もう30年も前のことなのですが自分の中で溜め込んでおけなくなったので吐き出させてほしい。身バレ防止にフェイクは入れさせてもらってます。
自分の小学校の裏手には雑木林が広がっていて、少し奥の方に行くと干し沼という沼がありました。沼といっても水深はほとんどなくて腐った落ち葉や泥で埋まったぐずぐずのでかい水たまりみたいな感じの場所でした。
しかもその沼は雨が降った後はまるで底なし沼みたいになり、大きめの石を投げ入れるとズブズブと沈んでくので子供目線でも危なそうに思える場所でした。もちろん柵で囲われていて大人からも近づかないように言われていました。
自分が6年生に上がった頃この干し沼に関わる変わったおまじないが学校内で流行るようになりました。それは雨の日に干し沼に行き願いを唱える、そしてその願いにふさわしいと思う代償として自分にとって大事なものを沼に投げる。次の日にまた沼に来て投げたものがちゃんと沈み切っていたらその願いは叶うという今思えば本当に子供らしいものでした。
ですがこのおまじないは偶然なのか本物なのか数名の友達が願いが叶ったとはしゃいでいました。自分は初めは馬鹿らしいと思って聞き流していましたが、ちょうど中学受験に向けて成績が上がって来ずスランプの時期でもありほんの気まぐれあるいは気の迷いで干し沼のおまじないを試してみることにしました。
何を投げるのが良いかいろいろ悩みましたが去年の誕生日に買ってもらったゲームボーイを思い切って投げることにしました。どうせ勉強のために遊ぶ暇などないだろうというのもこれを選んだ理由の一つでした。
ちょうど梅雨だったので雨の日を待つ必要はありませんでした。早速私はコソコソと干し沼に向かいました。
晴れの日の真昼でも薄暗い雑木林ですので雨の日ともなるとより陰鬱でなんだか怖く感じます。なんとか靴をドロドロにしながら大きく口を開けている干し沼まで辿り着きました。
いざ買ってもらったゲームボーイを投げることを考えるととても惜しい気持ちもありましたがここまで来たからにはという気持ちが勝り思い切りゲームボーイを放り投げました。ゲームボーイはベチャっと沼に着地しましたが仰向けの角度(画面が上を向いている)で落ちたためなんだか沈んでいかなさそうに見えました。
さらに投げ終えた後急に冷静になりなんて馬鹿なことをしたのだろうと激しく後悔しました。
ものすごく虚しい気持ちで沼を離れて帰路を歩いていると向こうから誰かが歩いてきます。
近づいてやっとわかりましたが同じクラスのM君でした。M君はすこし貧しい家庭の子でしたが性格がとても良く友人も多いタイプで私も非常に仲の良い関係でした。
M君はニッと笑いながら「何をお願いしたの?」と聞いてきました。自分も少し照れながら「受験がうまくいくように・・・」と答えると「そうだね、合格するといいね!!」と満面の笑みで応援してくれました。
やっぱりこういうところがいいやつなんだよなと思いつつM君は何をお願いするのか聞くと「僕は昨日お願いしたんだよ。ちょっと欲しいものがあって。叶うといいんだけど」と言うので「自分が来たときには特に浮いてるものはなかったからきっと叶ってるよ!」と言うと最高の笑顔で「そっかー!それは嬉しいな。◯◯君(自分)も楽しみにしててよ」と言葉を残して沼の方に行ってしまいました。
彼の背中を見送りつつ一体何を願ったのだろうと考えながら家に帰りました。
翌日学校に行くといつも早くに登校しているM君の姿が見えません。不思議に思っているとホームルームで担任の先生に昨日からM君が家に帰ってないことを告げられました。母子家庭でM君のお母さんが夕方以降働きに出ていたため気づくのが遅くなってしまったようです。
自分はすぐに先生に昨日干し沼にM君が向かったことを伝え、先生や地元の大人たちによる捜索が始まりました。
結果から言うとM君はその日のうちに見つかりました。
ただ干し沼に完全に沈んだ状態で、発見されたときにはすでに息をしていなかったとのことです。
またこれは人伝に聞いたことですがM君の手にはしっかりとゲームボーイが握られていたとのことです。
作者礎吽亭雁鵜