ファム・ファタールのスティグマ

中編4
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ファム・ファタールのスティグマ

本編のテンダリンオジサンの間に起きた女たちの戦い、サブストーリーなので興味のない方は飛ばしていただいて問題ない内容となっております、それでは……

これはAがCさんに酒で潰れされている間の、私たち3人の話。

どれくらい寝てしまっていたのだろう

私は虚ろな記憶を辿っていた、得体の知れないおじさん、それに会いたがるA、飲み終わるまでダメ、この辺のワードは虚ろながら聞き取れていた。

顔を上げると、海を眺めながら1人で飲み続けているCさんがいる、3:7のビールを入れ直してタバコに火をつける

シュッシュシュ……

潮風に当たったからか、1回でつかなかった、ZIPを恨めしく見る

「あら起きた?おはようNちゃ...Sちゃんかな?」

Cさんは訪ねてきた、大方、あほ面で寝ているこいつから私のことは聞いているのだろう、大して驚きもしないでこっちで飲み直す?と聞かれた

「どうもSです」

多少Nからの継続で気持ち悪いのは残っているが、Cさんと2人でちゃんと話したこともないし、と近づいてみることにした。

3:7のビールは炭酸が抜け、5:2位になっていた

「今日私さ、AくんがTシャツ脱がないの見て、それ触れようとしなかったんだよね、胸の傷のことを意識してのことだろうと私でもわかるし。そしたらさ、Nちゃんはすごいね」

Cさんは呆気にとられたのだろう。

「考えなしで動けるのは私やアンタみたいに枷がないからでしょ」

私は笑う、私とCさんにとってはNの無邪気さがうらやましいものだ

「そうかもね」とCさんも同意する「Sちゃんはずっとそのままでいるつもりなの?」

あまりに露骨で唐突な質問に私は少しむせた

「私はやっぱり彼が今でも好きだし、そして彼が乗り移ったようなA君に惹かれてるみたい。」

私の答えを聞かないでCさんは自分を納得させるように呟いている

「それじゃあ私ともNとも敵ってことですね。」

波音だけが遠くでザザァ...ザザァ...と静かに響いていた

私はそこでふと自分の肩にかかったままのAのシャツに気が付き、暖かさを噛み締める

Cさんは日焼けがかゆいのか、暑いのか、Tシャツを捲り上げているAを見つめ、その傷跡に触れる。

とても愛しそうに、そして苦しそうに

その傷は手術後間もない時、私が爪を立て、そして彼に口づけした時のそのままだ

なんだか自分の心に触られているかのように感じ、私はCさんのグラスを奪い、2人のグラスにビールを入れる、今度は6:4...比率はまだうまくいかない

私もAを挟んでCさんと向かい合って座る、乾杯。

Cさんは受け取ったグラスを私のグラスにぶつけてグビグビと開ける...この女。

負けじとあけた私のグラスにはあと二口くらいのビールが残っていた

「私が入れてくるよ」

今度はCさんがグラスに黄金比を流し込んでくる、そう7:3

私はなんだか腹がたちAの傷に爪を立てる、心なしかAは眉を眉間に寄せた気がした

「もう譲らないよ、これは私の"ファム・ファタールのスティグマ”」

今まで見たこともない、Cさんがそこにいた。

真剣な眼差し、今までニコニコするだけの優しいお姉さんの仮面はそこにはなかった

「Aの意思は無視すんの?」

聞く私にCさんはニヤッと微笑んでから

「あなたは?」と聞いてきた

「私は...」張本人のAはアホ面丸出しで寝ているし、Nも私の中で寝たまんまだ。

この2人は、Cさんのこの顔を知らない方がいいだろうと思った。

「それで、何か作戦でもあんの?」

話を切り替えたくてタバコに火をつける

「特にないんだな」Cさんはいつもの顔に戻っていた、そして笑いながら続ける

「あの人、鈍感だから最後まで気づいてくれなかったし、なんなら最近A君も彼の声聞こえてないんじゃない?」

Cさんの言う通りだと思った。

あいつは多分ここずっとAに語りかけていないのだと思う。

それはある程度、Aが成長したからかもしれないが、そうだとしても、こちら側からしては寂しいものだ。

そんなことを思っている自分が恥ずかしくなり、泡のなくなってしまったビールをグビグビと飲んだ

「お互いやっかいなのを好きになったなぁ」

私が笑うのをCさんは見て

「あっSちゃんも笑うんだ、いつも怒ってるイメージだった」

とバカにしてきた

なんだか結局仲良くなってしまった私達は寝ているAの顔にマジックで落書きをしたり

寝ているAにキスをしようとするCさんを止めていたら、私がさせられそうになったりと、それなりに楽しんで飲み続けた

とうとうサーバーがブシュッと終わりを告げる、悲鳴を上げ、最後の一杯を2人で開けた比率は5:5で

そして、もう無理、寝よう。

となったので縁もたけなわ、お開きとなった。

先に寝てしまったCさんにAのシャツをかけてあげ

Aを見るとTシャツをはだけられるだけはだけさせていたので、それを直してあげた。

その時、その愛しい傷に私がお休みのキスをしたことは私しか知らないので秘密のままで。

そう、このトラブルメーカーのおかげで私たちの夏はやっぱりこの後ドタバタ終わるのである。

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