これは我が家の息子がまだ3歳の時の出来事です。
私たち家族は主人の転勤にともない、ある町へ引っ越しました。
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ようやく荷物の片付けも落ち着き、主人は前日から新しい職場へと出社。
私は洗濯物と掃除を手早に片付けると幼い息子と散歩に出ました。
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その日は春の日差しが暖かく、緑が青々として気持ちが良かったことを覚えています。
しばらく住宅街を歩いていると道の脇に緑の垣根で囲まれた公園がありました。
その公園はこじんまりとしているものの中には象の形の滑り台と二台のブランコ、
そしてパンダと馬の形をしたまたがって乗る遊具がありました。
公園には天気が良いのに他に遊ぶ子供の
姿が無く、私はこの辺には小さい子供って居ないのかなと思った事を覚えています。
手を繋ぎ公園に入った息子は象の形の滑り台を見つけると喜んで駆けより何度も繰り返し滑り、一通り全ての遊具で遊んだ後、今度は垣根の下に落ちている小石や木の枝なんかを拾って地面に絵を書いて遊び始めたのです。
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私はその様子をベンチに座って眺めていました。
すると息子は近くに設置された二台の自動販売機に興味を持ち、取り出し口を開いたり
閉じたりしているので、私は
「〇〇〇くん、それで遊んじゃ駄目だよ。」と言うと
息子は手を止め今度はなぜか二台の販売機の間に向かって「いないいないばぁ。」をしたのです。
次の瞬間、息子はピタっと動きを止めてじっと中の様子を見ています。
「どうしたの?」と私が聞いても何も答えず、ただジーッと販売機の間を見つめています。
私は不思議に思い
「〇〇〇くん、どうしたの?」と聞きながら近寄ると
息子は自動販売機の間を指さし
「くろくろくろすけ」と私に言うのです。
この頃、息子はDVDで見た「となりのトトロ」に出てくる「まっくろくろすけ」が大好きで
サツキとメイちゃんが「まっくろくろすけでておいで」と言うのに合わせて
「くろくろくろすけ、くろくろくろすけ!」と
よくはしゃいでいました。
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私は自動販売機の間に黒猫でもいるのかな?
と思い、首を傾け覗いて見ましたが
そこには何もいません。
「〇〇〇くん、何もいないよ。」と
私が言っても、息子は
「いないいないばぁ! いないいないばぁ!」
と言い私のズボンをぎゅっと握ってくるのです。
「え?いないいないばぁ?」と息子に聞き、
私はそれとなく自動販売機の間に向かって
「いないいないばぁ。」と言いながら
再び首を傾け覗いたその瞬間。
shake
「ヌッ」と真っ黒な人型が自動販売機の後ろから
私と同じように首を傾け覗いてきました。
shake
「きゃっ!!」と私は叫び
「いないいないばぁ!」と、まだ言う息子を抱きかかえ直ぐに家へと飛んで帰りました。
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あれは販売機の直ぐ後ろにある白い建物の壁に映った私の影なんかじゃない。
人型をしていたけど普通の人でもない。
shake
「生きてる人間じゃない。」
私には確信がありました。
なぜならその炭の様に焼け焦げた質感のそれは厚みが全く無く影の様でいて
それでもその顔の部分にはギョロっと血走った
大きな二つの目が
私を確実に見つめてきたのだから。
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その後、私は息子をその公園には二度と連れていく事はしませんでした。
幸いその公園とは逆の方角に同じような公園があったので二年後また引っ越すまでは、そっちの公園に行っていました。
仲良くなったママ友に、それとなくあの公園について何かなかったか聞きましたが
特に気になる情報は得られませんでした。
一体あれは何だったのか、あの公園で何があったのか?
今となってはもう何も分かりません。
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あなたが自動販売機の前に立つ時、もしかしたら気付かないけど
その後ろに何かとんでもないモノが潜んでいるかも知れないのです。
作者zero