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中編7
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足りないよ

昔のことだよ。…若気の至りってヤツさ。ただ、気をつけた方がいい。何事にも危険が伴うんだって。

俺の地元は、田舎過ぎない田舎と言うべきか、大都市の隣の街だったんだよ。大通りをそのまま進んで行けば名古屋のビル群が、反対側に行けば日本アルプスが広がってる。そんな街。

中学1年だか2年生だか忘れたけど、夏休みだったのは覚えてる。さっきも言った通り、うちの地元は山がすぐ近くにある都会といった感じなんだわ。そんなだから、よく友人たちと山へ虫取りに行ったり、唯一近場にあったゲーセンに、わざわざ3、4キロも自転車漕いで遊んだりしたんだよ。

それこそ当時なんて今みたいにゲーム機がある訳でもなく、金持ちかモノズキが持ってるような代物で、基本は男女ともに外に出て日焼けしながら遊んでたんだ。

…話が逸れたな。で、暑さがピークに達した頃も、俺と友達たちは山で遊んでたんだわ。今思うと、熱中症とか危なかったんだろうな。

それで、その日も山の中腹まで行ってクワガタ取りに行ってて。成果が1匹もない珍しい日だった。

「今日ついてねえなー」みたいな感じにみんな言ってて、それでいつもは通らない獣道を通って、新しい穴場でも見つけれんかなとか思って薮を進んだ。

結局、2時間近く探してもクヌギの木の1本すら見つからず、絶え間なく降り注ぐ暑さにイライラも溜まってきて帰ろうってことになったんだよ。

で、自転車を押して帰る道中…1人が、岩のゴツゴツした壁面を指さして叫んだんだよ。

「おい!洞窟あるぜ!」って。

俺達も興味津々で、全員で指さす方向に向かって歩いていくと、確かに洞窟っぽい穴が空いてた。直径2mちょっとぐらいで、楕円形に近い入口。普段通らない道だから、気が付かなかったんだ。

中は暗くて見えなかったけど、俺達は夕方に家に帰るなんてざらだったから、暗くなった時用に懐中電灯を一人一つ持参してた。で、全員で中を照らすと、思ったよりも深そうだった。入口は2m でも、中に入るともう少し広い空間が広がってそうな雰囲気だった。

全員、同じことを思ったんだと思う。まだ時間は昼の3時ぐらいだし、親には遅くなるかもしれない事を伝えてある。…馬鹿な話だけど、救急箱も持ってってた。準備は万全って訳。

洞窟見つけたヤツが「中、入らない?」と言い出すと、全員二つ返事で頷いた。

でも、やっぱり怖いわけよ。いくら田舎のガキンチョでも、こんな状況初めてだし。なんなら、俺お化け屋敷すら入ったことなかったんだ。そんなわけだから、俺はめっちゃ鳥肌立ってた。形容できない怖さがあった。…「もしかしたらマジでやばい幽霊とか出るんじゃ」ってね。

それで、自転車を入口脇に止めると、全員で1列になって洞窟に入っていった。中はひんやりしていて、「次からはここで休憩しようぜ」なんて言い出すやつもいた。

3〜4mぐらい進むと、10m×10mぐらいの灰みたいな砂が敷きつめられた広い空間があった。その日は4人で遊んでたんだけど、その人数分の懐中電灯で照らしてもまだ暗いぐらいの空間。

そこはひんやりと言うよりかは寒いぐらいに冷えていて、鳥の声とか息遣いが凄い反響して全身鳥肌だらけだった。

もうそれだけでも不気味だろ?皆も薄々怖くなったのか、チラチラと背後の出口を見ている。かく言う俺も、俺たちの足跡の続く背後を洞窟に入った瞬間からずっと見ていた。

耐えきれなくなった1人が、来た道を戻った。皆も後に続いた。

…で、出口まであと少しってところで、急に先頭のやつが歩みを止めたんだよ。正直、いきなりだったから心臓が飛び出るんじゃないかってぐらい、こっちが驚いたね。

皆も怒り心頭って感じで、先頭のやつに怒鳴るんだよ。でも動かない。皆気が動転してて、早く洞窟から出たいのに、動かない。

「早く行けよ」ってみんな叫んでたんだけど、先頭のやつが話し始めた。

「後ろに何人いる?」って。

一斉に後ろを振り返った。俺が最後尾だったから、俺から後ろには誰もいない。懐中電灯で照らしても、やっぱり何も無い。

友人のひとりが「なんにもねえじゃねえか!怖いこと言うなよ!」って叫んだ。…まあ、当然だよな。

そしたら、地面を凝視してた先頭のやつが「足跡が…」って言って、やっと歩き始めた。俺達もう全員気が気じゃなくて、陽の光を浴びると膝から崩れ落ちた。

結局、その日は全員、日が暮れる前までには家に帰った。

先頭の友人は何を見たのか、皆気になってたはずなのに誰もその事を口に出すことはなかった。

俺は帰ってから先頭を進んでたやつに電話をかけた。

「おい、あの時何があったんだよ」って俺が問いただすと、電話相手はもごもごしながらやっと言い出した。

あの洞窟と入口の周辺は、地面が灰みたいな目の細かいグレーの砂で覆われてて、靴跡がはっきり見えたんだと。俺達3人はそんな事には気づかなかったけどな。

で、洞窟を出る時、ふと地面に目を落とすと、靴跡が見えたんだ。入口から中へと続く、つま先が洞窟内を向いている足跡が4組。

でも、そんな靴跡の中に、1組だけおかしな足跡があったんだ。パッと見は足跡なんだけど、なんか周りと違って見えたらしい。で、立ち止まってみた、と。これが、そいつが立ち止まった理由。

それで、よく目を凝らして見ると…それは裸足の足跡だった。俺達は山の中で遊ぶから靴は絶対必須。でも、誰か暑くて靴を脱いだのかなと思ってまた進もうとしたんだけど、まだおかしな点に気づいた。

でも、そこまで言うと友人は黙ってしまった。俺は、何となく薄々気づいていながらも、勇気を振り絞って聞いてみた。

「何があったんだ」。俺が人生1勇気を振り絞った瞬間だよ。就職面接のときですらあそこまでは緊張しなかったからな。

5分…いや、10分かな。震える声で、友人は言った。

「…その足跡、俺達4人の靴跡の1番上についてて、洞窟の外に向かって付いてたんだよ。だから、あの時後ろに何人いるって聞いたんだ」

つまり、中へと続く反対側…外に向かって付いてたんだ。…俺たちが通り過ぎた後に。先頭のやつが入口へ戻るまで、誰も外に出てないのに。

「…しかも、その足跡、外にまで続いてて…俺たちが来た方向…家の方向に向かって進んでたんだよ…」

それを聞いた瞬間、俺は泣き出した友人の声がする受話器を勢いよく戻すと、親のいるリビングに向かって走った。勢いよく扉を閉めて、カーテンも隙間が無くなるくらいぴっちり締め切った。隙間は、閉じれるところは全部閉めてできるだけ少なくした。

親は俺を見て怒ったけど…だって、俺たちのいる方向に向かってきてるんだぜ。怖いに決まってるだろ。

その日は、無理言って親と同じ部屋で寝た。風が強く吹く日で、夜風が窓をガタガタ鳴らすその度に俺は起き上がって泣きそうになった。結局、その日は何も起こらなかった。

後日、俺達は恐ろしくなりながらもその途中の道まで行った。塩を持って、近所の寺で貰った御札も持っていった。神社の水も水筒に入れていった。

もし、その足跡の正体が神様だったら、謝ろうって。地元には山神様の祟の昔話もあったから、もし祟られようものなら家族にまで危害が及んでしまう。それだけは避けようと、全員で話し合って行ったが、1人は緊張で飯を戻してしまった。

洞窟のある山道まで来て…でも、流石に洞窟の中まで行く勇気はなかったから…洞窟から数メートル離れた場所で全員横並びした。

そして、「すいません、もし神様でしたら、非礼を許してください。悪気はなかったんです」みたいな文章を、俺が代表で言った。謝罪の手紙もしたためて、その場所に置いた。効果は分からないけど、御神酒も置いた。

全員で目をつぶって、洞窟に向かってお辞儀をした。

そしたら…ザッザッザッ…って。足音。全員それが聞こえたのか、静かになって周りの蝉の声だけが聞こえた。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」って、先頭を進んでた友人は小さく呟いていた。暫く足音は続いてたけど、数分したら足音が止んで。それで、全員同時ぐらいに顔を上げた。

目の前にあったはずの御神酒と手紙は消えてなくなっていた。許してくれたのかな…なんて思っていると、また足音が聞こえた。

でも体は動かなくて…いわゆる金縛りってヤツ。それで、もう目から涙がボロボロ流れた。恥しい話だけど…多分、ちょっとチビってたと思う。

足音は前から聞こえてきていて、それに合わせて小さなモノが地面に浮かび上がってた。…そう、足跡。先頭のやつが見た、あの裸足の足跡。本体の体はなくて、足跡だけが近付いてくる。しかも、よく見ると周りにも俺たちを囲むように足跡が浮かび上がってるんだよ。

だんだん足跡と足音は近づいてきて、足跡は俺たちの目の前数十センチで止まった。

そこまで近くに来て気づいたんだけど、その足跡の裏には顔みたいなものがついていて、目は閉じてるけど口は引くぐらい笑っていた。つま先の方…俺たちの方に口はついていた。鼻はついてなかった。例えるなら、子供が描いた鼻のない落書きの顔をリアルにして、さらにグチャグチャにした感じの顔。

その状況は恐怖を優に通り越していて、涙はもう枯れて出なかった。出るものは全部でた。気を失う寸前だった。

夏も真っ只中だって言うのに、悪寒と恐怖で寒くてガタガタ震えた。蝉の声もいつの間にか聞こえなくなっていて、風も吹いていなかった。

恐怖と寒さで朦朧とする意識の中、その顔は甲高い女の声で言うんだ。

「マダ、タリナイヨ」。

高校を卒業してからは九州の大学に行って、それ以来、地元には帰ってない。

Concrete
コメント怖い
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@車猫次郎
ご想像にお任せします。果たして彼らがどうなったのか…。無事なのか、無事じゃないのか。全ては読者様の想像力次第です。

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