私自身の体験の話をさせていただきます。
が、長文になりますのであしからず。
加えて、怖い話というよりも、奇妙な話に近いと思われますので。
まず、私は東北の田舎で生まれ育ちました。
好きな仕事にも就いており、特に問題はないのですが。
少し前位に、夢を見るようになりまして。
それも同じ夢。思い出すと怖気が走るようなおぞましい夢です。
以下は夢の内容。
目を覚ますと、私は見知らぬ景色の中にいました。
膝を隠すほどの長さの枯れた草が鬱蒼と茂っており、歩くのもままならない。
ここはどこだろう。そう思い、辺りを見回すと、見知らぬ他人の死体が山と積まれているのです。
私は死体に囲まれて寝ていたようなのです。
「…はらぁ、へったなぁ」
私の声ではない。でも私の身体から発した声のようだ。
蚊の鳴くようなかすれた声。
身体は勝手に動き、手近にあった男の死体の前で足を止めます。
腹にボロボロの刀が刺さっていて、腐ってはいませんでした。
その男の服装は不思議なもので、布切れを縫い合わせたような粗末な作り。
頭もぼさぼさで、身分のいい者とは思えませんでした。
農家の爺さんや婆さんのような、もんぺとかはかまでもなかったので間違いなく、現代の人ではない。
そういえば、初めに周囲を見回した時、まともな人工物が見えなかった事を思い出す。
平原が果てしなく広がっていたのだ。
私はそこにかがみ込むと、刺さっていた刀をゆっくりと抜き、死体の肘の辺りをその刀でゴリゴリと削り出しました。
その感覚のおぞましい事といったら筆舌に尽くし難い。
しばらくすると肘から先がゴロンと切れた。
体から離れたそれは、くにゃっとした手首がついた「肉」になったのだ。
私はその腕の真ん中辺りにかぶりつく。
生の豚肉の塊をそのまま噛んだような食感に鳥肌が立ちそうだったが、鳥肌が立つ事はない。
固いので少しずつ咀嚼していく。口の周り段々とは血まみれになって、べたべた。
食感は確かに肉なのに、中身は真っ赤な熟れた果物のようになっていて、見ていて気持ちが悪い。
味なんか血の鉄臭い味しかしない。
それでも肉をこそげ取るようにしながら食事を続けた。
一通り食事を終えると、そこからは走馬灯のように映像が高速に流れ始める。
私は山を走り川の水を飲み人を殺し食べまた人を殺し食べ人を殺し食べる。
山を走り村を見つけ幼子をさらい殺し食べ追ってくる人から逃げる。
女を抱き殺し食べ服を奪いまた人を襲い食べる。
あえて読みづらく書きましたが、その位早く映像が流れます。
映像がビデオを2倍速で再生したかのような早さで再生されるのです。
それぞれの内容は細かい音や息遣いに至るまで記憶して。
一人の男の人生の軌跡を一瞬で眺めている。そんな感じでした。
夢の中の私は「人食い」のようでした。
目が覚めると気分は最悪。その夢を見た日は一日気分が優れません。
一応書いておくと、私は統合失調症や、躁鬱などは持っておらず至って健康な男です。
大きな病気もした事はありませんし、今まで生きてきた中で、特に変わった何かがあったという事もないです。
そしてそんな夢を何度も見る内、段々と興味が沸いてきました。
オカルト好きではありませんが、歴史というか、昔の事象には興味がありまして。
仕事のスケジュールも空いた所だったので、思い切って実家に戻り、調べてみる事にしました。
調べるキーワードは「人食い」。
それこそ実家の辺りは田舎なので、飢饉などの話題には事欠かないようなもの。
ひいじっさん(曾祖父。私はそう呼んでいた)に古いものをまとめて置いてある蔵を開けてもらった。
その蔵というのが古いもので、住居は何度も立替しているにも関わらずそのまま残されていました。
曰く、倉庫として役に立つから。話を聞けばひいじっさんの小さい頃からこの蔵はあったという事らしい。
それほど古い蔵ならば、何かわかる事があるのでは、と踏んだのだ。
ここで疑問に思われる方もいるかもしれない。
何故自分の家を探すのか。これは簡単。夢の中だったとしても、あくまで「私」の視点で事は成されたからで。
ならば、私に関わりがある可能性がある。どういう経緯で夢を見るようになったかは知らないが、探す価値はあるだろうと。
それこそ地域の資料等をまとめて保管してある公民館もあったが、まずは家から探そうと思ったのだ。
話を続けます。
私はその中を見て唖然とした。乾いて、埃っぽい「だけ」。
思いの外、荒れていなかったのだ。虫食いの痕跡もない。
建築物に詳しくないので知らないが。予想では、結構虫とかうようよで、ぼろぼろだろうな、と。
中を一通り見てみると、何冊かそれらしい書物はあった。
古い紙で出来ているのに、長い間触られていないのか、保存状態は良好。
それが「家系図」と「名前知れずの日記」。
ちなみにタイトルはこの通りではないので、「それっぽいもの」と認識していただければ幸いです。
まず家系図を開いてみる。かなり長いもので、曾祖父の前の代辺りまでは書かれているようだ。
長い間、苗字自体は変わっていない。
じっさんから聞かされていた、ある有名な歴史上の人物の家系である事は正しいと分かった。
説得力に欠けるので、「雷神」と呼ばれた人物の家系、とだけ書いておきます。
見ていくと、古めかしい名前も並んでいますが、特に気になる事もありません。
そりゃそうか。そう思いとりあえず家系図は置いておきます。
そしてこの日記。この内容がまた、符合する点が多かったのです。
かろうじて読めた部分を抜粋していくと、内容はこうだ。
私の家系より「人食い」に落ちた者がいた。そいつは「ゴヘイ」と言い、日記の持ち主の弟である。
元服前に気を違えた。
ゴヘイが気を違えた理由は定かではない。ある日突然泣き叫び、暴れ回ったのだ。
手をつけられない村人は恐れ、名家と言われた家も、評判が悪くなった。
そこで、これではいかんとゴヘイを「奉公」という名目で家から追い出した。
しらばくして、風の噂にゴヘイが人食いになった、という話を聞いた。
そして私はゴヘイを処断すべく、~(地名は読めず)へ出向き、ゴヘイを斬り殺した。
こんな内容でした。
私の地方では、元服の習慣が残っており、それも近年まで行われていたとひいじっさんから聞いた。
そのひいじっさんにも幼名があった事を、晩酌に付き合っていた時に聞かされました。
あとで家系図に照らしてみても、ゴヘイと言う名前は残されていない。
幼名は記載されていなかったようだ。
…というよりも、キチガイは残されないものなのかもしれません。
それは家系において「汚点」となり得るからだろうか。
なんにしても、「人食い」は居たらしい。それもこの家から出たようだ。
その「人食い」が何ゆえ私の夢に出て悩ませるかは分からない。
何か言いたい事でもあるのか、それとも私に何かがあるのか。
もし、私が彼に近しいのだとしたら。いずれ私も「人食い」に落ちるのかもしれない。
夢とは言え、「人を食う感覚」は知ってしまったから。
以上が、最近まで私を悩ませていた一連の「夢」にまつわる話です。
結局、私自身に何かが起こる事もなく、この「ゴヘイ」なる人物についての情報も得られず。
おぞましい体験ではありましたが、「自分のルーツ探し」の旅というのもなかなかに楽しい時間でした。
協力してくれたひいじっさんも最近亡くなりました。
そして、私の仕事は通信環境さえあればどこでも出来るので、私は実家に戻りました。
ひいじっさんが管理していた蔵の鍵は現在私が管理しています。
暇な時にでも、調査を再開してみようかな、とは思っていますが…。
それもしばらくは再開はしないかもしれません。
最近「ゴヘイ」は大人しくしているようで夢には出ませんので。
怖い話投稿:ホラーテラー ゴヘイ(仮)さん
作者怖話