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長編8
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自販機と少女

もう三十年近く前の事、私は京都の某大学の四回生で、風呂なしトイレ共同の安アパートに住んでいました。

だから、風呂は近所の銭湯を利用していたのですが、そこで不思議な体験をしたので投稿します。

実を言うと、この話は絶対他人には洩らさない、とその銭湯の親父と約束したのですが、もういい加減昔の事だし、今現在その銭湯が営業しているとも思えないし、(それくらいボロだった)まあ、いいでしょう、ということで。

 ある夜、九時頃だったか、いつものように銭湯で汗を流し《ゆ》と書かれた暖簾をくぐるとジュースの自販機が出口をこうこうと照らしていました。

(あれ、こんなとこに自販機あったっけ?)(今まで何回ここに通ったかわからないくらいなのに)私は一瞬、不審に思いましたが、喉が渇いていたこともあり、缶コーヒーを一本買いました。

すぐに蓋を開け、口に流し込もうとしたまさにその時、ありえない異臭に気付いたのです。

見ると、その缶は既に錆がきていて、自販機の灯りで中を覗くと、中身は既に醗酵しており、腐りきっていたのです。

すぐに暖簾をくぐり、番台の親父を怒鳴り付けました。

「保健所に言うぞ!」その時の親父の困ったような表情は今でも忘れません。

「そんな筈ないんですが」親父は一言そういうと、番台を離れ外に出ました。

(言い訳でもしようものならぶんなぐってやる!もしあれを飲んでたら!!)私はもう完全にキレる寸前で後に続きました。

ええ!!!?私は目を疑いました。

 親父が百円ライターで照らした自販機は、もはやそれと呼べない程オンボロで灯りもなく真っ暗なのです。しかも、コインの投入口にはガムテープが貼ってあり、缶コーヒーなど買える筈ないのです。さらに驚いた事には、裏側の電気コードは完全に切られており、幾重にも巻かれていたのです。「・・・」ただただ沈黙を続ける私に、親父は「ちょっと待っとき」と言って、中に入って行きました。そして、すぐ出て来ると「今夜はこれで、なんも聞かんと帰ってや」と私に一万円札を握らせたのでした。

 アパートに帰った私は、貰った万札を眺めながら(何で金くれんねん、おかしいやろ)と、あの親父に問いただしたい気持ちで一杯でした。しっかり受け取っておきながらなんですが、あの時親父がシカトしたって、私には何も言えなかったはず。「夢でも見たんでしょう」と笑われても黙って引き下がるしかなかったのに・・・

 でも、次の日から毎日のように銭湯に通っていながら、番台に座っている親父に、その理由を聞くことはしませんでした。せこい話ですが、「なら、あのお金返して」と言われるのが怖かったのです。貧乏学生には一万円は大金でした。気になりながらも、数か月が過ぎ、卒業の日を迎えることになるのです。

 卒業式の夜、私は、銭湯に行き、親父に、駄目もとで聞いてみよう、と決心しました。このまま京都を離れたら、あのことが気になって、一生胸のもやもやが、晴れないーそれが、わかりきっていたからです。

 夜九時、いつものように番台に座る親父に、私は疑問をぶつけました。親父の返答は、あまりにも短く、そして以外なものでした。「お礼です」私は、当然、「どういう意味ですか?」と、少し怒気を含めて聞いたのですが、「そのうちわかります」と、なんというか、仏様のような笑顔で答えるのです。それ以上は、何を言ってもただ微笑んでいるばかりで、一言も喋りません。(こいつもしかして狂ってる?)私が(たぶん)呆れかえった顔をした時、親父が笑うのをやめて、こう言いました。「ここで起きた事は誰にも話さないと約束できますか?」私は、いうまでもなく頷きました。

 「じゃあ、今ここで話すわけにもいかないし、そんな内容でもないから、引っ越し先が決まっているのなら、手紙を書いてお送りしましょう」いつもは、ばりばりの関西弁を使う親父が静かに標準語でそう言うと、紙切れを一枚差し出したのです。

私は何故か厳粛な気持ちになり、その紙に、実家の住所と姓名を書いたのでした。

 手紙は帰省して二週間後に届きました。

その内容は、はっきり言って、霊の事など考えたことすら無い私にとって、まさに青天の霹靂でした。

 かいつまんで言うと、こんな内容でした。

 あの親父には霊感が多少あるらしいこと。

例の自販機には小学三年の少女が取り憑いていた事。

その少女は一家心中の犠牲者である事。

事件が起きるかなり前から、両親は毎日のように喧嘩ばかりして、家庭は悲惨このうえない状態だったらしいこと。

少女には中学二年になる兄がいたこと。

そして少女の一番の楽しみは、罵声の絶えない家を抜け出して、大好きな兄と銭湯に行き、お兄ちゃんに、あの自販機でジュースを一本買ってもらい、二人で分け合って飲む時だったこと。

 少女は、父親に殺された時、熟睡していた為、自分が死んだという事実に気付かないで朝を迎え、自分を含めて家族全員が血まみれになっているのを見て愕然としたこと。

(お兄ちゃんに会いたい!)と思った瞬間、あの自販機の前にいたこと。

などが、あの親父が書いたとは思えない達筆で記されていた。

 親父はそれらのことを、私が、腐った缶コーヒーを持ち込んで猛抗議した瞬間から、ほんの何十秒かで、少女から受け取ったそうです。

実はそれまで、自販機の前に少女が立っているのがたまに見えてはいたものの、会話ができる程の能力が無かったがために、ただただ、不気味に思っていたらしいのです。

そして、たまに霊感のある銭湯の客が「なんか、自販機の前を通ると寒気がする」などと言ったりして、迷惑だとしか思っていなかったそうです。

自販機が、古くなって、一度、新しいのに替えようとしたことがあったが、その自販機を動かそうとした業者が「自販機から、血のようなものが流れ出した」と言って交換を断られたこともあったそうです。

ただ、その親父には、少女に見覚えがあったそうで、ただ、どこで会った娘なのか、どうしても思い出せずにいたそうです。

少女の思いが洪水のように親父の心に流れ込んでくる中で、ああ!あの仲のいい兄妹のいもうとさんだ!と、わかった時、胸が一杯になって、涙があふれそうだったから、とりあえず、一万円を私に渡して、私に帰ってもらったのだとも書いてありました。

そして、「お礼です」と言った意味、それは、少女から、はっきりと聞いたそうですが、「お兄ちゃんに会いたくて会いたくて待ち続けたたけど、いつまで待っても会えなくて、寂しくてたまらない、わたしは、この人(私)をお兄ちゃんだと思ってついていく」と。

 親父さんには、少女がそう考えた理由が瞬時にして理解できたそうです。

その娘の兄の顔が、私にそっくりだと言うのです。

 その心中事件は、その時から、10年以上も前に起きました。

その兄妹は、近所でも仲がいいと評判で、事件を知ったとき、親父さんは二人のいつも使っていた、下駄箱に花を活けて、しばらくは、他の人に使わせないくらい兄妹のことを気にかけていました。

なにが謎って、あれほど二人のことばかり考えていたのに、自販機の前に少女が立っているのが見えた時、あの娘だと気付かなかったのが、一番謎だとも書いてありました。

 しかし・・・ということは、私に少女の霊がとり憑いているってこと?手紙を読み進む内に私は、段々気味悪くなってきました(当然です!!)しかし、親父はそんな私の不安を見透かしているかのように、手紙の最後にこう結んでいました。

その少女は悪霊では決してない。

あなた(私)のことを守ることはあっても、悪い影響を与えることは、絶対にないーと、断言しておきます、と。

そんなこと言われても・・・・

 それからもう30年近く経ちます。

その間、私についているらしい少女が、幽霊として、私の前に姿を現したことはありません。

ただ、ぶっちゃけ、自分の行動が制限されていたことは、否めません。

小学校3年生の女の子が憑いているんだから、アダルトビデオはまずいかなーとか、女性と付き合っていても、少女が見てるのに、エッチはないだろうーとか思って一歩前に踏み出せず、結局振られたりして・・

おかげで、今も独身です(汗)。

でも、一月前、こんな夢を見ました。

私が、会社のデスクで書類に目を通していると、一枚、最初から最後まで、ありがとう、さようなら、ありがとう、さようなら、と埋め尽くされた紙があり、最後に、●●子と書かれていました。

その名はまさに、親父から聞いていたその少女の名前でした。

でも、使えない筈のボロ自販機が、なんで一瞬蘇ったのかは、謎のままです。

(終わり) 

 このことを書こうか、どうしようか、迷っていますが、まだ独身ということで、話は終わってしまっているので、書く事に決めました。

自販機の件から、30年近く(実際は25年)、少女の姿を見ることは無かったと申しましたが、確かに見たことはありませんでしたが、気配は常に感じていました。

怖いという感じは全くなく、私もその少女のことを、本当の妹のように、考えていましたので、例えば、格闘技の試合が観たかったのを、チャンネルをドラエモンに替えたりして、いろいろと、私なりに苦労しました。

少女の前でエッチなんてと、面白おかしく書きましたが、他の女性を好きになったら、少女が寂しがるだろうなーというのが、本音でした。

それがなんと、当時付き合っていた女性から、昨日の朝、電話がかかってきたのです。

夢の中に、会ったことの無い少女が毎日現れ、私に電話して、電話して、と話すのだそうです。

彼女のいうことには、その少女は、とても小学3年生には見えず、高校生くらいに見えたそうですが、あまりに毎日出てくるので、私の実家の電話番号を調べて、テレしたとのことでした。

 彼女は私のことを、愛していたそうですが、はっきりしない私の態度に、このヒトもしかして、おかま?強度のマザコン?などと疑うようになり、「分かれましょう」という電話をかけたのですが、私の「分かれないでくれ」という電話を待っていたそうです。

なのに、まるで音沙汰なし。

ついにぶちきれて、何度か男性と付き合ったのですが、その度に向うから、「なんか、気味悪い」というようなことを言われ、うまくいかなかったそうです。

 私は、もうとっくの昔に、結婚しているものだとばかり思っていましたので、彼女がまだシングルだということに、まず驚きました。

そして、正直、飛び上がるほどうれしかったです。

 彼女にはもちろん、あの少女のことを話しました。

彼女自身、おかしな夢をなんども見ているので、すぐ信じてくれました。

 私たちは今年の秋には、結婚したいと思います。

あの少女は、私が必要以上に気兼ねしているのを知っていたんでしょうね。

合掌

 みなさん、わたくしの、おかしな話に長々付き合って頂き、ありがとうございました。

なにぶんかなり昔のことなので、思い出し思い出しの作業で、本文もとぎれとぎれになってしまい申し訳ございませんでした。

じゃあ、さよなら♪ 

怖い話投稿:ホラーテラー のりりんさん  

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面白かったです!
女の子が幸せでありますように
(-人-)合掌

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