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短編2
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手を振る

それは盆の日、田んぼの向こうに見えました。

丁度祖父の三回忌にいらしたお坊さまが帰ろうと仏間を出ようとした時です。

日当たりがいい南向きの部屋だったから、窓を開けていたんですが正座してると外の景色は見えないんですね。

だからお見送りに家族全員で立ち上がったら、私は窓際に座ってたからちょっと横に視線をズラせば見えるんですね。

青々とした稲の向こうに女の人が手を振ってるのが。

友達でもいるのかな。と思ってその時は特に気にすることもなくすぐ皆の後を追いかけて外へ出たんですが、ちょっと違和感を覚えたんです。

仏間と同じように玄関もまた南向きなので、窓から見える田園風景がそのまま目の前に広がってるんですが…それはいいんですよ。

なんて言うか、女の人との距離が縮まった感じがあったんです。

その人は変わらずこちらを向いて手を振り続けてまして、なんかおかしいなあ、と感じて家族の顔を見るんですけど全く気づいてないみたいなんですね。

お坊さまはというと、女の人に背を向ける形で祖母と話してました。

他の皆も会話に参加したり相槌打ったりして、私だけ女の人に釘付けだったんです。

だからまたすぐ気づいたんです。その女の人、田んぼの上に立ってるんです。

下半身が稲のところでボヤけていて、そこでようやっと「あ、この世のものじゃないんだ」って分かったんですね。

そしたらいきなりズズズズズ、と近寄ってきました。

段々その表情がはっきり見えてきまして、笑ってる訳じゃなかったんです。ただただ凝視してたんです。

だから凄く恐ろしくなって思わず般若心経を唱えました。

するとお坊さまが異変に気づいたのか、祖母との会話を打ち切って私の前に立ったんですよ。

「あれはね、気にしなくていいから。ただ盆が終わるまでお母さんから絶対離れちゃダメだよ」

そう言われて私は隣に立つ母を見ました。女の人はお坊さまの姿に隠れて見えませんでした。

母は軽く頭を下げると、自分の背に私を隠しました。

私は覗くなとも言われたのでぎゅっと目を瞑り、縋るように母の着ていたシャツを握り締めてました。

その後はお坊さまがまた念仏を唱えるのが聞こえ、終わるとすぐに帰られました。同時に私達も家の中に戻ってようやく目を開けられたんですね。

盆が終わるまであと三日、私はずっと母の傍に居ました。

何でも、私の母はとても霊感が強く霊の方が近づけないらしいんです。

娘の私はというと逆に引き寄せやすいらしくて、わざわざお盆明けにまた来て下さったお坊さまから「何があってもお母さんの傍にいたら大丈夫だから」と話を聞かされ、祖父の三回忌以降あの手を振る女の人を見ることはありませんでした。

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@ふたば 感想ありがとうございます。
私自身そういったお話は度々耳にするので要素と言いますか、視え方だったり引き寄せてしまうだとかを混じえて書き上げたのがこのお話になります。
なるべく文字数を少なくして、ほんのちょっとの空き時間に読める程度のものです。
8月の朗読楽しみにお待ちしてます(*^^*)

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