深夜、カップルが山へドライブに出掛けた。人気のない道を走行していると、ラジオより緊急速報が流れた。内容は丁度今いる山の近くにある医療刑務所から「危険な人物」が脱獄したという情報。彼女は帰ろうと訴えたが彼は聞く耳を持たなかった。
それから、しばらくして突然車のエンジンがおかしくなり、彼は車を脇に止めた。色々といじってみたが調子は良くならない。まだ携帯も圏外で通じなかった。彼は仕方なく山の麓にあるガソリンスタンドまで歩くことにした。
しかし、それを聞いて恐くなったのは彼女の方だった。一人にしないでと泣きついたが、彼は一刻も早く車をなんとかして帰りたいという気持ちがあった。彼は彼女をなだめ、車をロックして待っていてと言い残し、その場から立ち去った。
どれほどたったのか。闇に包まれた車の中、彼の帰りを待っていると突然上から
・・・・ズリッ・・・・ズリッ・・・・
という何かをこする音が聞こえてきた。車の屋根を擦っているような・・・・。音は不規則だが止むことはなくいつまでも鳴っている。
彼女は音の原因を知りたかったが、恐怖が先立ち、外へ出ることが出来なかった。頼みの綱である彼も何故か帰ってこない。彼女は一睡する事もなく夜を過ごした。
やがて朝になり一台のパトカーがやってきた。警官が車までやってくると彼女はようやく恐怖から解放され、車の外へ出た。事情を説明しようとすると、警官は何故か「もう大丈夫です。決して後ろを見ずこちらへ来て下さい。」
後ろを見るな?何故だろう?
不審に思った彼女は警官へ歩み寄りながら、好奇心に負けて振り返った。
彼女は悲鳴を上げた。
ガソリンスタンドへ行くと云って帰らなかった彼が、車の脇の大きな木の枝から首に紐を掛けられ、ぶら下がっている。
あの一晩中響いていた音は、風に揺れる彼の死体の足が車の屋根を擦っていた音だったのだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 俺が殺ったさん
作者怖話