一人の少女は目を覚ました。
カーテンを捲るとそこには青々とした空がきらめいていた。
5月12日。それは母の日だ。
母は、学校で虐められて不登校になり引きこもりとなった私を見捨てずに愛し続けてくれた。
そんな母に感謝をしたい。そう思っていた。
虐めから心を痛め、精神科に通っていたが今では安定剤を摂る量も減ってきており学校にはまだいけないけれども状態はだいぶよくなった。
今日は勇気を持って母には内緒で外出をする。
母に感謝の気持ちとしてカーネーションを贈るのだ。
母が夕方パートへと出掛けた時、私も後をおうように外出をした。
駅の近くにある花屋でカーネーションの花束を買った。
花屋のお姉さんは気さくに私に話しかけてくれた。
世界は私が思っているよりも少しだけ優しいのかもしれないと思えた。
空はすっかり夕暮れの光から真っ赤になっていた。それは、カーネーションのように美しいと思えた。
人目が少ない路地をゆっくりと少女は歩いた。
「あの、すいません。アンケートに協力してもらってもよろしいですか?」
一人の若い男に声をかけられた。どうやら化粧品のアンケートだそうだ。
「すいません。大丈夫です。」
こういうのに関わるとろくなことはない。
少女がまだ不登校になる前に教師から教えてもらった事を思い出した。
「黙ってついてくれば痛い目にあわずにすんだのに。」
男は感情のこもっていない声で無機質に呟いた。
shake
その瞬間鼻の奥がツンとして鼻から生暖かい液がどばどばと流れてきた。
私は状況が飲み込めなかった。
数秒たって私はやっと顔面を殴られたのだと理解した。
視界がぐらぐらと揺れ足は立つのに精一杯だった。
「何をするの?」
その言葉がでる前に次は腹を殴られる。
「ウニョ」っと腹の皮のしたで小腸がうねるのがわかった。
その瞬間、息が上手くできなくなり腹を抱え込むようにして座り込んだ。男はそんな私の首根っこを掴み、アルファルトに引きずりながら私を車へと運んだ。
助けを呼ぼうにも息が上手く吸えなくて掠れた声さえもでなかった。
肉が顔を出すほどに引きずられた足の皮はめくれてしまった。
車の中には二人の男が待機しており私と男が車に乗った瞬間、猛スピードで動き始めた。
車の中でも暴力がやむことはなかった。
手の爪は全て噛み砕かれて、爪が押さえつけていた赤黒い血肉がプクッと膨れ上がった。
腕の関節はパキンっと逆の方向にへし曲げられ赤紫に膨れ上がった。
眼球も徹底的に殴られて視界はクッキリとしなくなり血のように真っ赤な空が彼らの顔を赤黒く照らしていることしか視界からは分からなくなった。
「うぉぉ。テンションあがるな!!」
男達はまるで新しい玩具を買ってもらった少年のようなキラキラとした笑顔を浮かべて嬉々として喜んでいた。
「おい。俺も殴りてぇーから着くまでに殺すなよ。」
運転席から少し嫉妬するかのような幼稚な声も聞こえる。
外に出なければ。外に出なければ。外に出なければ。外に出なければ。
外に出なければ。外に出なければ。外に出なければ。外に出なければ。
少女は勇気を持って外へ飛び出したことを何度も何度も後悔した。
そうだ。世界はずっと私に冷酷だった。私を枯れた葉のように踏みにじったではないか。部屋の中に閉じ籠っていればこんな目には遇わなかったのに。
「お母さん。お母さん。」
私は泣きながら母に助けを求めた。
「おい。こいつ。母さんに助け求めてるぜ!どんだけマザコンなんだよ!」
「お前だって人のこと言えねーだろ。」
助けの求めにたいして返ってくるのはひどく憎たらしい男達の嘲笑だ。
「よし、もう一発!」
そう言って男は思いっきり腹を殴る。その瞬間強烈な吐き気を催され血が混ざった吐瀉物を吐き出した。
「うわ。汚ねーなー。」
それからも彼らの殴嵐がやむことはなかった。しばらくすると車が停まった。ここはどうやら、山のなかのようだ。
三人の男は鉄パイプをもって私の前に立ちはだかる。
もう、これから何が起こるかわかった。
「よっし。はじめー。」
一人の男が合図を出した瞬間男達は鉄パイプで私の頭を何度も何度も殴り始めた。
顔はひどく歪な形に歪んでどんどん原型を崩していく。
皮と肉と骨がどんどん混ざっていくのがわかる。眼球も、歯も、頭蓋も、唇も、脳味噌も、全てがごちゃごちゃに混ざっていく。
いつの間にか首がボトンと剥がれ落ちた。それでも男達の手は止まらない。
男達の鉄パイプには少女の皮や肉、それに頭蓋やその中身もしつこくこびりついていた。
少女の頭はこれでもかと言うほどに滅多うちにされて顔と言うよりはひとつの肉の塊へと姿を変えていた。
その物体はひどく異臭を放ちそれが彼らの気に触れたのか男はさらにそれを足で踏みつけた。
「おいこいつ。カーネーション持ってんぞ。」
車に戻った一人の男が車から言った。
「そういえば。今日は母の日かー。俺カーちゃんに贈るわ。日頃の感謝もあるし。」
「さすがマザコンだな。」
男は冷やかすかのようにいった。
「バカ野郎。母さんに感謝するのは当たり前だろ。」
首のなくなった少女の死体は崖に放り投げて車は山をあとにした。
作者冷奴
だから外には出たくないんだよ。
こんな人間がこの世にはうじゃうじゃといるから。
まあたとえ外にでなくてもこの少女の家に三人の男がずかずかと入って来て
少女を殴り殺す運命なんですけどね。