ぼくは、山陰の地方都市の、30室程度の旅館で、フロントをしている。当館は、どちらかというと、年配の客が多く、その中で、一月に一回はお泊りになる、河村というおじいちゃんがいた(今はもう亡くなっている)。もう、90近いおじいちゃんで、老紳士というイメージがピッタリの優しい人だが、その方から、戦争時代の、恐ろしい体験を、聞いたので、ここに投稿する。
当時、日本は、満州国建設に沸いていた頃で、戦争に負けるなど、露ほども疑っていなかったらしい。河村さんは、東京で医者をしていたが、破格の待遇で、満州に呼ばれたのだとか。
その頃の日本軍は、まさにやりたい放題で、村の若い女を強姦するのは当たり前、遠くに逃げる子供に銃を向けて、当てた方が煙草を貰うなどという賭けを、平気でしていたそうだ。
とうの河村さんも、それらのことを悪びれずに話す兵士の会話を、普通に興味深く、聞き入っていたというから、驚く。 河村さんのいうには、戦地に行けば、殆んどの人間がそうなるものらしい。
ある日、前線にいる衛生兵から、奇妙な連絡を受けた。おかしな死に方をした兵士が、続々と運び込まれているーと。
聞くと、銃で撃たれたという、いわば普通の死体はわずかで、銃剣で自らの目玉を抉り出し、あげくに喉を突いて出血多量で死んだ者。自分で自らの舌を引き抜いて、大声で叫びながら、崖から飛び降りた者、一人にいたっては、なんと口から長い髪の毛を溢れさせ、窒息死していたという。
その部隊の兵士は、口々に「呪いだ、呪いだ」と、おびえきっており、任務を果たすどころの話じゃないそうだ。
ー以下衛生兵が兵士から話ー
ある村にたどり着いた一行は例によって、非道の限りを尽くしていた。そして、村人の中に、もういつ生まれてもおかしくないくらい腹の膨らんだ妊婦を発見したらしい。
小隊長(以後隊長)は五人がかりで、その女を床に縛りつけ、「おい、〇〇、こいつの醜い腹をかっさばけ」と、命令した。隊長命令に背けば即銃殺だ。名指しされた〇〇は、隊長に渡された日本刀で、泣き叫ぶ妊婦の腹を真横から振り下ろした。
あふれ出る真っ赤な体液の中、赤ん坊の泣き声がとぎれとぎれに聞こえた。そんなおぞましい光景を、兵士は殆んど皆、笑いながら見ていたらしい。
隊長は、今度は、少し気の弱いところのある●●を名指しして、「うるさいから赤子をつまみ出せ」と、スコップを差し出した。●●は、「それだけは勘弁して下さい」と土下座したが、●●のあごを蹴り上げ、「この根性なしが」とののしると、殴る蹴るを繰り返した。 突然、なにを思ったか●●は立ち上がり、妊婦のところへ駆け寄ると、血海の中に腕を突っ込み、「これでいいんだろう」と叫んで、何かを取り出した。それは、頭が異様に大きな赤ん坊だった。そして、驚く事に、目を大きく開けていたのだという。そして、「ウミヤー」(そう聞こえた)と叫んだ。
隊長は「気色悪い」とその赤ん坊の頭をスコップで殴り付けた。持っていた●●の顔が血しぶきに染まる。●●は、赤ん坊を放り投げると、大笑いしながら、その大きな頭をサッカーボールのように思いっきり蹴った。嫌な音をさせて宙に舞ったそれは、皆の見ている前で・・・消えた。
声を発するものは、誰もいなかった。沈黙を引き裂いたのは、●●の絶叫だった。
「ウヒヤー」彼は、聞いた事もないような奇声をあげると、前のめりに倒れこんだ。彼は、両手を口でふさいでいたが、指の間から、髪の毛のようなものが、流れ出ていた。あまりのことに、誰も助けようとしない。兵士がいうには、最初の、呪いの犠牲者だった。
衛生兵の話は、突拍子もないものだったが、河村さんを支配したのは、疑惑よりも恐怖だった。髪の毛が体内に発生し、人を殺すことがあるだろうか?-そんな医学的な関心は、一切、湧かなかった。
とりあえず、ここから離れないとー河村さんは、若い衛生兵に「もう戻るな、一緒に日本へ帰ろう」と言い、彼を兵舎の裏山へ連れて行き、「治った後も気の触れたふりをしていろよ」と囁くと、拾った石で、思いっきり殴った。そして、叫んだ「誰かー来てくれー!」
「今、日本で起きているさまざまな、猟奇事件のうち、多くが、中国人の恨みと関係しているんじゃないかと、わしは思う」河村さんは、ふーとため息をついた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話