中編7
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母校のHという施設

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俺の母校の話。高校が私立でけっこうでかいマンモス高ってやつでさ。多分結構金があって温水プールとか専用グラウンドとかいろいろあったわけ。

で、その施設の一つに「H」っていう施設があるんだよ。そのHっていうのはメインはステージなんだわ。ほかにも入ってるけどね。

そこで式典とか儀礼的なことをするわけ。終業式とかそういう格式ばったやつ。多分他の高校だと体育館でやるんじゃない?まあそういう施設。

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で、照明やら音響やらがしっかりあって舞台としてもなかなか整っていて、高校生の俺は演劇部に入ってたからそこの楽屋みたいなのが部室で、その舞台を使って練習とかするわけ。

多分地域で一番環境が整ってたんじゃないかな。まあ弱小だったけど。

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一年生の時演劇部に入ったって話をしたらクラスメイトからこんな話を聞いたんだ。先輩から聞いた話なんだけどあの「H」って施設には日本兵の幽霊がよくでるらしい、って。

その地域は第二次世界大戦のときは海軍の工場があったらしくて、戦争終盤にそのあたり一帯が爆撃されて多くの死者がでたらしい。その幽霊がこの「H」の舞台に立っている…なんて話。

戦争中海軍の施設があって爆撃されたことは本当だし俺も前から知っていたが今までそういう体験なんかしたことなくて正直与太話だと思って信じてなかった。場所が場所だし電気ついてないと暗くて雰囲気すごいからそういう話が出るんだろうと。

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何事もなく過ごしてそんな中2年生の夏に顧問の先生からあることの手伝いを頼まれたんだ。

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「8月の〇日に海軍工廠の慰霊の式典があるのをしってるだろう?あれの人手が欲しいから出てくれないか?」

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その式典は夏休み中ってこともあって一般生徒はほぼ出席せず教師たちと生徒会くらいしか出席しないんだ。だから式典をやってることは知っていても具体的にどういう行事かは知らない。

好奇心となにより中二病が抜けきってない自分にはほかの奴らが出ないものに出るっていう優越感みたいなことがあって二つ返事で引き受けたんだ。

そのあとは簡単な打ち合わせをして当日を迎えた。

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演劇部は大会に入賞したりもなく暇を謳歌していたのでちょうどよかった。朝10時に学校に集合して改めて当日の打ち合わせをして顧問の指示の下会場設営を手伝った。

そのあと長い昼休憩をして13時すぎには式典が開始された。俺は演劇部のスタッフをしてたことで照明係をしていた。まあ別に大したことはしてなくて一定のタイミングで点けたり消したりするだけ。

人手もいらないもんだから2階の照明制御室で持ってきた漫画を読みつつ一人でだらだらと式典を横目で見てた。

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司会が進行していく中で壇上の人がしゃべったりするのを眺めたりしてると客席の一番後ろにほかの生徒が座ってる中一人だけ立って壇上を眺めてる女の子の姿があった。

女の子と言っても多分高校生くらいだが制服を着ずに赤いワンピースのような服を着てるように見える。

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漫画を読み終わってた俺はなんとなくその女の子が気になってそっちを見てた。

客席側は暗いし壇上の人間からは見ずらいだろうし客席の人間は前を向いていて後ろの人間には気づいてない様子だったので多分その子のことに気付いてるのは俺一人だと思う。

その時は別に幽霊がどうとかそんなことは全く考えてなくてただ変な恰好の女の子がいるなあ、ってかんじで見てたんだ。

派手な赤の服と対象になるように顔はうつむいてて全然見えない。しばらく見てたけど照明を操作するタイミングが近づいてきたからさすがに一旦仕事に集中する。

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そして式典が終わったときに思い出してもう一度あの女の子がいるところを見てみたがもうそこに女の子はいなかった。

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そのあとは式典の片づけだった。その途中で客席に座ってた一人に聞いてみたがあの客席の後ろにいた女の子には気づいていないようだった。

友人曰く「暗かったしそもそも式典中は退屈で寝かけてたしな。後ろなんて気にしてなったわ。」そのあと友人と話したが来賓の関係者じゃないか?という結論に至った。

それで納得してもうそれ以上は考えもしなかった。

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片付けも終わって先生から今日はもう解散だと宣言された。

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大して疲れもしなかったけどもう学校に用もないのでさっさと帰ろうと自転車置き場に行って気づいた。自転車の鍵がない。

失くしたか?しっかりカバンを探したけどない。今日はほとんど「H」にこもりっきりだったから「H」のどこかに落ちてるだろう。そう思って「H」に戻ることにした。

もう「H」には誰もいないはずだから鍵が閉まってるはずだ。まずは顧問の先生のところに行った。

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まず忘れ物がなかったかを聞いてみたがそういうのはなかったようだ。客席や舞台には忘れ物がないか先生たちで確認していると言った。先生が一緒に行こうか?と聞いてくれたが心当たりはあるし多分大丈夫だろうと断ってカギをもらい「H」に向かった。

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出入口の鍵を開けて一人で「H」に入る。誰もいないので静寂があたりを包んでいて、俺の足音だけがカツ…カツ…と鳴っている。

多分だが舞台に無いのなら照明室か昼食の時に使っていた部室である楽屋にあると思う。あたりはついていたのでまっすぐそこに向かう。まずは照明室。照明室は舞台袖から階段を上った先にある。

誰もいないので当然照明はまともにない。暗い舞台は何も出ないと思ってもやはり怖い。内心ビビりながらも進んでいく。

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照明室に到着し周りや足元、機械回りなどを探してみる。鍵は鈴付きのキーホルダーがついててそれなりに目立つから見つけやすいはずだが見当たらない。ここにないってことは部室か。

部室は照明室の真下だが一度舞台に降りてから舞台袖から入る。

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部室は「H」の楽屋を使わせてもらってる。中には洗面台と大きな鏡がある。そのほかには本棚があって台本なんかが詰まっている。

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部室に入るとなんだか生暖かいムワッとした空気が漂っていた。もう切ったとはいえさっきまで冷房をかけていたはずなので少し不快感があったがそこまで気にすることはなく周りを探した。

すると洗面台のふちにカギがあった。こんなところにあったのか。これなら先生たちが見つけてくれてもおかしくないのにな、と思いながら鍵をとった。その時洗面台の正面にある鏡に違和感があった。

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誰かいる。

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さっき部室に入ったときは誰もいなかったのに。そう気づいたときには体が固まってしまった。金縛りとかではなくいないと思ったのにいると知ってびっくりして動けなくなったのだ。

視線だけでその誰かを確認する。赤いワンピース。さっきの女の子だ。

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そう気づいたとき同時にその赤いワンピースから液体が垂れてることに気付いた。

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血だ。

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血が垂れてる。あれは赤いワンピースじゃなくて多分もとは違う色の赤い血を浴びたワンピースなんだ。

そう気づいたときには逃げたくても逃げられなくなっていた。

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視線は鏡越しに女の子から目が離せない。

そして段々と近づいてきている。一歩、一歩と近づいてきている。長めの前髪とうつむいていることもあり顔は見えないが近づくにつれ少しずつ顔が見えてきた。

背中越しに近づいてきている。口元が見えた。

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笑っている。楽しそうに口をゆがませている。

恐怖のせいか金縛りなのかわからないが俺は動けずにただただ女の子が近づいて少しずつ顔を見せる様子を見ていることしかできなかった。

そして多分俺の後ろ50センチもなくなった時。その女の子の目まで見えるようになった。

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その子の目は真っ黒だった。

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真っ黒というより何もなかった。眼球をくりぬかれたかのように空洞だった。

その光景を目の当たりにしてしまった時俺は恐怖の限界にきて無我夢中で出入り口に向かって走り出した。

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そこからはもうよく覚えていないが気づいたときには「H」の外に出ていた。

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そのあと鍵を返しに顧問の先生のところに行ったときずいぶん焦燥していることを心配されたがなんでもない、と茶を濁してそのあとはさっさと帰った。

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新学期になって「H」にに行かなくてはいけないのか、と憂鬱になりながら学校に向かった。

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そこで以前「H」に幽霊が出るってやつにあれは何だったんだろう、と思いあまり思い出したくはなかったが話を聞いてみたが

「いや、あそこには男性の日本兵の幽霊が出る、としか聞いたことはないぞ。」

と言われてしまった。

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そんなわけはない、と思い部活の先輩などにも聞いてみたがそういう話は一度も聞いたことはない、と言っていた。

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あれはなんだったんだろうか。どうして血まみれのワンピースを着ていたのだろう。どうして眼球がなかったんだろう。式典の日に現れたのは海軍と関係があったのだろうか。

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わからずじまいだったが俺は「H」に入るときはできるだけ一人にならないように過ごしていた。

しかし卒業まであの女の子を見ることはなかった。俺の唯一の霊体験。

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