第1章「あ行」
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第1話「あぁ・・・」
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帰宅し、家のドアの鍵を開けた瞬間、
あぁ・・・
家の中から、かすれた女のため息が聞こえた。
一瞬 ゾクッとする
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「誰かいるのか。」
と声を上げるも、返事はない。
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―なんだ 気のせいか
1(ワン)ルームにひとり暮らし 人手不足 サービス残業 深夜帰宅が続いていた。
ーたぶん、そのせいだろう
ベットに 疲れた体を横たえる。
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まどろみ始めてすぐ、急な寒気に襲われ、手繰り寄せたタオルケットに身を包んでも、なぜか震えが止まらない。
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あぁ
あぁ
あぁ
断続的に聞こえる 女のため息。
身体が硬直し、動けない。
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唯一動く目は、意志とは裏腹に、なぜか声のする方へと向いてしまう。
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あぁ“あぁ”あぁ“
ベットと壁の隙間に こちらに背を向け 顔を斜め天井に向け佇む女がいた。
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「それで。その後のことを教えてください。」
「女は、それきり一度も現れてはいないんですが。」
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自覚しているのかいないのか、男は、何度も あぁ、あぁあぁ
ため息ともうめき声ともつかぬ声を挙げた。
「それから、よく眠れなくて医者 いしゃあぁぁぁぁぁ通いしてまして。あぁあぁ、あんまり、怖くなくてすみません。」
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男の肩に、ドス黒い影が差したように感じた。
「いえ、十分怖かったです。貴重な体験談ありがとうございました。どうぞ、お大事になさってください。」
私は、簡単に礼を言うと、男より先に店を出た。
作者あんみつ姫
新シリーズ「あいうえお怪談」スタートしました。
怖話投稿11周年記念に投稿してみました。
「あ」から「ん」まで、50音から始まるショート怪談をお楽しみください。
皆様の忌憚ないご意見ご感想をいただけましたら嬉しいです。