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中編5
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夏の記憶

実体験です。

私は昔から第六感というようなものが強く、高校生の頃までは自分で見る、見ないと言った調節がうまくできずたくさんの霊体験をしました。

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以前、私がまだ学生の頃

私達家族は何年も幽霊マンションに住んでいました。

最上階なのに毎晩上から子供が追いかけっこをするようなドタドタという足音を聞き、

どの家にも入らず廊下をずっと行き来する足音と影を同じ時間に見かけ、家族仲も悪化の一途をたどっていました。

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そのマンションに引っ越したその日に始めて霊体験というものをした私ですが、

今回は自分の体験の中で一番怖かったお話をします。

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私達家族は毎年夏のお盆の時期に海へ旅行へ行きます。

今でも続いている家族の行事ですが、その年だけは楽しい思い出だけではすみませんでした。

都心から数時間走り、ぐるぐると目の回る独特な道を通り、山道を走って明け方に海に着くと言ったいつものコースで海へ行き

ご飯の美味しいいつもの民宿に宿泊し、2泊3日の海旅行を満喫しました。

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最終日、もう夕方には車に乗って帰宅すると思うと寂しくて私は妹と休憩時間をほとんど取らずに早朝から海で遊んでいました。

天気予報では明日あたり台風が来ると言っていて、波はかなり高く、暑いが分厚い黒い雲が空にあるような天気でした。

私は楽しかったのですが何度も波が高いので注意してください、などの放送が響いていました。

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それでも青い海はとても綺麗でした。

でも、沖の方をみると分厚い雲のせいもあってとても暗く見え、私はけして沖には行きませんでした。

やっと休憩を挟み、昼食をとるために父と母のところへ戻ると父が海の端の山が崖のようになり、したが岩場になっているところを指差して言いました

「昨日、あそこで流されて死んだやつがいるから近づくなよ」

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「え!そうなの!?」「怖ー!」

私と妹はびっくりして、でもそんなに怖いという気持ちもなく半笑いでそんな事を返しました。

「お盆だからな。波も高いし気ぃ抜いてると引っ張られるから、気をつけろよ。」

何でそんな怖いことを意識させるのかと、その時は父にムカついたのを覚えています。

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結局、その後何事もなく海を満喫し、私達は名残おしいながらも帰宅しました。

長い車での移動は毎年の事で慣れており、いつもは寝る事はほとんどなくテンション高いまま帰宅していましたが、その年だけは寝入ってしまい、途中起きた記憶も無いまま家についていました。

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目を覚ました私はすでに自分の部屋の布団で眠った状態でした。

見慣れた天井。冷房が付いているからかしっかり掛け布団もかけられていて

右側の腰の高さあたりには折りたたみの簡易テーブルが置かれている自分の部屋でした。

少し布団から離れた勉強机の上の周りには私の旅行の荷物が置かれ、電気は消えていました

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視線だけで自分の部屋だと確認した私はあまりに部屋が寒いことを感じ、冷房を消そういつも布団横の簡易テーブルの上に置いているリモコンに手を伸ばそうとしました。

でも、私の体は少しも動かなかったのです。

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何度も何度も金縛りを経験した私は、

ちょっとした霊がいても力を込めれば金縛りを抜ける事ができます。でもその時の金縛りはいつも体験するような物とはレベルが違いました。

自分の身体の感覚が無いような、瞬きも出来ず、視界と脳みそしか自分の意識で動かす事が出来ないようなものでした。

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私は頭の中で念仏を唱えました。

いえ、頭の中では叫ぶように唱えていました。何度も私は何種類もの念仏を頭の中で唱えました。

何かが、来る

来ている。

私はそう感じていました。

冷や汗が止まらず、金縛りで動かない体は冷水の中で感覚を失っているようでした。

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ジュシュ

ビチャビチャの毛布を引きずったような音が簡易テーブルのあたりでしました。

瞬間、海の臭いがしました。

爽やかなあの気持ちいい楽しかった海ではなく、ゴミがたくさんたまった海水の水たまりを温めたようなムワッとした臭いが部屋に広がりました。

唯一動かせる視線で自分の体を見ましたが、肩までかけられた布団のせいで殆ど何も見えませんでした

ジュシュ

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また濡れた毛布を引きずるような音がして、布団の上に何かが乗ったように掛け布団が動きました

ヂュッ、グシュ、

その何かが私の右足あたりにある掛け布団を掴みました。

肩までかかっていた布団がずれてそれは見えました。

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青い、緑のような、黄色い茶色い、

ゴミのような、海藻のようなものが付いているのか剥がれた皮膚なのか、

濡れた、溶けたような

ああ、女の人の腕だ。

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グシュ、と音がしてまた視界は布団だけになり、

ひどい耳鳴りの中で濡れた音が聞こえるだけになりました。

一瞬見えたそれを私の頭は女の手だとなぜかわかっていました。

グシュ、簡易テーブルのしたから腕が伸び、布団をゆっくりと掴んだのを認識していました。

グシュ、ゆっくり、ゆっくり、その腕が私の布団を掴み

私の上を登ってきていました。

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ああ、見ちゃだめだ。目を瞑れ!目を瞑れ!!

私は念仏を唱えることも出来ず目を閉じようと必死でした

グシュ、私の肩にかかっていた布団のふちをそれがぎゅっと掴みました

色んな色が混じって溶けたぐしゃぐしゃの指が見えた次の瞬間

目が合いました。

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最後に見たのは濁った目。本当に目なのか空洞だったのかもわからないぐちゃぐちゃの何か

でも私はそれを目だと感じ、目があったと感じ目より下を見る前に気を失いました。

気を失った私が次に目をさますと、もう何かは見えませんでした。

でも、むせ返るような海の臭いに部屋は包まれたままでした。

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夢だと思いたかったけど、温めた汚い海水を上からかけたようなびしょびしょの掛け布団は

起き上がって、電気をつけてシャワーを浴びても消えることなくそこにありました。

私はその後曖昧な記憶の中で布団を捨てて、

父にベッドをねだりました。

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文章にするとあまり怖く無い気もしますが、

あの手を鮮明に思い出せる私には一番怖かった夏の記憶です。

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