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短編2
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ペンギン

建設会社ではたらく友人から聞いた話。

彼がまだ新人だったころ、北海道のとあるプラント建設の現場へ配属になった。

ホタテ貝のウロを処理するためのプラントで、けっこうな山奥に建てられていたという。

元請けは大手ゼネコンだが、実質的に年配の所長と彼の二人だけで現場を管理していた。

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配属されてしばらく経ち、ようやくそこの環境にも慣れたころ。

設備業者の配管工が、現場事務所に顔を出してこんなことを言った。

「左官屋の若い衆が、3号プラントの資材置き場でペンギンを見たそうです」

所長は軽くうなずいただけだったが、友人は驚いた。

いくら北海道が寒いとはいえ、野生のペンギンが生息しているはずはない。

ましてやそのときは八月の暑い盛りである。

「あの、ペンギンってなんですか?」

そう訊ねる友人に、所長は困ったような顔で「なんでもない」とだけ答えた。

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それでも気になった友人は、あるとき酒の席でもう一度おなじことを訊いてみた。

するとかなり酔ったらしい所長は、苦笑しながらこんな話をはじめた。

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明治の中ごろに、北海道の原野を切り拓いてたくさんの道路がつくられた。

そのとき屯田兵だけでは労働力が足りず、集治監と呼ばれる監獄から多くの囚人たちが強制的に駆り出されたという。

極寒の地で、麻の囚人服に股引一枚の彼らは、つねに縮こまり互いに身を寄せ合っていた。

しかも両足は鎖で繋がれ、行進するときには小股でヒョコヒョコと歩いていたそうである。

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「そのすがたが、なんとなくペンギンに似ていたんで、いつの間にかうちで働く連中がそう呼ぶようになったんだ」

友人はギョとして息を飲んだ。

「えっ……ってことは」

「――出るんだよ、その囚人たちの幽霊が」

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「たいていは山の中を歩くすがたが目撃されるだけだが、たまに現場の近くまで寄ってくることがある」

青い顔をする友人の肩をポンとたたき、所長が息をついた。

「べつになにか悪さをするわけじゃないし、放っておけばすぐに消えてしまう。

まあ、あまり気にしないことだ」

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その後も何度かペンギンの目撃情報を耳にしたが、実際に友人が目にすることはなく、そのまま竣工をむかえた。

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ただ一度だけ、

夜ひとりで図面のチェックをしているとき、鉄パイプを引きずって歩くような音がしたことがある。

そのときは気にも留めなかったが、今にして思えば、あれは足枷どうしを繋ぐ鎖のこすれあう音だったような気がしてならない。

そう友人は話していた。

Concrete
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