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長編9
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邪神 石薙命

何か怪奇現象が起きて呪われたと思って寺や神社に頼ってお祓いしてもらうってのがありきたりの除霊方法だけど、友達(Aと呼ぶ)の地元にも神社みたいなのがあって何か霊的な変なことがあったら昔からAの集落の人たちはそこを頼っていたらしい。

ぼくは怪談とかホラーが好きで友人とよく語り合ってるんだけど今回書くのは実際にその1人のAが体験した話。

どんな体験をしたかはAが覚えている範囲で話してくれたから曖昧なこともあると思うけど勘弁してほしい。

その神社は、何を祀っているのかと言うと石薙命とかいう神様らしい。(漢字が正しいかは不明)

僕も石薙命について色々と調べてみたが全くヒットする気配もなく、Aもその地元の神様だって言っていた。その石薙命の話はAは幼い頃から聞いていたらしく、源平合戦で武功を積んだ平家勢力の武者が家臣の武者に裏切られて相当な憎しみ、怨みを持ちながら惨殺されたそうでその怒りを鎮めるために、神格化させ祀ってると言うのが石薙命らしい。

そこの集落は、曰く付きのところが多くて何らかのいざこざが起き並々の夫婦喧嘩勃発、程度ではない虐待が毎日のように続きついには状態を打開できずに一家心中した家があったり、昔不作だった時に親戚に夜逃げされ見捨てられて自殺した人の家なんかが廃墟化してまだ残ってるようなところがいっぱいあったそうだ。

そこらに当時のAや友達はヤンチャなものだから、みんなで肝試しに行くようなことが多かったそうだ。「ゆめゆめ近付くな」ときつく言われていたそうだが。

Aには霊感がある友達がいて(以後Bとする)

Bとかと一緒にバカやってて肝試しした場所を秘密基地にしてしまうほどだった。(B曰く、幽霊は見えるらしいが秘密基地の霊は特に害のない浮遊霊で、互いに干渉しない方がいいそうだ)

ある時またみんなで肝試しに行こうと言う話をしていて、一家心中した地縛霊のいる住宅を目的地にしようとしていた時、Bの反応がいつもと違っていたそうだ。

「あそこはマジでやめた方がいい。まず気配が今までのところと違う」

Aは当時幽霊なんてものは信じていなくて、肝試しに行くことこそが遊びだと思っていたらしく

「今まで幽霊なんてでたことなかったろ。すぐ行ってすぐ戻るだけだから!」

「おい!やめろって!本当にヤバいって!」

「大丈夫大丈夫、本当にヤバそうなら逃げればいいだけだろ?」

と、無理矢理嫌がるBを連れて行ってしまった。Bの他にCという人もいてCも乗り気になってその家にBを連行して行った。その家の近くに来るとBがより露骨に嫌がりだした。

「こんなところには居られん!俺は帰る」

と断固として帰ろうとするのでAは、

「俺とCで探索するからBは家の前で待っていいよ」

と仕方なく告げて壊れた窓から部屋の中に侵入して行った。一応Aは、玄関に戻り、ドアの鍵を開け

「何かあったらすぐ戻るから。」

と、Cと一緒にドアの埃が飛び交う中消えて行った。Aはこのことを今でも後悔している。今までとまるで違うBの様子からBに従い、いつも通り秘密基地で遊んでこの廃墟のことなど忘れるべきだったと。

AとCは二手になり適当に探索して回ったそうだが、ほどなくしてCの甲高い悲鳴が聞こえてきた。Aは急いで悲鳴があった方向に向かったが、途中でBと鉢合わせした。Bも悲鳴を聞いて急いで駆けつけていた。

Aは当時ひどくパニックになっていて、落ち着いたBを見て少し冷静さを取り戻したらしい。必死でCを探したがCを見つけるのは容易だった。

Cは、和室でうつ伏せになって倒れていた。ただ、気絶していただけならいいのだがAとBが見たものは想像を絶する光景だった。

Cの首が紅く染まっており、Cは何か訳の分からない言葉を叫んでいた。Aもそれは聞き取れなかったらしく、昔の言葉のようなものであったと言う。

おまけにCは痙攣しており、ひとまずAとBはCを担いで廃墟の外へと運び出した。Cは外に出ても何やら訳のわからない言葉をブツブツ呟いている。

「Cの携帯があるはずだからそれをとってCの両親に電話をかけてくれ!ここは素直に話すしかない。」

Bの言う通りである。AはCのポケットから携帯を取りCの親に事情を話した。Cの親は当然激怒し、AはCの親に謝り続けることしかできなかった。十数分経った頃、2台の車が廃墟の周りに集まってきて、中からCの両親とAの両親が出てきた。

「お前ら何考えてんじゃボケェ!こう言った廃墟の中には入るなと言っただろうが!」

と、出てきていきなりCの両親が怒鳴った。A達の両親は、A達がどんな遊びをしているか全く知らなかったのだ。教えるわけにもいかないようなことをしていたから仕方がないことではあるが。明明白白、Cが取り憑かれていると想定することは親でもできた。

「とにかく神社いくぞ。バカ息子が... A君とB君はCのそばにいてやりなさい。」

両親に催促されて各々が車に乗った。もちろんAとBはCと一緒に乗った。Cはまだ口もきけないでいて震えが止まらなかったらしい。車の中にはCの祖父母も乗っていて、Aは祖父母からこんなことを聞いたと言う。

「あの神社に行けばきっと神主さんが助けてくれる。ばあちゃんも若い頃、タヌキの霊に取り憑かれた友達を神社に連れて行って助けたことがあるの。今は神主さんの息子さんかお孫さんに代替わりしてると思うけど絶対に助けてくれる。安心しなさい。」

AはBにあの神社は、石薙命を鎮める神社であってそう言うことはできないのではないかと聞いたが、Bもそれについてはよく分かっていなかったらしい。

それどころか、あの神社は悪い気が漂っているから極力Bは近づくのを避けていたようだ。それを聞いてAは何やら胸騒ぎがしたようで、自分が廃墟へ行くことを主宰したことを後悔した。

正午あたりを過ぎた頃、車が神社に到着した。AとCの両親は神主を探しに行った。AとBはCを見ていろと言われたが、Cの様子に変わったものは見られなかった。Bも、何やら胸騒ぎを感じていたようで霊感がないAも只事では無くなったと思ったらしい。

車の中にいた時よりも口数が少なくなっており、ひたすら神主が来るのを待ち続けた。Aにとっては待つ時間が気の遠くなるように長かったらしい。しばらくすると、両親が1人の男を連れて戻ってきた。

「君がC君だね。話は両親から聞いたよ。でももう大丈夫。堂の中に入りなさい。」

その人が神主で、きちんと正装を着ておりAもBも安心したそうだ。Cは返事もできず、ひたすら震えていたその刹那、ゆっくりと神主を見上げ、今まで見たことのない表情を見せた。まるで、神主に家族を殺されたかのような目で神主を睨みつけていたそうだ。そして、

「ううううううううぅぅぅぅ....」

と唸り声を上げ始めた。明らかにCの声じゃない。AとBはすぐに気付いたらしい。Cの声はもう少し低くて、女性が苦しんでいるような声をCは出したと言う。そして、暴れ出した。皆がCを取り押さえる中、Cはヘドロのようなものを神主に吐き出した。

不幸中の幸いで、ヘドロのようなものは神主には届かなかったが、辺りが悪臭にまみれた。急いで全員で暴れるCを堂の中に担ぎ入れたと言う。僕は霊体験などしたことはないがAの話にはかなりの臨場感があった。

堂の中に入るや否や、Cは赤ん坊のようにギャーギャー泣き始めたと言う。そして紅く染まった首を掻き始めた。神主の顔をAはその時見たそうだが、あの神主でさえも顔色が悪く

「この事態は想定していませんでした...この子にはとても怨念が強い霊が取り憑いています。全力を尽くしてもこの霊はこの子から一時的に離れるだけになるかもしれません。その場合は、厄介ですがC君の家に結界を張る必要があります。除霊をした後も、気を抜かないでください!」という。

「この子を...Cをどうかお願いします...」

そういったのはCの母だった。家族は涙を流しながら神主に頼るしかなかった。

「では除霊を始めます。怨霊がC君から抜け出た後も近くにいる人に再度取り憑く可能性があります。C君以外の人は申し訳ないですが結界を張った別の部屋で待機していてください...絶対に外に出てはだめですよ。必ずC君は助けます。私にお任せください。」

A達は他にどうすることもできなかった。神主しかそういうことはできない。幽霊を信じないAも名状し難く偽りのないこの現象を理性ではなく感覚で理解することしか出来なかったそうだ。そのままA達は別部屋に連れて行かれ、Cの除霊が始まったという。A達は部屋の中で終始無言で気まずい雰囲気が流れていたそうだ。しかし、しばらく時間が経ちその沈黙を初めて破ったのはBだった。

「なんか、吐き気がする...息が苦しい...」

と言い出しBが唸り始めたのだ。AやCの両親達はみんなでBに駆け寄り背中をさすっていた。しかし程なくしてBの体調は元に戻った。Bはものすごい息切れをしており、

「お前除霊中になんか見たのか?」

とAが聞くと

「地獄を見た...地獄を見た...」

とひたすら呟いていたらしい。その後神主とCが部屋に入ってきて、

「全て終わりました。C君にいた怨霊は祓いましたよ。本当におつかれさまでした。」

と、笑っていた。Cもさっきまでとは全く違う顔色になっており、幾分よくなっていた。Cは泣いてはいたがほっとしたような顔をしていたという。首の発疹も消えていた。

「あの怨霊は、首を吊って死んだようなのでそれがC君にもあらわれたのでしょうね。C君の首のアザはそれです。しかしまだ油断はできません。このお札を、C君の部屋の四方の壁に1週間は貼ってください。これで霊はもうC君に取り憑くことはないでしょう。」

Cの親は涙を流しながら神主にお礼を言い、その日は解散になったらしい。その時はBまでもが涙を流していた。

その3日後のことだった。Cの死がAとBに伝わったのは。Cはあの後突然高熱を出し寝込んでいたらしくそのまま帰らぬ人となったそうだ。Cの両親は神主を追及したが泣き寝入りすることしかできなかった。Cの両親はその後、一家ごと失踪してしまい、どうなったかは今でもAにも分からないらしい。

Aは、やはりあの怨霊の力が強かったと当初は思っていたらしいが、Bの話を聞いて戦慄したという。Bは、Cの除霊中に何を見たというのか、BはAに全て打ち明けた。

そもそもCについていた霊はそこまで力を持っていない霊だったそうだ。最初に書いたから察しているだろう。Cを殺したのは、石薙命だ。あの神主は、除霊をしていたのではなくて、石薙命をCに取り憑かせたのだという。

あの霊は、石薙命の怨念が強すぎて消滅してしまったらしい。そしてあのお札は、空き巣がターゲットの家につけるマークのようなものらしい。Cの部屋にマークをつけて石薙命をCに取り憑かせ、殺したというのがBが暴露したことだった。つまり、最初から神主はCを殺す目的だったということだ。Bが予想するに、神社についたCが神主をこの世のものとは思えない形相で睨みつけて唸ったのは、Cに取り憑いていた霊もあの神主に殺された霊だからという。

僕は、あの時のBの涙の意味が分かった。Bはあの時にすべてを察したのだ。Cが神主に殺される運命を悟ったのだ。

過去に、その一家が神主に騙されて一家心中したというのがBの結論だ。その一家を破滅に追いやったのも石薙命だそうだ。石薙命はそうやって力を蓄えているらしい。

Aが1番僕に伝えたかったのは、善人に思える立場でもとんでもない外道をしている人間が1番怖い、ということだろう。その話を聞いた後、AとBの家族はその集落を出て行った。あの神主が今どこで何をしているかは分からない。あの神主は何がしたかったのだろうか。力を手に入れた石薙命を使い何を企んでいるのだろうか。今もあの神主が誰かを犠牲にしようとしていることを考えると背筋が凍る。

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