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中編3
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磨りガラス

私が数年前、小学4年生だった頃に実際に体験した話です。

当時、私達の間では『学校の怪談』と言う本が流行っていました。

小学校低学年向けの本です。

冬の近づいた肌寒いある日、私達がそれを読んでいると、『トイレの花子さん』についての内容が書かれていました。

ありきたりな、皆さんもご存知のお話です。

それを読み終わってから、クラスのリーダー的存在であるAが言いました。

「皆で花子さんを呼んでみない?」

案の定、一緒に読んでいた子達は賛成とばかりに手を挙げました。

私も好奇心から手を挙げました。

その日の放課後。

とは言っても小学4年生の放課後の時間はとても早いものです。

外がとても明るかったのを覚えています。

私達は3階のトイレに集合しました。

揃った人数は私を含め、5人だけでした。本を読んでいた時は、10人近くいたのですが、途中で怖くなったのでしょう、数人は私達に何も言わず帰ってしまっていました。

言い出しっぺのAは、そんな事お構い無しで集まった5人に最終確認をするように言いました。

「私が3回ノックするから、皆が『花子さん、遊びましょっ』て言ってね。」

私達は頷きました。

いよいよ3回のトイレへ入りました。

女子トイレと言うこともあり、ピンクで統一された清潔感漂うトイレでした。

一直線に整列したトイレの一番奥、突き当たりに大きな磨りガラスの窓がありました。

実は、私達の学校は建て直されたばかりでとても綺麗な学校でした。

トイレにはもちろん、肝試しをするようなムードは一切ありませんでした。

Aは私の腕を引いて、3番目のトイレのドアに立ちました。

「やっぱ一人じゃ怖いから杏も一緒にノックして」

クラスのリーダーである女の子に、逆らえるはずがありません。怖がりながらも、私はAと一緒に3回ノックしました。

コンコンコン

はーなこさんっ遊びましょっ

返事はもちろんありません。ほっと胸を撫で下ろしましたが、少し残念な気もしました。

「つまんない!」

Aは不満を漏らしましたが、他の子達は明らかに安堵の表情を浮かべていました。

「もう1回、やるよ!」

Aが怒った声で言いました。私はその瞬間、ぞわっと、言いようもない寒気を感じました。

トイレの磨りガラスの窓を見ると、完全に閉まっておらず、風に開いたり閉じたりしていました。

冬も近かったので、その冷たい風が私を冷やしたのだと思い、その窓を閉めました。

「寒くなってきたし、帰らない?」

私がそう言った瞬間でした。

バァン!!!

とても大きな、攻撃的な音がトイレに響きました。

皆、硬直しました。

音のした方向は直ぐに分かりました。

私が閉めたばかりの窓からしたのですから。

思わず、私は振り返りました。

そして、自分でも驚くぐらい、絶叫しました。

磨りガラス越しに、何かが、居たんです。

私の叫び声を聞いた他の子達は、叫び、泣き、腰を抜かす子さえいました。

皆、窓に視線を注いでいました。

その窓に張り付いていた何かは、人間のようにも見えました。

丁度、四つん這いになるような格好で…。

その時本当に、磨りガラスで良かったと思いました。直で見ていたら、きっと私達は逃げることが出来なかったと思います。

「早く逃げるよ!」

そう声を出したのはAでした。

叫び声をあげはしたものの、他の子達に比べてまだ余裕のあった彼女は、腰の抜けた子を引きずるようにトイレから逃げました。

私も、泣く子達と一緒にトイレから出ました。

誰も振り返りませんでしたが、窓に差し込む光がその何かの影を床に映していました。

その日、皆は一緒に帰りました。帰り道では一切トイレの話はせずに、ただ黙々と歩きました。

最近、とある方にこのことを相談したところ、あの日、私達が見たものは花子さんではなく、そこらに浮遊していた霊だろう、と教えて頂きました。

そして、あの時私が感じた寒気は、私を守ってくれている守護霊(?)の仕業だそうです。

幽霊は窓を通過できないのか?と尋ねたところ、私が窓を閉めた事に意味があるのだ、と仰いました。

あの時、窓を閉めていなければ……。

怖い話投稿:ホラーテラー 杏さん  

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