうと言う事にり、

体調の戻ったS君をテーブルの上座に添えて男女で合計8人位が集まりました。

Hさんは快く参加してくれたがI君には断られました。

そして各々自分の知ってる怖い話を次々と話し始めた。

本当ならロウソクなんかを用意したかったが当然そんな物は無く、

明かりは旅館に備え付けられている壁から外すと自動で光が付く懐中電灯をテーブルの真ん中にタオルで固定して使った。

A室の中には部屋の真ん中に長テーブルが一台と例のTVが一台によくある小さい冷蔵庫と金庫があるだけで他は座布団くらいしか無い、

他に何か特徴的な物が有るとしたら壁に掛かっている縦長の鏡くらいでした。

 順序良く話が進んで行くうちに懐中電灯の明かりが不規則に弱まったりチラつく様になり始め

「これは来たな」

と思いHさんに

「今居る?」

と聞くと

「最初から居たよ」

と予想の斜め上の返答に驚きを隠せなかった。

そしてずっと静かにしていたS君が

「なんか暑いな、暑い暑い」

と言い始めたが、

他の人は自分も含めて暑いどころか肌寒さを感じていたので

やはりこの男は少し感覚が他の人とずれている様だ。

とりあえずS君は放置して話しを続けていたら

S君がエアコンのリモコンを見つけて電源を入れたらしく

急にエアコンがゴォーと音を出して運転を始め、

それを見ていたHさんがS君に言った

「今自分の考えで動いて無いでしょ?」

という一言がここで話していたどの怖い話よりも怖かった。

 そして、懐中電灯の明かりも切れかけHさんが

「そろそろ部屋出ない?今メッチャ部屋に居るよ」

との事で部屋から退散する事になり、

どうも部屋の鏡がそういったモノの通り道になっているらしく

その出入り口で自分達が怖い話なんかをしているから余計に集まってきているそうだ。

なら最後にその鏡だけ写真に収めて部屋から出ようと

隣に居た会長がカメラのレンズを鏡に向けた矢先にHさんが

「写真は撮らない方が良い、変に刺激すると何されるか分からないよ」

と忠告してきたので会長に

「やっぱり写真は止めよう」

と言うと会長が

「そうだね、シャッター落ちないし」

と言う、

どうやらあのよく心霊番組とかで見かけるシチュエーションは本物だったらしく変な感動を覚えた。

「ちょっと携帯で撮ってみるか」

と試しに自分の携帯のカメラで撮影しようとしたが

携帯のカメラですらシャッターが落ちない、

携帯電話のカメラにも対応しているのかと驚いていたら

いきなり会長のカメラのシャッターが落ち

フラッシュが焚かれた。

 周りに居た人はみんな座ってテーブルを囲んでいるだけなので、

仮に座っている人間の

胸位の高さから

壁に向かって

フラッシュを焚いても

壁に映し出される影は

精々正面に座っている人の

胸から上だけの筈だ。

だが、

フラッシュで壁に照らし出されたのは

立って横を向いている猫背の老人の様な人影だ。

それを目の当たりにして流石にみんな肝を冷やし

早々に部屋から撤退した。

案の定S君は半放心状態だったので

また引きずって部屋から連れ出した。

 部屋に戻ったらさっきまで切れかけていた懐中電灯が最初に取り出した時と変わりなく光を煌々と照らし出していて、

さっきまでのチラつきは電池が原因では無かったんだなと教えてくれた。

ついでに参加しなかったI君がニヤニヤしながら

「なんかあった?」

とわざとらしく笑ってきたが気にせずに就寝。

その日はやたら家鳴りが多かったりA室のドアを開け閉めする様な音が何度か聞こえた。

 翌日の朝には朝食を食べて荷物をまとめて何事も無く旅館を出発、

「昨日あの後部屋出入りしたりした人居た?」

とそれとなく聞いてまわるが誰も居なかったからまぁそういう事なんだろう。

とりあえずその後は特に何も無く修学旅行の全日程を終える事ができた。

 もし後日談があるとしたら

初日に携帯で撮った画像で

「ここに顔がある」

と言っていた箇所に赤いもやが見える様になり

日程の最終日頃には顔の輪郭がぼんやり見える位にまでなっていて、

それをI君に見せたら

「お前これ色んな人に見せてまわったでしょ?」

そうだ、

よく分かったな、

やっぱりお前の霊感は本物だったんだな!

と言おうとした矢先に

「これ赤いの怒ってる証拠だから消せるうちに消した方がいいぞ」

目の前ですぐに消した。

あの写真を放置していたらまた別の経験ができたかも知れないが

とりあえずはこれが自分の人生で経験した中で一番おかしな体験でした。

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