大学4年の頃の話。
その日は翌日に卒業論文の提出を控え、友達2人と一緒に研究室で作業をしていた。
深夜1時をまわり終電もなくなった頃、窓の外を見ると雪がちらつきはじめている。
「明日、休校になって提出延期にならないかな」と冗談を話しているときだった
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リリリリリ…リリリリリ…
どこからともなく小さな音が響くのが聞こえた。
「誰か電話鳴ってない?………電話鳴ってるよ!」
「俺じゃない」「違う」
「…そうか」
確かに研究室内で鳴っているというよりは、外で鳴っているようにも聞こえる電話音。
気にせず作業を進めるが、2分3分経っても全く止む様子がない。
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「誰かがスマホ落として探してるんじゃないか?」
「とりあえず電話に出て保管しておいてあげよう」
「…そうするか」
と休憩がてら、外に落ちているであろう電話を取りに行くことにした。
それぞれ財布と傘を持って外に出る準備をし、研究室のドアを開けた瞬間、
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sound:32
リリリリン!!リリリリン!!
明らかにスマホの着信音とは違う電話音が廊下に鳴り響いていた。
「うわっ」
非常口の明かりだけが照らす暗く長い廊下に、異常なまでに大きく鳴り響く電話音。
あまりの不気味さに3人とも一気に表情が硬くなった。
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「…階段の方だな、というか下の階じゃない…?」
さらに表情が硬くなる。
というのも今いる研究室棟は、大学で一番古い研究室棟。
3階建ての研究室棟のうち使われているのは2階だけで、1階と3階は普段誰も使わず、時が止まったように30年以上前の新歓ポスターが貼ったままになっていた。
スマホのライトをつけながら、音をたどるように階段を下りていくと1階出口付近の部屋から音が聞こえる。
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そこは使われていない守衛室だった。
sound:32
リリリィリィン!!リリリィリィン!!
ガラス張りの受付を覗くと、古い黒電話がけたたましく鳴っていた。
誰も使わない部屋、激しく鳴る黒電話。
怖い話のテンプレートのような展開に、怖さというよりは少し興奮を覚えながら友達に聞いた。
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「…どうする?」
「いや、放っておこう」
「でも、とりあえず電話に出た方が良くない?」
「…任せるわ、俺ら戻る」
友達2人は研究室に戻って行った。
この時の心情としては、恐怖と興味が半々といったところ。
今まで怖い話や心霊現象の類は人からよく聞いていたが自分で体験したことは一度もなく、すべて作り話だと思って生きてきた。
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そして、この出来過ぎた怖いシチュエーション。乗ってやろう。
無音電話だったらそれはそれで話のネタになるな。
そんなことを考えながら、鍵のかかっていないドアを開け、電気を点け、恐る恐る電話をとった。
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「…もしもし」
「…………もしもし、○○大学ですか。お世話になっております、〇〇と申します。」
「娘の〇〇が在学中なのですが、まだ帰っていなくて。雪が降っているので心配で電話した次第です。」
電話は50代くらいの女性で心配していそうな様子がはっきりと聞き取れた。
一気に現実に引き戻されたような感覚とともに安堵。
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「すいません、私、実は学生でして…」
と事情を話し、何か自分にできることはないかと娘さんの名前と自宅の電話番号を控え、
改めて別の棟の守衛室から折り返し連絡してもらう約束をした。
電話を切り、名前と電話番号を書いた紙を持って、別の棟の守衛室に行き事情を説明した。
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「〇〇棟の守衛室の黒電話が鳴って、誰もいなかったので自分が出て…」
すると、警備員は不思議そうな顔で
「…あそこの守衛室に……はぁ、なんでかな…とりあえずこちらで対応してみますね。」
と言い、紙を受け取った。
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研究室に戻ると、友達二人が待ち構えていた。
「どうだった!?遅かったじゃん」
「いや、なんか普通の電話だった」
一通りの出来事を話した後は、何事もなかったかのように作業を続けた。
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それから1時間程経った頃、
リリリリリ…リリリリリ…
また聞き覚えのある電話音が聞こえる。
その時にはもう恐さはなく、何かの間違いで大学への電話がここに掛かってくることがあるのだという認識に変わっていた。小走りに階段を降りて、電話に出ると先ほどの女性だった。
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「…すいません、○○と申します。」
「あっ先程の」
「すいません、学生さんですよね。実は守衛さんから折り返しの電話がなくて…」
どうやら、守衛さんから連絡がなく再び連絡したらしい。
論文提出前で時間はなかったが、改めて電話番号と娘さんの名前を聞き、守衛室に走り込んだ。
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「すいません、また連絡があって…」
すると、警備員は
「先ほどから何回もお電話しているのですが、その電話番号は使われていないようでして…」
「いや、ついさっき電話ありましたよ?この電話番号ですよね」
と言って紙を見せると、やはり先程の電話番号と合っている。
「ちょっと自分からかけてみますね」
そう言って自分のスマホからかけると
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。」
とかえってきた。
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聞いた電話番号は確かに合っているはず。おかしいな?と思った時、警備員さんが話し始めた。
「……あの、先程のお名前ですが、○○○○で合っていますか?」
「はい」
「現在、本大学には在籍してないようでして…」
いたずら電話だったのか、そう思ったのもつかの間
「一応過去名簿をたどると、11年前に死亡除籍という形でお名前があります。」
と告げられた。
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一気に話が変わってくる。あまりにも不気味。
「…そうですか。とりあえず研究室に戻ります。」
「わかりました。何かあったらまた来てください。」
そう言って研究室に向かって歩き出した時、
…リリリリリ…リリリリリ
外からでもわかる電話音。さっきとは違い明らかにためらっている自分。
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とてもはっきりした女性の声とは裏腹に、言っている内容は全て矛盾している。
なんだか煮え切らないその電話に、決着をつける思いで守衛室に向かった。
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sound:32
リリリィリィン!!リリリィリィン!!
論文提出前夜、これ以上振り回されてもたまらないのでこれが最後という思いで、
受話器に手を伸ばした瞬間だった、
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sound:32
手が止まる。
けたたましく鳴る黒電話の電話線が足元で切れていたのだ。
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死ぬほど走って逃げた。
何もつながっていない黒電話が鳴る光景を思い出す度に身震いする。
あの日以来研究室には行っていない。
作者カスピ海
実話です。
他の怖い話サイトにも投稿しましたが、最近ようやく人に話すことができるようになりました。
未だに信じられません。