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中編5
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テンダリンオジサン(後編)

あれからどのくらいで目が覚めたのだろうか

喉の乾きが、浜辺に打ち上げられた魚のように水を欲している

アルコールでカラカラだ。

周りにはガガーと寝息を立てている、主人と2人仲良くビールを飲み干したらしく、グラスが近くにごろごろと転がっているNちゃんとCさん。

CさんにはNちゃんがかけてあげたのだろう、俺の上着が掛けられている、仲良くなってくれたのなら何より

それにしても、ここの主人、Cさんを昔から知っているからといって、不用心すぎるだろうと俺は勝手に飲み物を拝借する

それにしてもいいところだなぁ、海を眺めながら耳をすますとザザァ…ザザァ…と波の音が聞こえる

真夜中の海に潮の香り、なんだか誘われるように海に向かい、先の見えない遥か遠くを覗いてみた

一瞬で世界には自分しかいないかのようなあまりにも大きすぎて深い海のその暗闇に飲まれそうになり、俺はブルッと寒気を感じた。

そう、おしっこがしたくなったのだ。そんなノスタルジーな感覚に飲まれる俺ではない

かといって、さすがに海に向かっておしっこをしたのじゃ、自分の大事なmy Son(まだまだ使う予定)を食いちぎられたりしたら、たまらないのでトイレへとちゃんと行くことにする

公衆トイレはなぜ、どこも臭くて汚いんだろう。

そんなことを考えていた、みんな寝てるし、わざわざ起こすまでもないとたかをくくり1人でトイレに来たのだ

くっさいし、早く外に出よう、そんな思いと裏腹に、俺は洗面台の前で固まる・・・「小学生か...」ボソッと言った自分に笑う。

おでこに肉の文字、ほっぺたにバカアホ、鼻の下には鼻毛。

見事に油性ペンで至る所が落書きされていた

ため息を小さくつき、俺は顔を洗い始めた、バシャバシャ、流れる水の音の中に低い獣の声を聞いた気がした、すぐに水を止めると、ぅうぅう...と何かを吐き出そうとしているのか、それとも空気が漏れているのかわからないような音が聞こえてくる、

ちょっと遠い気がするが、まだ聞こえている、ヒュウ…ヒュウ...さっきよりも弱々しくなっている、鹿が車にはねられたのかな?俺は怖いもの見たさで、公衆トイレを出て山道を見上げる、特に何も見えないのだが、まだヒュウ...ヒュウ...と聞こえている

ここは崖になっているため、ぐるっと回れば一つ上の道路に上がれる、この上だな、と俺は山道を上がる大きなカーブをぐるっと回ったあたりで、ポツンポツンとある街灯の明かりを頼りに道路の先の方を見た

そこには横たわる影とそれを見下ろす影、そして聞こえる

デンダーリンダーデンダーリン...

内心、きたー!!と喜んだのは束の間だった。

おじさんは「どんっ♪︎くるりんっ」と歌うとステッキを回転させ横たわるその影を打っていた。

おいおい、そいつ苦しんでいるのに何をさらにいたぶってんだよ...という怒りが怖さよりも先に出た、そーゆー時考えより身体がいつも先に動く。

俺はおじさんを読んでいた、「おいそこのじじい!!」

それだけ言うと、俺は走り始めていた。

これはもう本能的にわかっていた、こういう奴は必ず追いかけてくる、そして案の定、奴はこちらを向くと追いかけてきたのだが...ここからは予想外だったが、スキップの幅が助走をつけた幅跳びみたいに広すぎてぐんぐんと追いついてきたのだ

テンダリン ダ デーエンダリン♪︎聞こえてきた声はもうすぐそこまで近づいてきていた

ステッキについた血と思わしき液体をピチャピチャとたらしながら

俺はU字に曲がったカーブの所までたどり着いたので、ガードレールを飛び下り、また走り出す

やばいやばい...

あいつ俺が飛び降りてなかったら、くるりんっのタイミングでステッキを振りかざしてた...

頭をステッキがかすめていって少しかすったのか頭から自分の血が出ているのか、鹿の血がついたのか分からなかったがおでこをつたって生暖かい液体が眉毛まで垂れてくる

奴は表情一つ変えないで歌いながら追いかけてくる

「テンダリンダ デーンダリン テンダリン ダ ドンッ くるりんっ♪︎」

くるりんっの所でガードレールにステッキを引っ掛けて遠心力で加速する、また距離を縮められ、俺は焦る

このまま進むとみんながいる所へ行ってしまう、それは避けなければと、俺はまたガードレールを飛び下りる。

そこはもう崖ではなく海辺に設置されている波の防壁テトラポットだった、そしてその隙間へと落ちていった。

おじさんは追いかけては来なかった

テンダリン ダ デーンダリン、テーンダリンダ ドンッ、くるりん♪︎

ガードレールを曲げてしまうほど強く殴りつけたのだろうと想像できるような音を残し、また山道を登っていっってくれたようだった。

俺はというと、テトラポットの隙間に落ちた時に手を変な風に着き、骨折と全身打撲にはなったがそれで済んでた

もちろんそれから酔って寝てしまっている、みんなが気づいてくれるまで電話を鳴らし続け、テトラポットの間で動けなくなって見つかった時には、カニに足をつつかれるわ、フナムシに住処にされるわで大変だった

もちろん、小言は、病院へ向かう中、帰り道、そしてそれから数日続いたのは言うまでもない。

俺的には顔に小学生みたいな落書きをされたまま病院へ行ったことの方が嫌だった。

そう、人生とは無慈悲なものだ、あのおじさんが何だったのかは想像もつかない、山の神だったのか、それとも妖怪的なものだったのか、それとも浮浪者か、赤マントやテケテケ花子さん二口裂け女

元々人間だったが、何か理由があって存在させられ続ける存在なのか、知るよしもないし、もう近づこうとは思わない。

呪いや呪縛は連鎖して彼らを呼び続けるのだろう

人の記憶から消えない限り、彼らはまた誰かの前に現れるのだろうなきっと。

古い記憶のように、そして兄貴のように。

俺もそうなりたいと願うのであった

Concrete
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