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部屋の中をカサカサと動き回る黒い物体がいる…
目にも止まらないほど早く、タンスの裏や、隙間を走り回る…
俺の部屋にいるそれは、
なにもあの虫だけではない…
今もまたチラッと見えたが、
タンスと壁の隙間へと逃げていった。
それは木々が人口の電飾をまとい、寒いはずの街並みは、どことなく温もりに包まれるシーズン。
俺にとっては、どことなく他人ごとな日
そう、今夜は聖夜/Xmasだ。
聖夜だというのにカップル共は浮かれ、企業はここぞとばかりにイベントに便乗し、
どこもかしこもXmas一色だ。
なぁ、神の子イエスよ、今日はあんたの誕生日だろ??
誰かにおめでとうと言われたかい??
きっと優しいあんたには言えないこともあるだろうから…
変わりに俺が言おう。
全てのカップルどもよく聞け。
『性夜じゃねぇんだぞ』と。
今年は、独りだ。
いや、正確には今年もだが、去年はまだヤツがいた。
俺には一回り年の離れたいとこがいる。
名をAと言い、今夜は、少し前にできた彼女とお楽しみなのだろう。
あの裏切り者が…
そんなことを考えていると膝の上で寝ていたファラオ(愛犬)がこちらをチラッと見やり、
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『俺さまじゃ役不足か?』
とでも言いたいかのように、
フッ…と短い息を吐いてまたつまらなそうに寝始めた。
ファラオは元々、俺がAの家で居候させてもらっていた頃に拾ってきた子だった。
それから1年位一緒に住んでいたのだが家を出るときにAが泣いてすがるので、
『俺とファラオどっちにのこって欲しい?』
と冗談混じりに聞くと、即答で『ファラオ』
と言われ、何だか無駄に傷つけられたのを覚えている。
最近になってAは、
バイトに勤しみ、
彼女に勤しみ、
オカルトにうつつをぬかし、
学業以外の全てに一生懸命で、
ファラオを不憫に思った俺は家に連れてきたのであった。
そう、決して、俺がXmasを1人で過ごしたくないからではない。
たぶん…いや、そう思いたい。
小型犬でmix(拾ってきたので定かではない)
そこから想像もつかないくらい気品がありいつでも堂々として、人の上に陣取り、自分の立場の優位を誇示するのが好きなようだ。
だから彼は無駄にほえない、走り回らない、いつでもどこか一点を見据えている、と思えば、
次の瞬間にはプイッと、そっぽを向いてテクテクと歩く。
その気高い姿から”ファラオ”と名付けた。
実際は可愛くて仕方ないヤツなのだが、親バカの話は趣旨からズレてしまうのでやめておこう。
さてファラオはやっぱり今もPCをいじる俺の上で優雅に寝ているのだが…
何かを察知したのか、
頭をバッとあげ玄関の方を眺めている…
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『どうした??』
訪ねてみると、耳をピクピクッと細かく動かし、
緩く尻尾を左右に2、3度揺らす。
それから間もなく玄関の方へと猛ダッシュで走っていくと、
物凄いけんまくで
吠える吠える!!
わん!!わん!!
ウゥヴ~…わん!!わんわん!!わん!!!!
すると玄関の向こう側から
『ウワァッ!!?』
と間抜けな声、
うん、Aだな。
確信をもって玄関へと向かう、
吠える事を止めないファラオを抱き上げなだめながら
『なんだ、なんだ~?結局Xmasを俺と過ごしたくてきたんだろう~?』
と、我ながら寂しいヤツ全開でドアを開けるとAの姿はどこにもなく、変わりに包装されたプレゼントboxと手紙が置いてあった。
手紙には
【これで寂しい夜とバイバイ♪さぁ勇気を振り絞って空気を入れよう!!Aサンタより兄貴に愛を込めて♪MerryXmas♪】
と書いてあった…
いいところあるじゃねぇか…
Xmasも、捨てたものじゃないな、
と思いながら部屋に戻り、
さっそく包装紙をはがす、
いや破く、
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この辺はo型だ。
中には何やら…折りたたまったゴム人形…とロングのウィッグ?
うん、前言撤回だ、あのやろう…
空気人形、ラブドールetc.
呼び名は数あれど、用途は1つ…
きっと今夜、俺を限界まで孤独の海に沈めたいのだろう…
悲しいかな男の性なのか…
はたまた好奇心のなせる技なのか…
俺は今、空気を入れている。
それにしてもひどい作りだ、
浮き輪の様なゴム質、手足がピーンと延びたままで、顔はヘノヘノモヘジみたいに書いてある。
ロングのウィッグだけはやたらと綺麗で、まるで人毛のようだ。
できた人形を見てすこし笑う、
そしてそれをコタツに座らせ、
向かいにすわり、飲みかけのアルコールをグイグイやる、
語りかけてもなにも、言葉が返ってくるわけもないので、
すぐに飽きてしまった。
はたから見たら猟奇的な光景だったかもしれないが...
こうして俺とファラオと人形の夜が始まった。
いつしかコタツで眠りについていたようで、
窮屈な体勢と硬い床にたえきれず目が覚めてきている、
寝ぼけた頭に深酒...
『ちと、飲みすぎたかな...』
付けっぱなしのテレビから聞こえてくるXmasソング。
まだぼやけたままの意識で見た光景に、
『あぁ夢を見ているのか...』
ボソリとつぶやいた。
俺の腕の中にはSが抱かれている....
彼女の髪が腕枕をしている俺の腕に絡まっていく。
コタツに二人、抱き合ったまま寝ていれば、そりゃあ窮屈だ。
とか、冷静に考えている
でも心地いい...
このまま寝ていたい
彼女の髪は腕から肩、胸にかかり上に被さってきたようだ
愛おしい....
そう思った瞬間、彼女はまるで俺から引き離されるように、後ろへと
引っ張られる!?
『ぎゃぁぁぁぁあ、やめろこのクソ犬!!!』
くぐもったような重たい声が聞こえるのと同時に、俺の体にまとわりついていた髪が、サァーっと離れる。
S.......!!?
じゃない!?驚き、目を見開くと、
そこには真っ黒な何かがいた。
そしてファラオがその何かをくわえたまま力いっぱい後ろに後ろに引っ張っている。
言葉がでない、状況がつかめない、わけがわからない。
その間もファラオは、ウゥヴ~…と唸りながら首を左右に振りそれを引っ張る
『ぎゃぁぁぁぁあ、この!ヤメロォォォォォオ!!』
重たい声が響く
その真っ黒な何かは人の形をしているのはわかるが....
暗くて見えない。
まず俺は照明を消した覚えなんかない!!
その物とは反対側へと飛びのき
壁際のスイッチを手探りで入れる!!
そこには
全身が毛でグルグルに覆われた空気人形がいた
ロングのウイッグはウネウネ動きながら人形に巻きつき、動いていた。
その毛をファラオは必死に引っ張り俺から遠ざけている。
『グウゥゥゥゥオオオオォォォォォ』
気味の悪い唸り声を上げながらそれはしだいにファラオにも絡まっていく
クゥゥウン......と気高いファラオの口から聞いたことのないような、苦しそうな声が漏れている。
その瞬間俺の中で何かが吹っ切れた、
『てめぇ!!何してんだ!!!!』
と四つんばいになっていた人形のわき腹あたりを、力任せに蹴り飛ばし、机の上に置いてあった、
ZIPPOオイルを手に持ち言う
『お前、よく燃えそうだよな?』
その言葉が聞こえたのか、蹴りが効いたのか、それは一目散に玄関へと這いつくばるように走っていき、
部屋を出て行った。
ファラオは最後の最後までそれを追いかけ、最後にこんしんの1噛みをくれてやったらしい、
ドアがしまった後もずっと
わん!!わん!!
ウゥヴ~…わん!!わんわん!!わん!!!!
と吠え続けていた
『もういいよ、ファラオ...助かった....ありがとう』
心の底から感謝した
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あれが何だったのか、今はどうでもよかった、
ファラの最後の一撃で噛みち切った毛は玄関でウネウネ動き、
慌てて玄関横のシンクの隙間に入っていってしまった。
人生ってのは無慈悲だ。
なんてXmasだとファラオを抱き上げ、ZIPPOオイル片手に震えたまま朝を迎えた
もう眠れなかったのは、ふと、ベット横にある窓から外を見たときにウネウネ動いている何かが、
まだ外からこちらを見ていたからだ......
次の日Aを呼び出して盛大に説教をしたのは言うまでもない
どこであんなもん買ったんだ?と聞くと、
『家の近くにある骨董屋』だそうだ、
その日のうちに見に行ったが、その骨董屋はなかった。
答えは闇の中、いくら好奇心旺盛な怖がりでも、もうかかわりたくないと思った出来事だった。
だから今も家には、
部屋の中をカサカサと動き回る黒い物体がいる…
目にも止まらないほど早く、タンスの裏や、隙間を走り回る…
今もまたチラッと見えたが、
タンスと壁の隙間へと逃げていった。
いつか燃やしてやろうと思う。
俺にはファラオという最強の相方がいるのだから
MerryXmas…
作者Incubus
一回り歳下ないとこのAと俺のトラブルメーカーな2人がだいたい自業自得な目にあうシリーズ物です
ゆっくりですが更新していくつもりですのでよかったらどうぞ