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中編4
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くびなが

 小学生の時にさぁ、なんかよくわかんない嘘つくやつ一人はいなかった?

 いや、例えば親がAKBの関係者とか、映画監督とか、そういう感じの。 そうそう、すぐバレるような嘘つくやつ。たぶん、どこの学校にも居たよな、そういうやつ。

 俺の母校にも例に漏れず居てさ。木下って言うんだけど。そいつ、小三のときに博多から転校してきたんだけどさ、まぁ変なやつで。福岡出身なのは変わんねぇのに標準語喋るんだよ。あ? 今の俺もそう?やかましいわ!まぁ話戻すわ。

 標準語なのも変なんだけど輪にかけて変なところがもうひとつあってな。いっつも上を見てんだよ。ん? 今の俺みたいに? まぁ、だいたいこんな感じだよ、まさに。酔った俺が今してる顔の上げ方と同じような感じで、それがいつも。四六時中の話だよ。やべーだろ?

 変なやつだから、みんな避けてたんだよ。話してる時でもずっと上向いてるし、なんか話は要領を得ないし。最初に言った通り、よくわかんない嘘をつくしな。例えばお父さんは殺し屋とか、お父さんは俳優だとか。家にキリンがいるっていう嘘を聞いた時なんかは子供心に馬鹿かって思ったよ。

小学生からしても不気味でさぁ。虐め、とは言わないまでもちょっかい掛けて遊ぶようなやつもチラホラ居たのを覚えてる。俺はそもそも避けてたけどな。

 でも、ある時ちょっとしたきっかけで木下の家に遊びに行く機会ができたんだ。と言ってもその時っきりで、遊びに行ってからは会話すらまともにしてない。

 んでそのきっかけなんだが、なんでも木下の家は任天堂の関係者らしく、DSの最新機種が特別に届いたって話をクラスで木下が自慢してたことなんだ。おいおい笑うなよ。当時の俺は純粋だったんだ。

 まぁ、もう察したと思うけどその荒唐無稽な自慢話を俺が真に受けちゃったんだよ。で、あんま話したことない木下に遊びの約束を取り付けたんだ。即日な。その時の木下、めちゃくちゃ嬉しそうだったなぁ。

 放課後、俺はウキウキで木下の家まで向かった。と言っても木下の家は小学校の裏手にあったから、ランドセルを背負ったま直行だったけどな。

 親とか近所の人から噂には聞いてたんだが、まぁ豪邸でな。子供の時の記憶だからある程度の補正は入ってるかもしれないが、田舎の一軒家としてみても他と比べて明らかに豪勢で広かった。

 庭の芝生にはあの水が自動で出るやつ、そう、スプリンクラーが設置されててな。車もかっこいいやつが3台くらい車庫に並べられてて。

 それを見た俺は木下が俳優の息子だって言うのも案外嘘じゃないのかもしれない、なんて思っちまったな。

 一緒に居た木下はちょっとキョロキョロしたあと、「お父さん、居ないみたい」って言って玄関じゃなく障子の窓を開けて手招きした。この時点で変な話だろ? 普通、家を留守にするにしても子供のために鍵を用意するだろ。

 その時の俺も少し違和感を抱いたけど、結局、窓から家に入った。だってDSが待ってるから、当たり前だな。

 家の中に入ってすぐ、俺はたじろいだね。

 だって整備が行き届いていた外と比べて、内装がめちゃくちゃだったからだ。

 なんかズタズタに引き裂かれた服が床にちらばってて、線香みたいな匂いも充満してる。木下が床を歩く度に、木が軋むような不気味な音が鳴る。いや、本当に、怖いわって感じで。

 

 動くことも出来ず、しばらく歩く木下の背中を呆然と見つめてたんだけど、すぐにこのままだとこのやべー空間に取り残されるってことに気がついて、俺はどうにか木下に着いていくことにした。

 木下の部屋は二階にあるみたいで、その間俺はできる限り木下の後ろ姿を注視して歩いた。なんか途中で変なものを踏んだ触感がしたことが度々あったが、できる限り気にしないように努めたよ。まぁ、用が済んだら二度と来るかこんなとこ!とは思ったね。

 それでなんとか部屋に辿り着いたはいいが、それが肝心のDSどころか家具ひとつ見当たらない、めちゃくちゃ殺風景な部屋でさ。ああ、いや、一つだけ特徴的なものはあったんだ。

 部屋の真ん中に縄がぶら下がってんの。電気の紐?いや、そんな細長いのじゃなくて、まじの荒縄。先端は輪っかになっててさ。

 部屋に入るなり、木下はその縄の前に正座するんだ。そんでその縄を見てずっとブツブツ。

「友達連れてきたよ、お母さん」

 だいたいこんな感じの言葉をずっとブツブツ。DSどこだよ!なんて聞く勇気俺にはなかったね。

 ビビりながら帰るって言っても木下はこっちを見向きもせずに天井にぶら下がってる縄、と言うよりも縄の輪っかにたいしてずっと話し掛けてた。いよいよ怖くなって俺はその場から走りさろうと扉の方へと向いた。そしたらさ、丁度縄が括り付けられてる天井がギシギシって、いやそんなレベルじゃないくらいの激しさで軋み始めたんだ。

 ぶら下がってる何かが激しく揺れてるみたいな、そんなことを想像させるような音だった。俺はもうその場から一目散に逃げ出した。部屋の方からドンッ!て何かが倒れる音がしたけど構いはしない。

 結局、俺はDSに会うこともないまま、家に帰ってその日はすぐに寝た。怖くて布団から出られなかったんだよ。おねしょしたのはあの日が最後だったな。

 その日以来、木下とは会話してない。怖いしな。

 ん? 変な小学生の話がホラーになっちまったか? そりゃ悪かった。でも、今の俺にとっては怖いって言うよりも懐かしい気持ちの方が大きいんだ。なんでだろうな。

 首? 首は痛くないよ。確かに上をずっと向いてるのはしんどいけど、お前よりはマシだろ。なぁ木下。 もういい加減いいだろ。

 そこから見下ろすのをやめてくれよ。

 

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