畑の真ん中で子守唄を叫ぶ。叫んでないけど         

中編3
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畑の真ん中で子守唄を叫ぶ。叫んでないけど         

深夜1時。俺は寝付けずに本を読んでいた。

ここはど田舎で、周囲には畑と数軒の家があるだけだった。

『ね~んねこしゃっしゃりま~~せ~』

「?」

『ね~んねこしゃっしゃりま~~せ~』

窓から外を覗いてみると、80代くらいの老婆があぜ道を歩いて来る。

「なんだこんな夜中に。気味悪いな」

老婆は尚も子守唄らしきものを口ずさみながら、そのままどこぞへと消えていった。

「徘徊老人か?ちゃんと見とけよなあぶなっかしい」

翌深夜、微かに聞こえる声に目が覚めた。

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「う、ん・・・」

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「・・・またあの婆さんかよ。家族はなにやってんだ。何かあったらどうすんだ」

次の日も、また次の日も老婆はやってきた。

「いったい、あの婆さんは毎日どこ行ってるんだ・・・?」

そんなことが何度か続いたある晩、近所の中年男性が訪ねてきた。応対したのは俺の母。

『すみません、うちの母が見当たらないんですが、ご存じないでしょうか』

《いえ、見てませんけど、いなくなっちゃったんですか?》

『ええ、ちょっと目を離すとすぐあちこちウロウロしてしまうんですが、今日はまだ帰って来ないんです。

いつもはその辺ですぐ見つけられるんですが・・・』

《それは困りましたね。》

周囲に声を掛け合い、みんなで探すことになった。

こういう時に人を集め易いのが田舎の利点。

が、その日は結局見つからなかった。

『みなさんありがとうございました。ひょっこり帰って来るかも知れませんし、もしかしたらもう帰ってるのかも知れません。一度家に戻ってみます。

どうも、お手数お掛けしまして・・・』

《そうですか、何かあったら、遠慮なく言って下さいね。》

その深夜。

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「ババァまたかよ。

そういや、居なくなった母親ってあの婆さんじゃね?帰って来たのか。」

「つーか毎日夜中にどこ行ってんだ?」

前から気になってたこともあり、後を追いかけてみることにした。

外に出ると老婆の姿はない。

「あれ、どこ行った?」

微かに声が聞こえる。

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「あっちか。意外と高速で動く年寄りっているんだよな・・・」

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「お、いたいた。」

老婆ばそのまま一軒の小屋のような建物に入って行った。

「こんなとこで何を・・・?」

ドアをそっと開け中を覗いて見たが老婆の姿は見当たらない。

小屋は狭く、何やらいろいろと置いてあったが、人が隠れられるような場所はない。

「あれ?確かにここに入ったのに。」

思わず中に踏み込んでしまった。

しかし、やはり老婆はいなかった。

勿論裏口などもない。

「おかしいなぁ」

おかしかろうとどうしようと居ないものは仕方がない。諦めて帰ることにした。

翌、深夜。

『ね~んねこしゃっしゃ~りま~~せ~』

「来たな。今日は見逃さないぞ。」

後をつけて行くと、昨日と同じ小屋に入って行く。

昨日のミスを繰り返すまいと、じーっと老婆を目で追った。

すると老婆はスーッと小屋の壁に消えて行った。

「!」

慌てて小屋に入り壁を調べてみたが普通の壁だ。勿論人が入れる訳はない。

しばらく見ていると。

「ん?何かここだけ塗り替えてあるな」

触れた瞬間、突然壁がボロボロと崩れ出した。

「うわっ!」

壁の中から出て来たのは老婆の死体だった。

警察の話によると、母親の痴呆が進み、手に余った息子が殺害し埋めたとのこと。

疑われない為に必死で探してるふりをし、そのまま行方不明として処理しようと思ったらしい。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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