中編5
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K君の怪談

──私が高校2年の頃…K君という男子が、同じクラスにいました。

K君はどちらかと言うとクラスのカーストの下側にいて、中間ぐらいに位置する私たちとの面識は殆どありませんでした。

しかし、梅雨が開ける頃には人が変わったように明るくなり、話す機会も増えました。

K君は陽キャラの人ともつるむようになり、以前とは全く性格も変わったようで…。皆、「遅咲きの高校デビューなのかな」なんて話していたんです。少なくとも、悪い人ではないし…何か不都合な事がある訳でもないので、皆次第にK君の変わりように順応していきました。

そうして夏休みに入りました。

あの頃の年頃だと…お泊まり会とかをよくしたんです。…出会いと新奇さを求めてたんですね。

それで、私を含む女子3人、K君を含む男子3人で、お泊まり会をすることになりました。場所は、K君の家でやることになりました。

K君は趣味も大分変わったようで、以前K君の部屋に入ったことのあるK君と親交のあった男子は、「前と大分雰囲気変わったな」と零していました。

昼間はゲームで遊んだり、ボードゲームや恋バナや結婚願望なんかを話したり…。それはもう楽しくて、気付けば夜になっていました。

「K君のお母さんの料理マジで美味しかったねー」って、皆口に出して、K君は「そう?ずっと食べてると分かんないよ」って言うんです。

で、いよいよ布団に入ることになりました。布団は大広間に6人分敷いて寝ました。

…でも、高校生ですよ?…普通に寝るわけないじゃないですか。

それで、ちょうど食事の時にホラー特番がやっていたので、怖い話をやろうということになりました。

皆ありきたりな怖いはなしを順番にして。でもやっぱり、電気を消してると怖さが倍増するので、「キャー」と小さく悲鳴を零したり。

そうして、K君の番になりました。

「皆眠いだろうから、とびっきりのやつ話してあげるよ」ってK君がニヤニヤしながら言うものだから、皆身構えるんです。そこで少し笑いが起きました。

そうして場の空気が和んで、K君は話し始めました。

「これは、ある人の話なんだけど…」

主人公は、男性AさんとBさん。

2人は、有名な心霊トンネルに肝試しに行きました。くらーい中に電灯もなく佇む、山奥のほっそりとしたトンネルです。

2人は車でトンネルへ行ったのですが…。あまりの不気味さに、最初は徒歩で通ろうとしたのですが、そのまま車で行くことにしました。

トンネルは100メートルくらいあり、差程長くはありません。ゆっくりと、車は進んでいきます。

そしてこのトンネルには、ある噂がありました。

それは、魂が別の誰かと入れ替わるというものです。

元々、そこは工事中に事故があったと言われるいわく付きの心霊スポットでした。

不運にもその事故で亡くなった死者の魂が、生を得ようとすれ違った人に入れ替わり、その替わられた魂が次の入れ替わる人を求めて探し回っている…。そんな噂です。

AさんもBさんも、噂にドキドキしながら車を進めます。「もし、ヘッドライトの前に人影があったら…」なんてひやひやしたそうです。

ですが、2人の期待をよそに車はトンネルをあっさりと抜けてしまいます。2人は拍子抜けです。

「なーんだ、何もねえじゃん」とAさん。「折り返してもう1回通ろうぜ」とBさん。2人は、折り返してもう一度トンネルを通ります。

何も無くまた入口を通過し、これまた何事もなくトンネルの中頃に達しました。

ドンッ

物音がしました。どうやら、天井に何か落下したようです。「石が落ちたのか?」と困惑する2人でしたが、異変に戸惑いを隠せません。運転をしていたBさんはアクセルをふかして早く抜けようとします。

そうしてトンネルを抜けようとする頃、今度は声が聞こえました。

「かえせ…かえせ…」

男のような声でそう言うんです。車の天板は何者かに叩かれています。2人はパニックになり、叫んで喚いて大騒ぎです。

ですが、山を抜けてコンビニへ着くと、その声も天板を叩く音も聞こえなくなりました。

最早半泣きで、鼻水まで垂らしたBさんは言います。

「なんなんだよアレ!」Aさんも、「怖っ」とこれまた半泣きで言います。

2人はコンビニへ入り、男2人が涙目で入店し買い物をし、2人に驚く店員さんの前で会計を済ませていました。

「でも、魂は取られなかったよな」とBさんが言いました。Aさんも「うん」と頷きます。

「来なけりゃ良かった、こんなとこ」とBさんが怒った口調で言うと、Aさんは満ち足りた気持ちでこう言いました。

「そうか?俺は得たものも大きかったけど?」

「──はい、これでおしまい」

中途半端な区切り方で、K君が言い終わります。皆は、固唾を飲み込んで、話の言い知れぬリアリティに恐怖を感じていました。

「…え、2人はそのあとどうなったの?」と、女子の1人が聞きました。

「どうもなってないよ。…フィクションだよ」とKくん。それに皆は安心して、疑問が残りながらも「そうなのかー」、と納得して、夜中も3時をすぎていたので寝ることにしました。

皆が寝ている中、自分は1人さっきのK君の怪談について考えていました。

(2人は無事だった。でも怖かったはず。それに、Aさんは何を得たのだろう…経験…精神?)

あ。そう思いました。

Aさんは、きっと誰かの魂と入れ替わったのだろう、と。そうすれば、「得た」というのも「肉体を得た」と考えることも出来てしっくりきます。おそらく、「返せ」という声が、入れ替わったAさんの声で、「俺の体を返せ」と言っていたのでしょう。

やっとストンと考えがまとまり、寝ようとしましたがなかなか眠れませんでした。

そんな中、あることをふと考えつきます。

(なんで、Aさんは最後「満ち足りた」んだろう)

あれ、と思いました。K君の話は、終始第三者視点から語られていました。恐怖という単語はあっても、2人の様子を表す表現はあっても、感情までは語られていません。しかし、最後のAさんの感情だけははっきりと表現されています。

何故、K君はAさんの気持ちがわかったのでしょうか?

Concrete
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