私が数年前、小学4年生だった頃に実際に体験した話です。
当時、私達の間では『学校の怪談』と言う本が流行っていました。
小学校低学年向けの本です。
冬の近づいた肌寒いある日、私達がそれを読んでいると、『トイレの花子さん』についての内容が書かれていました。
ありきたりな、皆さんもご存知のお話です。
それを読み終わってから、クラスのリーダー的存在であるAが言いました。
「皆で花子さんを呼んでみない?」
案の定、一緒に読んでいた子達は賛成とばかりに手を挙げました。
私も好奇心から手を挙げました。
その日の放課後。
とは言っても小学4年生の放課後の時間はとても早いものです。
外がとても明るかったのを覚えています。
私達は3階のトイレに集合しました。
揃った人数は私を含め、5人だけでした。本を読んでいた時は、10人近くいたのですが、途中で怖くなったのでしょう、数人は私達に何も言わず帰ってしまっていました。
言い出しっぺのAは、そんな事お構い無しで集まった5人に最終確認をするように言いました。
「私が3回ノックするから、皆が『花子さん、遊びましょっ』て言ってね。」
私達は頷きました。
いよいよ3回のトイレへ入りました。
女子トイレと言うこともあり、ピンクで統一された清潔感漂うトイレでした。
一直線に整列したトイレの一番奥、突き当たりに大きな磨りガラスの窓がありました。
実は、私達の学校は建て直されたばかりでとても綺麗な学校でした。
トイレにはもちろん、肝試しをするようなムードは一切ありませんでした。
Aは私の腕を引いて、3番目のトイレのドアに立ちました。
「やっぱ一人じゃ怖いから杏も一緒にノックして」
クラスのリーダーである女の子に、逆らえるはずがありません。怖がりながらも、私はAと一緒に3回ノックしました。
コンコンコン
はーなこさんっ遊びましょっ
返事はもちろんありません。ほっと胸を撫で下ろしましたが、少し残念な気もしました。
「つまんない!」
Aは不満を漏らしましたが、他の子達は明らかに安堵の表情を浮かべていました。
「もう1回、やるよ!」
Aが怒った声で言いました。私はその瞬間、ぞわっと、言いようもない寒気を感じました。
トイレの磨りガラスの窓を見ると、完全に閉まっておらず、風に開いたり閉じたりしていました。
冬も近かったので、その冷たい風が私を冷やしたのだと思い、その窓を閉めました。
「寒くなってきたし、帰らない?」
私がそう言った瞬間でした。
バァン!!!
とても大きな、攻撃的な音がトイレに響きました。
皆、硬直しました。
音のした方向は直ぐに分かりました。
私が閉めたばかりの窓からしたのですから。
思わず、私は振り返りました。
そして、自分でも驚くぐらい、絶叫しました。
磨りガラス越しに、何かが、居たんです。
私の叫び声を聞いた他の子達は、叫び、泣き、腰を抜かす子さえいました。
皆、窓に視線を注いでいました。
その窓に張り付いていた何かは、人間のようにも見えました。
丁度、四つん這いになるような格好で…。
その時本当に、磨りガラスで良かったと思いました。直で見ていたら、きっと私達は逃げることが出来なかったと思います。
「早く逃げるよ!」
そう声を出したのはAでした。
叫び声をあげはしたものの、他の子達に比べてまだ余裕のあった彼女は、腰の抜けた子を引きずるようにトイレから逃げました。
私も、泣く子達と一緒にトイレから出ました。
誰も振り返りませんでしたが、窓に差し込む光がその何かの影を床に映していました。
その日、皆は一緒に帰りました。帰り道では一切トイレの話はせずに、ただ黙々と歩きました。
最近、とある方にこのことを相談したところ、あの日、私達が見たものは花子さんではなく、そこらに浮遊していた霊だろう、と教えて頂きました。
そして、あの時私が感じた寒気は、私を守ってくれている守護霊(?)の仕業だそうです。
幽霊は窓を通過できないのか?と尋ねたところ、私が窓を閉めた事に意味があるのだ、と仰いました。
あの時、窓を閉めていなければ……。
怖い話投稿:ホラーテラー 杏さん
作者怖話