私に棲み憑くソレ(中編)

中編4
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私に棲み憑くソレ(中編)

あれから店主の言葉が耳を離れない。

その為、帰路につく私の足取りは重い…

まるで足首に枷を掛けられているか、人でもぶら下がっているかの様に。

…それもそのはず。

延々と店主の言葉が私の脳裏を駆け巡っている。

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 『あっ…居るね……』

放たれたあの言葉は時間が経つにつれ、私の恐怖心と相まって生々しい【言霊】となってゆく。

( 帰りたくないな… )

しかし、そんな訳にもいかない。

仕事は休めない。

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当時の私は医療関連施設に勤めていた。

月に数回、夜勤がある。

今日がその日だ、だから美容室を予約した。

施術が終わってからでも、眠る時間はある。

そう考え、今日にしたのだ。

今となっては美容室に行った事…いや、店主に相談した事を深く悔いているが…

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【ソレ】は認識するべきではなかった。

【ソレ】を明確にしてはいけなかった…

【ソレ】が私の生きている世界に足を踏み入れてしまった…

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( あ゛-…どうしたもんか…マジでヤダ…マジで無理… )

無駄な足掻きだとは分かっている…

だが私は現実逃避する事しか出来ず、普段の倍以上かけて家に向かっている。

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( こんな事してても結局帰るしかないじゃん…

   ウチん家、あそこしか無いんだし… )

【ソレ】に対して成す術もない私は、ただただ虚しかった。

どれだけ足掻こうとも、自問自答は解かり切った答えしか生まない。

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帰路に時間をかけている為、刻一刻と睡眠時間が削られてゆく。

職務への責任感と、現実味を帯びた【ソレ】への恐怖が鬩ぎ合う。

仕事から逃れられない憤りと【ソレ】に対する恐れが混ざり合い、嘔吐きとなってこみ上げてくる。

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shake

sound:32

 プルルルルルッ…

突然携帯が鳴り出す。

怯えきっていた私の体が瞬時に飛び上がった。

恐る恐る、携帯の画面に目をやる。

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【Sさん】

彼は私の友人であり、同僚。

肉体的にも親密な時期があったという、奇妙な関係だ。

 「どしたの?」

親しい人間から連絡がきた事により、張り詰めていた緊張の糸がほんの少し緩む。

 『あ~…私ちゃんゴメンやねんけど、今夜泊まってもイイ?

   明日早番になってもうてさ…』

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我が家は職場まで徒歩で行ける距離だ。

通勤が便利だった為、たまにSさんは泊まりに来る。

 「ん~…別にイイんやけど、今日ウチ夜勤なんよ。

   それでも良ければイイよ~」

気を許してる間柄なので鍵を預ける事に躊躇はなかった。

ただ、【我が家】に他人を独りで寝泊まりさせるのはこれが初めてだ。

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 『全然大丈夫やで~

   マジ助かるー!ありがと~ね~』

今の私の心境を知らないSさんは、いつも通り陽気に話す。

彼の聴きなれた声のお蔭で【ソレ】に対しての恐怖心がほんの少し消える。

だが、顔が綻びそうになった瞬間、ある事を思い出してしまった。

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以前からSさんも【ソレ】の存在を認識していたのだ。

( せやのに独りで泊まる事は抵抗ないんかな?

  逆なら無理だわ… )

そんな疑問を抱くが、敢えて言葉にはしないでおく。

これ以上、【ソレ】という存在を強く意識したくなかったから…

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あれからSさんと合流し、一緒に帰宅した。

( Sさんが居てくれるから、ちょっとは怖くないかも… )

【独りではない】という安心感から、情けないながらもどうにか我が家の敷居を跨ぐ。

家の中はいつもと変わりはない。

…はず。

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店主との遣り取りを知らないSさんは、リビングで普段通りに寛いでいた。

私はというと、夜勤の支度をする。

夜勤は1人体制なので、必要な物が多い。

支度をする為に、家の中を歩き回っているので何度か1階の廊下を通る。

【ソレ】への恐怖はSさんが居る事と、徐々に増してくる激しい睡魔によって多少紛れだしていた。

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緊張と恐怖からくる心労がたたり、ゆっくりと限界が近付く。

少しずつ意識が朦朧としだす私は廊下を通る度に、店主に言われた【階段の踊り場】を見れずにいた。

理由は考えたくない。

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だが、今なら言える…あの時、今まで以上に【ソレが居る】と思い知らされていたからだ。

【ソレ】がこちらを凝視していた。

今ならハッキリと、言い切れる…

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私はリビングでテレビを見て寛ぐSさんの近くで怯えながらも、眠りに就こうとしていた。

寝ない事には身体がモタない。

夜勤は14時間拘束・休憩なしといった、なかなかの肉体労働なので尚更だ。

疲れ切っていた為か、入眠してから目覚める迄は、あっという間だった…

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日が沈みだした頃、Sさんに留守を頼み、私は職場へと急いだ。

出勤すると同時に、怒涛の如く業務を投げ付けられるのが私の職場だ。

その為、【ソレ】への恐怖など感じる暇を与えてくれない。

普段は憂鬱でしかない職場だった。

しかし、この時ばかりは過酷な労働環境に感謝していた。

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Sさんには店主の話をしないでおいた。

だから【ソレ】の存在をSさんが無駄に意識する事はない。

私はそう楽観的に捉え、Sさんを【我が家】に独りにしてしまったのだ…

今となっては申し訳ない気持ちと後悔しかない…

あんな事になるとは思ってなかったんだ…

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ゴメンね…

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@ゆっけ-2 さん

コメントありがとう御座います。
頑張って続きをあげます!
読んで頂いてる方がいると励みになります。

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続きが気になって気になってしょうがないです。。更新楽しみにしております。

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