最高と最悪な日の偏愛(前編)

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最高と最悪な日の偏愛(前編)

あれは彼の最後の優しさだったのでしょうか…?

今となっては解かりません。

彼に問いかけても答えが返って来る事は絶対に有り得ません…

ただ私の、彼への最期の愛し方は正解だったのでしょうか……?

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数年前のある日、私は彼と遠方まで足を伸ばし欲しかった車の見積もりに赴いていました。

その計画は突然の事で、彼が『今から出掛けるぞ!!』と行先を黙ったまま、半ば強引に連れ出されたのです。

彼は一向に目的地を教えてはくれず、高速に乗って小一時間走り続けました。

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高速を降りる頃には何となく行先の見当がつきましたが、彼があまりにも嬉しそうだったので私は解からないフリを続けていました。

運転中も終始笑顔で、『何処だと思う?秘密ー!』と少し面倒くさい子供の様に話す彼との会話が幸せだったから…

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自宅を出てから2時間程、県を越えて着いた先は車屋でした。

「何故ここへ?」そこは私が乗りたかった車を専門的に扱っていたからです。

先日彼が『少し遠いけどココなら【私】の欲しがってた車あるんじゃない?』と言っていたので、目的地がココだと推測出来たのでした。

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多分彼は私の喜ぶ姿を想像し、彼なりの計画を立てた事で舞い上がり、私に話した事などすっかり忘れてしまったのでしょう。

そういうトコロは少し爪が甘いのですが、彼の長所でもありました。

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実際、見当はついたものの純粋に嬉しくて仕方ありません。

彼が私の事を想って、私の為に考えてくれたサプライズ。嬉しくないはずがありません。

そして私の念願の車種も揃っていたので、より一層私のテンションは上がっていました。

珍しくはしゃぐ私を見て『どやっ!』と言わんばかりの万遍の笑みを彼は溢しました。

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しかし、現実は甘くありません。

私の欲しい車種は本体価格だけでも250万越え…オプション等、色々イジると最低300万は用意しなくてはなりません。

まだ社会人になって毛の生えた程度の私が用意出来るはずもなく、金額を見て落胆するしかありませんでした。

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落ち込んでいる私を見て彼がニヤニヤと何か企んでいる様な笑顔で『コレ何やと思う?』と以前、私名義で作った通帳をチラつかせました。

交際を始めて1年目くらいに彼に新しい通帳を作って欲しいと言われ、口座を開きました。その通帳は同棲している私達の生活費や貯金等を入れると伺っていました。

交際し始めたばかりの頃の私はお金に無頓着で、年上の彼にお金の管理を全て委ねていたのです。

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その通帳を私に差し出し、中を見る様に彼が促しました。

「え?どういう事?!」

通帳の残高を見た私は理解出来ず、声を漏らしました。

残高のゼロの数がおかしい…入金履歴を見ると毎月渡していた生活費と彼のお小遣いであろう金額をコツコツと私に内緒で貯めていた様です。

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私は驚きのあまり彼の顔と、通帳の金額を何度も交互に見ていたと思います。

『将来の投資(笑) 【私】が運転出来る様になったら俺も助かるし、子供産まれたらファミリーカーも必要やろ?それに酒飲んでも迎えに来て貰える~(笑)』

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彼は無邪気で、どこか照れくさそうな言い草でした。

ですが、私の欲しい車…( オフロード四輪駆動車やけど大丈夫なんか? )という疑問はありましたが、兎に角今は嬉しい気持ちでいっぱいでした。

彼が私との将来を具体的に考えてくれている事が何より幸せなのです。

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お金の事を話題にすると、下世話かと思いますが私達は交際する時に幾つか取決めをしていました。

・結婚前提のお付き合い

・私はまだ若く、人間的にも未熟な為、直ぐには結婚しない

・私は正社員として働き、社会経験を積む

・互いに己を向上させ、【大人】になる

・問題が起きた時は感情論ではなく、客観視して考える

・他人を【自分の物差し】で測らない

・彼が「嫁になって欲しい」と思う女になる

・結婚したら子供が欲しい

・相手を一番に思い遣る

そう2人で決めていました。

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それらを踏まえ、ずっと交際し同棲していました。

互いの家族へは挨拶も済ませています。

でも一向に結婚する時期は定まらず、私は彼の望むところへはまだ至っていないと悩んでいました。

既に交際3年目になる頃でした。

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『そのお金は【私】の車の頭金に遣って良いやつやから。生活費とか結婚資金は俺名義の通帳にちゃんと入れてるから心配せんでエエよ。』

彼は誇らしげに言い放ちました。

私は毎月渡したお金は生活に宛がっているものだと思っていましたので、複雑ではありますが感謝しかありませんでした。

そして彼は続けます。

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『甘やかすのは最初だけ。これからは本当の意味で2人の生活やから、ちゃんと自分でもお金の管理をする事。頭金を支払った後は自分で計画を立てて返済する事。生活費入れんのも忘れんとってや(笑)』

彼はいつも私に飴と鞭を与えてくれました。

でも今回のコレは激甘でした。彼の言う条件など比べるまでもない、完全な甘やかしだとハッキリと解からされました。

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彼は優しく、時に厳しい。でも懐が深く、いつも何があっても私を見捨てずに寄り添い、導いてくれていました。

年上だからかもしれません。でも彼は男として、人としての器が大きかったのだと思います。

私はそんな彼に何度も救われてきました。

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しかし、他人同士が一緒に居る為には、時に落とし処が見つからない様な口論も必要でした。

でも次の日には『昨日は言い過ぎてごめん。』と申し訳なさそうに、私の好きなお菓子を片手に先に折れてくれていました。

その後は私も謝り、仲直りも含めて2人で一緒に食べながら、話の論点・怒った理由や経緯・大切な事だったから把握して欲しかった。等、互いに納得出来るまで語り合っていました。

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他所様から見れば理解し難い、変なカップルだったかもしれません。

ですが、私達は互いに尊重し、時にはどちらかが妥協を覚え、ただ相手を愛する、そしていつもお互いが相手の安らげる居場所となれる様に努めていました。

私には勿体ない程、デキた方でした…

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その彼が車を購入する理由として挙げた事が、今後の2人の将来を含ませていました。

『本当の意味で2人の生活』『子供が産まれたら』『結婚資金』…

私は時に極度の鈍感ですが、流石にコレは解かりました。

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その言葉の意味がとても嬉しかったのです。でもちゃんと言って欲しかったから「それってどういう意味?」と悪戯に笑いながら尋ねました。

「うるせぇ、そういう事やって解かれ!」と彼は恥ずかしくなったのか、私の肩を抱き、顔を見せてはくれませんでした。

今、私凄く幸せです。

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あまりイチャついていても仕方ないので、現実に戻り、私達はお店の方と見積もりや納車時期について話しました。

ローンや見積もり等はチンプンカンプンな私は、やはり彼に頼ってしまいました。

いつも『人生はネタ也!』とふざけている彼の真面目な横顔がとても愛おしかった…

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車の購入についてはだいたいの話が固まり、お店の方にお礼を言って帰路に着きました。

帰りの車の中で彼が『何色が良い?どこイジるん?』と、まるで自分の事の様に楽しそうに話していました。

彼とはだいぶ年が離れていましたが、こういった子供っぽいトコロが好きで仕方ありませんでした。

私を喜ばせようと、私の事を想ってずっと計画してくれていたのだと思います。

今迄以上に私は彼に応えれる女に、人間になりたいと強く決心しました。

( ずっと彼と生きてゆきたい。 )と…

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さっきまでマシンガントークを繰り広げていた彼は、電池が切れたかの様に突然黙ってしまいました。

「どうかした?」と尋ねても、『ん…』と煮え切らんばかりの返事しかありません。

助手席から彼の顔を軽く覗き込んでみて気付きました。

【言い出すタイミングを掴もうとしている時の顔】でした。

普段チャラけてる彼は本音や真面目な話をする時は少し切っ掛けが必要でした。

そのタイミングが見つからず悩んでいる様子…

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『あんさ……そろそろ付き合って3年なるやろ?【私】もいっぱい頑張ってくれたし…だから今回の頭金はそれに対するご褒美でもあんねやんか。こういう形でしか褒めてあげれんで申し訳ないんやけどな…』

彼はゆっくりではありますが、一言一言に心を籠めて伝えようとしていました。

「ちゃんと褒めて貰ってるよ?【俺】すぐウチの事、甘やかすやん(笑)」

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彼の言葉が少しこっ恥ずかしくて私は彼を見れずに、少しふざけてしまいました。

でも純粋に、ただただ素直に嬉しかった…

愛している人に認められ、寄り添う事を許された…私は照れながら有頂天になっていました。

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『×××××』

数年前のあの日、彼に言われたその言葉…

あの会話の流れで私は彼から正式にプロポーズを受けました。

ハンドルを握りながら、私を見ずに頬を赤らめて…

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指輪もムードもありません。

でも、私は彼の【心】が嬉しくて、これ以上ないプロポーズだと思いました。

車内で私は大泣きしてしまいました。

あまりにも嬉しくて、あまりにも突然で…

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これから私の人生が本当に始まる。

2人の人生を、2人で家族を作ろうと…

数年前のあの日は、私の人生において言葉では言い表せない程に幸せな出来事です。

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でも、幸せは永くは続きませんでした。

人生で最高だった日の翌日は、人生で最悪な日と成り下がりました。

彼は私を独りにしました。

あのプロポーズは何だったのでしょうか…?

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彼は独りで逝ってしまいました。

どれだけ追いかけたくても辿り着けない、あの世への旅路に私を置いて出掛けてしまったのです…

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@むぅ さん

読んで下さって有難うございます。
お気に召して頂ける内容かは解かりませんが、楽しんで頂ければ幸いですm(__)m

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