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中編3
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過去からの訪問者

これは中学生の私が、つい最近体験した話です。

その日は夏休み真っ只中で、家の中だというのに項垂れるような暑さだった。

家には誰もおらず、私は一人、居間でクーラーを効かせた部屋でテレビを見ながらウトウトとしていた。

が、

「わっ!」

突然小さな悲鳴をあげ私は目を覚ました。

「痛っ……」

頭痛がし、思わずこめかみあたりを手で抑える。

何か嫌な夢を見た。それが何だったかは思い出せない……。

テーブルに目を落としコップを手に取った。

口に運び氷の入った麦茶を喉に流し込む。

ひんやりとした喉越しに、肩の力が抜けていく。

ソファーに深くもたれつつ、ため息を吐いた。

──ガチャッ

玄関から扉が開く音がした。

「ただいまあ」

私は一瞬、

「ん?」

という訳の分からない違和感を感じつつ適当に、

「お帰りい」

と返事を返した。

母だ。確か買い物に出かけてたっけ……。

曖昧な記憶を頼りに思い出す。

「今日もお外暑かったわよ、あんたも外に出る時は気を付けなさいよね」

何かを物置にしまいながら母が遠くから言ってきた。

「出るわけないじゃない。夏休みはずっと家でゴロゴロするって決めたの」

「何よそれ、子供のうちからそんな事言ってたらろくな大人に」

「ならない……でしょ?」

母の口癖、私は母の言葉を遮るようにして言った。

「口の減らない子」

二階から母の嫌味が微かに聞こえた。

「貴女に似たんですよ……」

等と小さな声で悪態を付く。

何だか体調が思わしくない。

もう少し寝てたかったのに母が帰ってきてしまった。

「はあ……もうちょっとゴロゴロしてたかったなあ……」

ソファから重い腰をあげ、居間のテレビを消す。

欠伸をしつつ部屋を出ようと扉に手を掛けた時だった。

何かがおかしい。

頭痛……嫌な夢……違和感。

私は今朝、体調が悪かった……あれ?

記憶が断片的に蘇る。

二階でガタン、と荷物が床に落ちる音が聴こえた。

ビクリとして天井を見上げる。

「あれ……なんで……何で私……」

父と一緒に出かけるはずったのに、頭が痛くて私だけ家に残った……何で……何で残った……?

何で……そう……そうだ……母の……母の墓参り!?

その瞬間、

「ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」

天井から響く声、

──ドタドタドタドタドタドタドタッ

二階からこちらに向かってくる足音。

「いやっ!いやああぁぁっ!!」

開けようとしと扉を必死に押さえ付け私は叫んだ。

──ドンッ

ドアに強い衝撃を感じ、しかめた顔で扉を見ると……。

スリガラス越しに、顔をベッタリとくっつけ此方を睨みつける女の顔……!

「何で思い出したのおおぉぉっ!?」

「きゃああぁぁっ!!」

張り詰めた糸が切れたような感覚、私の体はぐらりと崩れ落ち、そのまま床に倒れ込んだ。

混濁する意識の中……。

「おい、おい!」

「お父……さん?」

滲む視界の中、見慣れた姿が映った。

お父さんだ。

「どうしたんだこんなとこで……何かあったのか?」

心配そうに私を抱き抱えるお父さんの顔を見て、私は思わず泣き出してしまった。

母は元々鬱を患っていて、心の弱い人であった。

そんな母は一年前の今日、買い物に出掛けた先でなんの前触れもなく自殺した。

父は全て夢だと言ってくれた。

私もそう思いたい。

思いたいのだが……来年のまたこの日が来るのが、怖くてたまらない。

Concrete
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