私に棲み憑くソレ(前編)

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私に棲み憑くソレ(前編)

人通りがあまり多いとは言えない商店街。

その片隅にポツンとある美容室。

こじんまりとした店舗なのだが、一歩踏み入ると不思議な空間が広る。

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そこは知人が経営している。

知人と言っても友人の友人と、少しばかり距離はあった。

だが、店主は気さくな人柄で何か惹かれるものがあった為、人見知りな私でもいつの間にか親しくさせて貰っていた。

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いつもカットとカラーをお願いする。

その頃の私は社畜まっしぐらな生活をしており、予約する時間は早くても21時以降だった。

個人店だったからこそ出来る事であり、店主の人の好さのお蔭だった。

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更に店主一人で切り盛りしている為、基本貸切状態。

それに加え、施術中に煙草が吸える。

コミュ障で愛煙家の私には願ってもないお店だった。

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その日も遅い時間に予約を取り、仕事を終えてから急いで向かう。

途中でコンビニに寄り、ちょっとした差し入れを購入。

施術は数時間で済むが世間話や愚痴を聞いて貰い、帰りは深夜になる事が多かったからだ。

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予約ギリギリの到着。

 「こんばんわー」

と、挨拶をするなり始まる今日の愚痴。

普段は出来る限り愚痴らない様にしているのだが、店主は私の上司と付き合いがあった。

だからこそ愚痴にも華が咲く。

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店主は終始、笑顔で耳を傾けてくれる。

時には真剣な眼差しでアドバイスもくれた。

私がこの店に足を運んでいたのは、【美容室に行く】というより、【話を聞いて貰う】という目的が大きかった様に思う。

あまり人に甘える事が苦手な私だったが、この人だけは例外だった。

そこを掘り下げるのは、またの機会があれば…

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さて、今日も仕事の愚痴に、趣味の話に、と盛り上がり気が付けば施術も終わり、夜も更けていた。

ここの店主、多趣味という言葉では片付けれない程、知識が豊富である。

私の知らない事も沢山知っているからこそ、話していて楽しい。

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物によっては趣味に留まらず、副業にしてしまう程だった。

その一つが【お祓い】である。

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私はこの人の事を深く知らない。

親しくはさせて貰っているし、話も絶えない。

常日頃の話や、友人の話も交える。

だが、【深く】は知らない…

何となく【知らない】方が良い気がしていたからだ…

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なので【お祓い】についても良く知らなかった。

訊けば色々な条件が揃った時だけ、やっている稼業らしい。

私はこの店主の人柄が好きだ。

でも、そういった類の職業は信じていない。

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今まで説明し難い不思議な体験はある。

だが、本当に【霊】が居ると信じてしまっては心が壊れてしまうから、信じない様に努めていたんだ。

結果、そういった職種も信じていない。

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しかし、当時の私はある事で悩んでいた。

以前から店主が【お祓い】をしていると、耳に挟んでいたので少し相談してみる事にした。

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私の家は色々あって一軒家だった。

そこに独りで住んでいる。

自分で言うのはこっ恥ずかしいが、時には肉体関係・恋愛感情のある人間が来る事があった。

そういう時は決まって深夜1時過ぎに着信がある。

2階に置いてある家電にだ。

shake

sound:32

 ピリリリリリッ…

毎度ワンコールだけ…

昼間に電話が鳴る事はまず無い。

その電話は置いてあるだけで、基本的にかけてくる様な人間に番号を教えていないからだ。

その電話が鳴る。

独りの時や、色恋が絡んでいない人間の場合は鳴らない。

鳴るのはいつも色恋の相手を連れ込んでいる時だけだった…

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悩み事はもう1つあった。

家に居ると2階の廊下を走り回る足音がする。

我が家の廊下は直線状で左右とドン突きに部屋がある作りだ。

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shake

 パタパタパタパタ…

子供が走る様な軽い足音の時もあれば、

shake

 ドタドタドタッ

けたたましい音の時もある。

足音は電話と違い、誰彼構わず起こり得た。

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近隣は静かな住宅街。

だいたいが高齢の夫婦か、家族住まい。

独り暮らしは私くらいの地域だ。

20時を過ぎると静寂に包まれ、街灯だけが儚げに光る。

繁華街が好きな私としては心許ない環境だった。

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それらを前提とした状況にも関わらず、鳴り響く足音。

気になるのは当たり前だった。

この不思議な出来事を店主に溢す。

店主は眉を顰め、少し間をあけてから話し出した。

 『祓うかどうかはおいといて、一度視てみよっか?』

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私は早とちりしてしまい、

 「そんな、家まで来て貰うのは申し訳ないので…」

と慌てる。

 『えっとね、家に直接行くんじゃなくて、一般的に言う【透視】ってやつ?それをするだけだよ~』

と店主が爽やかに微笑む。

私はあまりの間抜け具合に顔から火が出た。

テンパる気持ちを抑え、【透視】なるモノを実際にして貰う事にした。

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店主は前述の会話でも解かる通り、私の家を知らない。

そして私は一軒家で独り暮らしという稀な環境下におかれていた。

普通なら想定し得ない生活スタイルだ。

しかしオカルトに対し、半信半疑だった私の価値観を店主はこの後、木端微塵に砕く。

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長らく目を閉じ、黙りこくっていた店主が、流れる様に話し出す。

内容は我が家の詳細だった。

何なら監視カメラを帰ったら探すべきか?と馬鹿な事が頭を過る程、度胆を抜かれた。

多分その時の私は言葉が出ずに、餌を欲しがる鯉の様に口を動かしていただろう…

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 『あっ…居るね……』

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( おいっ!ちょっと待てっ!!居るって言ったよね?!

  今『居る』って言ったよねっっ!!? )

店主の一言で心臓を鷲掴みにされ、涙目になる。

間取りを当てられただけでも信じ初めていた私を、崖から突き落とすレベルの言葉の暴力。

自分から出たとは思えない程、か細い声で私は訊いた。

 「…何が……?」

計り知れない恐怖に襲われ、私は自身の右腕を強く掴んでいた。

店主は一層眉を顰め、言葉を濁す。

 『…聞いた方が楽になる?』

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( いやいやいやいや!ここまできたら聴くでしょっ!!

   無かった事にして帰れる程、強靭な心臓は持っとらんよ!! )

と思いながら震える唇から「言って…」と小さく溢す。

 『階段のね、踊り場があるでしょ?その右手に居るんだ。・・・多分男の子』

我が家の階段はコの字状になっており、踊り場が2箇所ある。

指定された場所は上の方の踊り場だった。

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ソレの詳しい特徴を聴くと、服装が引っかかる。

( その服、何か覚えがある… )

脳味噌をフル回転させ、思い出す。

・・・

 「あっ…元彼の仕事着だわ…」

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思い出した瞬間、反射的に言葉が零れる。

同時に全身に戦慄が走り、鳥肌が立つのが分かった。

( でも、何で元彼の服を? )

元彼は3年程付き合っていたが波乱万丈な関係で、やっとの事別れを切り出した相手だ。

しかし、別れて6年以上経っている。

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家に【ソレ】が居る恐怖と、思い出したくない黒歴史が相まって脳がショート寸前になる。

そんな私を見兼ねて、店主が話し出す。

ソレの顔の特徴を聴く内に、昔見た元彼の幼少期の写真を思い出した。

 ( アイツだ…だが、何故? )

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 「意味が解らん…」

独り言のつもりだったが、店主が自分に投げかけられたと思い、慌てて推測を語る。

店主の考える【霊】についての説明や【ソレ】について教えられた。

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要約すると…

・霊には力に限界がある

・元彼の霊なら、それは生き霊

・多分本人は飛ばしている事に気付いていない

・無意識化で飛ばされた霊だから力が少ない為、外見が幼い

・今も私に未練があるから、憑いている

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そういった事をパニックに陥っている私が解かる様に優しく説明する。

すると突然、店主の身体が 

shake

ビクンッ と跳ね上がった。

 『ご免…気付かれた…』

サー…っと店主の血の気が引くのが見て分かる。

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黙り続ける店主、混乱する私…カオス極まりない空間がここに誕生した。

淀んだ空気が数分漂う。

大きく深呼吸をした店主が重い口を開く。

 『最後に向こうに見つかってしまったのね。

   ちょっとややこしい事になるかも…』

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( ノックアウトしてる私にトドメをさしたいん?

   まじで泣くぞっ?! )

そんな心境だった。

俯き、何と言葉を続けるべきか分からず、太腿を掴んでいる手が嫌に汗ばみ、力が籠る。

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 「店主さんさ…お祓いとかお願い出来る?」

藁をも掴む思いで縋った。

さっきまで霊など信じないと考えていた人間の発言とは思えない。

 『ご免、代償デカすぎて無理www』

( そこ笑うとこ?!!!! )

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目が飛び出すとはこう言う事を言うんだと、深く理解した。

だが、そこにはちゃんと理由があった。

 『多分祓うとなると、眼球くらいは失くす。

   それ位、相手の【想い】が強い。

   申し訳ないけど、無償で祓う事は出来ない。

   多額の請求になる。』

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腑に落ちた。

( あー…今日から生き霊と同居かー…

   いや、認めてなかっただけで、ずっと同居してたのか? )

と、この世の終わりを悟る。

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 『でもね、君には何もするつもりがないみたいだから、ソッとしておく方が安全だと思う。』

店主は続ける。

 『ただね、今気づかれちゃったから、1階の階段前の壁に鏡を掛けて。』

そうアドバイスを言い渡された。

まだ少なからず救いがある!と知ると脳が再起動した。

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 「じゃあ、普段聞こえる足音はソレなの?」

私は恐る恐る尋ねた。

 『そだよ?』

店主は【何当たり前の事、質問してるの?】くらいの顔でこちらキョトンと見ている。

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 「でも軽い音の時もあれば、重い時もあるから、また別なのかなって思って…」

軽はずみな発言をしてしまった。

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 『確かに霊道にはなってるから、別のもあるだろうけど、君にアピールし続けているのは彼だけだね。

   音に違いがあるのは仕方ないよ。』

と素人に重量級のボディーブローをかます店主。

脳が再び強制終了しそうだ…

そんな私を放ったまま店主は煙草に火を灯し、深く吸い込む。

怯える私に纏わせるかの様にゆっくりと煙を吹きかけ、目を合わせないまま呟く。

 『だって普段は足首しかないんだから…』

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仕事が終わってから水分しか口にしていなかったが、何故か固形物が胃から湧き上がる感覚に襲われる。

激しい眩暈に見舞われた。

( これ聴いて後悔するやつだわ… )

今更ながら聴いて良かったのか、悪かったのかさえ判断出来ない。

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明らかに様子がおかしい私を見て店主が心配する。

 『さっきも言ったけどね、霊って力に限りがあるんだ。

   だから普段は見せる・使う場所だけなんだわ。

   廊下を走る時は足首を。

   踊り場にいる時は上半身だけを。って感じでね…』

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確信を持った。

( この人を【深く知る】とダメなやつってコレだわ… )と。

本人は心配している様子だったが、確実にこちらを仕留めにきているのだから…

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これらの流れを終える頃には、外は薄らと明るくなり出していた。

今日は夜勤。

帰って、寝て、すぐ仕事…

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( あー…帰るのが憂鬱で仕方ない… )

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@鏡水花さん

コメントありがとうございます。
初めての作品なので、分からない事が多くて拙くて(;´∀`)
そう仰って頂けると幸いです。

続編、出来るだけ早く投稿したいと思っています♪

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