明日は一人息子の結婚式。
私は父として新郎新婦に、スピーチすることになっていた。
そんな日の前日。
私は、歩いて帰宅した。
その日は、会社にいったはずなのだが、
何故かあるときから記憶がないのだ。
「ただいま。」
妻「・・・・」
「おーぃ、母さん帰ったぞー。」
妻「・・・・」
・・何かあったのか・・?
俺は妻が怒るようなことは、結婚生活12年目になるが、
いままでに一度もしたことがない。だから、無視される理由がないのだ。
なぜだか分からないが、うしろ姿で台所に向かう妻が泣いてるように見えた。
ネクタイをはずしていると、明日結婚する息子が帰ってきた。
息子「ただいま、母さん。」
妻「おかえり。」
息子には言って俺には言わないのか。と少しムッとしたが、
特になにも言う気にはならなかった。
息子「母さん、元気出せよ。俺だって泣きたいよ・・・。」
いったい何があったというのだ?
私は息子に聞いてみた。
「母さん、なんで泣いてるんだ?」
息子「・・・」
「どうした?なんで無視するんだ?」
息子「・・・」
「明日、楽しみだな。」
息子「・・・・」
息子も涙目になっている。
普段温厚で知られる俺も、このときばかりは、気分が悪くなった。
ネクタイをはずすと、風呂にも入らず食卓に向かった。
今日は私の好物のサンマの塩焼きと、
手作りのポテトサラダだった。
「ん?・・・」
おかしい。
飯の味が全くないのだ。
「母さん、味付けがいつもと違うんじゃないか?」
妻「・・・・」
味がしないご飯のせいで食欲が失せた私は顔を洗うことにした。
洗面所に向かうと水道の水を出して、顔をあらった。
「ふぅーっ・・・。」
といって鏡を見た私は、「あれっ?」と思った。
鏡に自分の姿が
うつっていないのだ。
そう思った瞬間、走馬灯のように
今日の帰宅途中の高速道路での事故の記憶がよみがえった。
私はいつも通っている高速道路で今日、
車ごとトラックに追突されたのだ。
おもったより激しい衝突だったようで、車もペシャンコに近い状態だった。
思えば、事情聴取してくるはずの警察さえも私のことを無視していた。
追突してきたトラックの運転手までも。
何をいっても無視されるので、
歩いて帰宅することにしたのだった。
私は気づいた。
「そうか、私はあの時・・・。」
息子が言った。
「母さん、なんで父さんの場所に
ご飯用意してるんだ?」
妻が涙声で息子に言った。
「父さんは死んだけど、またいつものように、家に笑顔で「ただいま」と
言って帰ってきてくれそうな気がするの。」
怖い話投稿:ホラーテラー 達人さん
作者怖話