それは悪夢だね。彼はそう言いました。
彼と言っても扉です。扉が喋るんです。
私は夢の中で沢山の扉を開け放ち、その度目の前にある別の扉を開けました。
いつ頃から見始めたのかと言うと怪しいのですが、きっと祖父の死をきっかけに見るようになったと思います。
起きたら何回目の夢、というふうに記録するようにもしてます。
毎晩一番初めに開ける扉が語りかけ、会話し、扉を開ける旅に出るという夢。
なぜ見るのかは分かりません。
でも確かに明確な理由があって開けるんです。
「どうして私は開けるのかな」
「扉の向こうへ行きたいんじゃない?」
「扉の向こうには何があるの?」
「無意識下のお前さんが望んでる場所かなあ」
そんな会話をして、私は旅をし、目を覚まします。
内容も鮮明に覚えていていつも姉に話すのですが、「心配性だなあ」と言うんですね。
何が心配なんだろう。と思いましたが、それ以上聞くことはありませんでした。
46回目。
47回目。
48回目。
49回目の夢で扉は「どうして向こうに行きたいの?」と聞いてきました。
私は「会いたい人がいると思うの」と答えました。
その後も会話は続きます。
「どうして扉を開け続けるのか分かる?」
「分からない…たぶん、いかせてくれないのかも」
「誰が?」
私は、誰が自分を引き止めているのか訊ねられ、ハッとしました。
思えば扉の声は姉の声質と同じだったんです。
「向こうなんて行っちゃダメよ。だから開けたら扉を用意したんだよ」
「でも…じいちゃんと約束したのよ」
「フルートの音色ならお墓の前で奏でておやり」
そう言って半ば強制的に覚醒を促され、私は仏壇の前で目を覚ましました。
布団で眠ってたはずなのに。
ぼうっとする頭で外に出ると、丁度夜明けを迎えた空を見ました。
とても気持ちのいい朝に感動し、仏間に戻ると姉がいました。
姉は三本の線香とマッチを持っており、振り返るとこう言います。
「自分から彼岸に行こうなんてさ、それこそ悪夢だね」
扉は彼ではなく、姉で、毎晩私の夢に出てきていたのかと思うと、優しいのか怖いのかよく分かりません。
作者退会会員