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「てのひら怪談」第1・2話

中編3
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「てのひら怪談」第1・2話

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その一 「首無し観音」

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祖父は、神社の総代や寺の重要な任を長きにわたり務め上げた。

自他ともに認める 実に信心深い人だった。

ある日、神社に続く山道を歩いていると、こぶし大ほどの苔むした石が、祖父の足元めがけ、コロコロと転がって来たのだそうだ。

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拾い上げ、手に取ってみると、それは石ではなく、観音様の頭部だった。

祖父は、胴体がどこかにあるはずだと、何日もかけて近場の神社仏閣、道端の祠に至るまで、くまなく探してみたが、とうとう見つからなかった。

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祖父は、自宅敷地内に小さな祠を建て、そこに安置することにした。

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観音様の胴体は、名のある石工職人と彫刻師に依頼し、頭部を置いても遜色のないように、しっかりと造ってもらった。

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立派に出来上がった胴体の上に、観音様の頭部を乗せると、祠に納め、丁重にお祀りすることにした。

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私が幼い頃、一度だけ、祠の中を覗いたことがある。

中は、暗く、霞がかっていて、どんなに頑張っても、結局、私には、胴体しか見えなかった。

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一緒に覗き込んだ従妹たちは、空っぽで何も見えない。観音様の胴体や頭部は、どこにあるの。と、口をとがらせ文句を言った。

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祖父は、従妹たちが、口々に語るのを、ニコニコしながら聞いていたが。

「見えなくてよいのだよ。見ようとして見えるものじゃないからね。」

と言った。

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それから、私の方に身体を向け、耳元で、そっと呟いた。

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「見えたのが胴体だけで良かったな。あれは、見てはいけない、いや、視(み)えてはいけないモノなんだよ。」

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その二 「午前2時の地震」

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ここ数か月、深夜2時を回る頃、頻繁に地震が起きるようになった。

一昨日、深夜2時。窓ガラスがサッシごと外れてしまうかのようなガタガタガタという大きな音を立て、数分間揺れが続いた。

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揺れ自体は軽微なもので、ニュースにもならないし、地震情報のメールも届かなかったが、私は、いつ大きな地震が来てもいいように、家中の明かりをつけ、朝まで、読書をしながら、夜を徹した。

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今朝、ゴミを出しに集積所に行くと、お向かいの奥さんが、血相を変えて私の元に駆け寄ってきた。

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一昨日の深夜、ガタガタガタという物音がしたので、外に出てみると、我が家の居間の窓ガラスを空き巣狙いの常習犯がこじ開けようとしていたという。

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すぐに、警察に通報し、男は、その場でお縄になったというのだが。

男は、しきりに、この家には、誰も住んでいないはずだ。もう何年も空き家だと言い張ったらしい。

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「奥さん、一昨日深夜、家に居なくて良かったわね。ホント良かった。チャイムを押したり、声を掛けたりもしたけれど、真っ暗で人の気配がしないから、多分、お留守だろうって。警察の人もホッとしていたわよ。」

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一昨日の深夜から、昨日の朝まで、私は、ずっと起きていた。

家中の灯りをつけて。

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居た。

はず…なんだけど。

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