心霊関係ではなく、かつ長くなります。
お暇のある方だけ御覧下さい。
私は平凡なサラリーマンです。
これは大学生だった頃の話です。
現在と変わらず、私は平凡な学生でした。
他の学生と多少異なるのは、カタギでは無い方々との交流が多かれ少なかれあったことです。
中学、高校の同級生が多く所属しておりましたので高校卒業後も交流がありました。
ヤクザと言っても町ヤクザの小さな事務所でした。
地元で大学まで行くのは珍しく、またその様な人間と関わりを持つことは、彼らにとっても変わったことだったのでしょう。
様々なことを聞かれたり、頼まれたりしました。
しかし、彼らも私に対して気を遣ってくれていたのでしょう。
危険なこと、犯罪に荷担することは絶対に頼んできませんでした。
この話は、その頼まれごとの中で、彼らと関わりごとをもたなくなる原因となったものです。
夏のある日、私は友人Sに電話で事務所へ呼び出されました。
「頼みごとがある」とのことでした。
いつものことなので、「また、麻雀のメンツが足りないのかな」などと考えながらも商店街の事務所へ向かいました。
事務所に入るとなにやらものものしい雰囲気でした。
これと言って変わったことは無いのですが、雰囲気が異様でした。
いつものバカ笑いもどこかもやもやとした感じがいたしました。
別室に通されるとSが神妙な面もちでソファーに腰かけていました。
「来たか…急かしちまって悪いな。
かけてくれ。
」私は対面に座りました。
「頼みごとって何だよ。
急に他人行儀になって、どうした」「ああ、これ、お前はこれをどう思う」テーブルの上には便箋がおかれており、一部が小さく盛り上がっていました。
盛り上がり方から、それが小さな箱みたいなものだと推測できました。
「そう言われてもな。
取り出しても良いか」彼は少し黙った後、口を開きました。
「開けても良いが、責任はとれねぇぞ…開けるなら事務所から出て開けてくれ」臆病な私はその言葉を聞いて、開きかけていた手を引っ込めました。
「怖いこと言うなよ。
爆弾かなにかなのか」「いや、違う。
そういった危ねぇものじゃないってことは保証する。
薬とか犯罪がらみのものでもねぇ。
今日頼みたいのはこいつを○○駅のロッカーに入れて、その鍵を△△駅のロッカーに入れて、その鍵をここに持ってきてもらいてぇんだ」Sは終始俯き加減で話していました。
「いや、正直断りたいのだけど」「お前のこの商店街でのツケをちゃらにしてやる。
あとは麻雀で負けてる分もだ」この言葉に私の判断は狂わされました。
易々と了承してしまったのです。
事務所から出て、駅へ向かう道すがら、私は好奇心に負け、便箋を開きました。
中には子供の拳より少し大き目の木箱がはいっていました。
木目が浮き出ており、幾つもの部品で組み合わさっていました。
「珍しい細工だな」そう思い、取り出そうとした時、今までに感じたことのない悪寒が背筋を走りました。
誰かに背中を鷲掴みにされた様な感覚でした。
一瞬で着ていたワイシャツは冷や汗で不快なものとなりました。
「これは持っていてはいけないものだ。
見るのも忍び難い」そう思い便箋の口を難く閉じました。
途中何度も、道端に捨てて逃げ出そうと考えました。
最寄りの駅に着き、電車を乗り継ぎ、○○駅に到着しました。
電車の中では、何かが背中にべったりと張り付いている感覚を始終感じており、呼吸が乱れていました。
「やっと解放される」その一心でロッカーに便箋を入れる時に、私は便箋の上から箱を触ってしまいました。
天地が返り、地獄の釜が開いたのではないかと思うような絶望感、直後に全てを失ったかのような虚無感にかられました。
頭の中に、何かが投射されている。
それを述べることはできませんが、とてつもない絶望をそのまま絵画に描写したようなものでした。
膝から崩れ落ちそうになるのをこらえ、必死にその場から離れました。
しばらくは何も考えられず、△△駅に行くことも忘れ、気付くと家に着いていました。
翌日△△駅に行き、鍵をロッカーに入れて、事務所に届けました。
事務所の雰囲気はまたいつもの通りに戻っており、Sもまた、普段通りになっていました。
私は鍵を渡すと会話もろくにせず、そそくさと事務所を後にしました。
これ以降私は彼らとの交流を断絶いたしました。
領分を弁え付き合っていたので案外あっさりと断てたものでした。
あの箱は一体何だったのでしょうか。
そして、駅のロッカーに入れた目的は譲渡だったのでしょうか。
でしたら、誰が、何の目的であれを欲していたのでしょうか。
宅地開発で駅の模様はすっかりと変わり、郊外型ショッピングモールの煽りでゴーストタウンと化した商店街。
今となっては確かめる術はありません。
ただ、あの箱は人が持っていてはよろしくないものだったのだろうと思います。
作者タラちゃん