深夜1時。俺は寝付けずに本を読んでいた。
ここはど田舎で、周囲には畑と数軒の家があるだけだった。
『ね~んねこしゃっしゃりま~~せ~』
「?」
『ね~んねこしゃっしゃりま~~せ~』
窓から外を覗いてみると、80代くらいの老婆があぜ道を歩いて来る。
「なんだこんな夜中に。気味悪いな」
老婆は尚も子守唄らしきものを口ずさみながら、そのままどこぞへと消えていった。
「徘徊老人か?ちゃんと見とけよなあぶなっかしい」
翌深夜、微かに聞こえる声に目が覚めた。
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「う、ん・・・」
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「・・・またあの婆さんかよ。家族はなにやってんだ。何かあったらどうすんだ」
次の日も、また次の日も老婆はやってきた。
「いったい、あの婆さんは毎日どこ行ってるんだ・・・?」
そんなことが何度か続いたある晩、近所の中年男性が訪ねてきた。応対したのは俺の母。
『すみません、うちの母が見当たらないんですが、ご存じないでしょうか』
《いえ、見てませんけど、いなくなっちゃったんですか?》
『ええ、ちょっと目を離すとすぐあちこちウロウロしてしまうんですが、今日はまだ帰って来ないんです。
いつもはその辺ですぐ見つけられるんですが・・・』
《それは困りましたね。》
周囲に声を掛け合い、みんなで探すことになった。
こういう時に人を集め易いのが田舎の利点。
が、その日は結局見つからなかった。
『みなさんありがとうございました。ひょっこり帰って来るかも知れませんし、もしかしたらもう帰ってるのかも知れません。一度家に戻ってみます。
どうも、お手数お掛けしまして・・・』
《そうですか、何かあったら、遠慮なく言って下さいね。》
その深夜。
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「ババァまたかよ。
そういや、居なくなった母親ってあの婆さんじゃね?帰って来たのか。」
「つーか毎日夜中にどこ行ってんだ?」
前から気になってたこともあり、後を追いかけてみることにした。
外に出ると老婆の姿はない。
「あれ、どこ行った?」
微かに声が聞こえる。
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「あっちか。意外と高速で動く年寄りっているんだよな・・・」
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「お、いたいた。」
老婆ばそのまま一軒の小屋のような建物に入って行った。
「こんなとこで何を・・・?」
ドアをそっと開け中を覗いて見たが老婆の姿は見当たらない。
小屋は狭く、何やらいろいろと置いてあったが、人が隠れられるような場所はない。
「あれ?確かにここに入ったのに。」
思わず中に踏み込んでしまった。
しかし、やはり老婆はいなかった。
勿論裏口などもない。
「おかしいなぁ」
おかしかろうとどうしようと居ないものは仕方がない。諦めて帰ることにした。
翌、深夜。
『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』
「来たな。今日は見逃さないぞ。」
後をつけて行くと、昨日と同じ小屋に入って行く。
昨日のミスを繰り返すまいと、じーっと老婆を目で追った。
すると老婆はスーッと小屋の壁に消えて行った。
「!」
慌てて小屋に入り壁を調べてみたが普通の壁だ。勿論人が入れる訳はない。
しばらく見ていると。
「ん?何かここだけ塗り替えてあるな」
触れた瞬間、突然壁がボロボロと崩れ出した。
「うわっ!」
壁の中から出て来たのは老婆の死体だった。
警察の話によると、母親の痴呆が進み、手に余った息子が殺害し埋めたとのこと。
疑われない為に必死で探してるふりをし、そのまま行方不明として処理しようと思ったらしい。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話