短編2
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フクロウ

マッカリヌプリの尾根が、熾った炭のように赤く照りはじめていた。

じきに日が沈む。

キトは、泣きそうになりながら歩きつづけた。

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通い慣れた道のはずなのに、いつまで経っても村へ帰り着けない。

周囲にそびえる木々の梢では、さっきからフクロウが鳴いていた。

フォッフォウ

あの低い声はたぶんシマフクロウだ。

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シマフクロウはコタンの守り神。

きっと自分のことを見守ってくれているに違いない。

そう信じて、キトはなんとか自分を励ました。

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夜の森にはケナシウナルベという魔女が現れると言われている。

だから村の者は、日の暮れる前に必ず森を出るようにしていた。

密生する樹木を縫うように切り通した小道からは、早くも夜気が立ち上っている。

急がなきゃ。

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フォッフォウ

またフクロウが鳴いた。

あれ?

なぜだか急に、眼前に広がる景色をさっきも見たような気がした。

いや、さっきだけじゃない、その前にも……。

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もしかすると自分は、同じ道程をぐるぐる巡っているだけなのでは。

そう思ったら、背後で鳴くフクロウの声がむしょうに怖くなってきた。

――善神はシュンクを好み、悪神はフプを好む

古くから村に伝わる言葉だ。

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シュンクとはエゾ松のことで、フプはトド松。

嫌な予感がして、キトは恐る恐る後ろを振り返ってみた。

薄闇のなか、暮れ切らぬ空を衝いて黒々とのびる一本のトド松。

その梢には、青白い冷光を放つ二つの目玉があった。

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「ひいっ」

キトは、その場にへたり込んだ。

フォッフォウ フォッフォウ

今までフクロウの鳴き声だと信じていたものが、じつはしゃがれた老婆の嘲笑だということに、彼はこのとき初めて気づいたのである。

Concrete
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