中編5
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言ってはいけない場所

俺の通う大学の後輩に東北A県出身の奴がいる。

最近生意気にも、幼馴染の女と同棲している。

奴に聞くと、

「彼女ではない」

と言い、

女に聞くと

「彼氏ではない」

と笑う。

まあ、俺にとってはどうでもいい事だが(正直言って女は俺のタイプではないので・・・)、そのあたりをはっきりしてもらわないと、付き合いづらい事おびただしい。

一度女に聞いてみた。

「彼氏でもないのに、何で一緒に住めるん?」

女はトイレに行っている奴に聞こえないように、

「放りっぱなしだといつ自殺するかわからないから」

と、言ってクスっと笑った。

(確かに!)

俺も妙におかしくなって笑ってしまった。

つい先日も霊に取りつかれて、道路に飛び出したらしいから。

奴(以降K)がトイレからもどると、苦笑いして言った。

「なかなか、出てってくれません」

Kによると、憑いている霊は、虐待を苦に亡くなった少女の霊らしい。

母親の連れ子だった少女は、再婚相手の父親から激しい暴力を受けていた。

ある日、父親は少女をむりやり裸にした。

少女は決めていた。

父親がもしもそんな行為をしてきたら殺す、と。

「電気を消して!」

少女が叫ぶと父親は言うとおりにした。

少女はカーペットの下に隠していたナイフを手にとると、覆いかぶさってくる父親の首に思いっきり突きたてた。

Kが理解できたのはここまでらしい。

おそらくその後、少女は錯乱状態で、自分が何をしたのか覚えていないのではないか、とKは言った。

「何かその娘・・・血まみれで見てられないんですよ、泣いてばかりで・・・」

Kはその子が成仏するまで付き合う事に決めたと言った。

俺は自分では、金縛りも、心霊体験も、一度も遭った事無いのに、昔からそういった物に興味があった。

Kは年下だが、そういう方面では、ある意味俺よりはるかに先輩だ。

ほんの2、3日前の事。

閑散とした学食で自販機のコーヒーをKと2人で飲んでいた。

「Kさあ、心霊スポットってあるじゃん、あれホントに出るの?」

俺はなんとなく聞いてみた。

Kは少し考えて、こんな事を言った。

「心霊スポットって、確かに霊がいる事多いですけど、人間って、よっぽど鈍い奴じゃない限り、本当に怖い場所には近づけないんですよ」

「本当に怖い場所?」

俺は既に興味津津だ。

「本能ってあるんですよ、人間には、防衛本能」

Kは立ちあがって自販機に向かった。

「ここは俺がおごるから」

面白い話が聞けるなら安いもんだ。

コーヒーを飲みながらKは話し始める。

「もしもその場所が本当に危険なら、まず普通の人間は近寄れない、絶対に!もしそんな所に平気で行く奴がいたら、もう完全に悪霊に憑依されてます」

「そこに行くまでに憑かれてるって事?」

と俺。

「そうです、人間って大抵守護霊が後ろに付いていて、その場所があまりにも危険なら、どんな事をしてでも知らせようとします」

「俺にも守護霊っているんか?」

「います、姿をはっきり見る事は出来ないけど、思いを感じる事は出来ます」

Kは俺の背後に目をやりながら、

「たぶん、先輩の守護霊は、お母さんの母親だと思うんですけど・・・」

「へー」

俺は、物ごころついた頃には既に亡くなっていた、おばあちゃんの写真を思い浮かべた。

(そういや初孫でとても可愛がってくれたとおふくろが言ってたっけなあ)

「人間の本能って、あれ、あの世と繋がってる事多いんですよね」

Kの話は長くなりそうだったので、自分が副部長を務めるサークルの事が気になって、夜、続きを聞く事にしてKと別れた。

俺はサークルが終わるのが待ち遠しくてならなかった。

あらためて、俺のオカルトへの傾倒がただ事じゃないって事に自分自身驚きながら、Kの住むアパートへ向かった。

俺がKのアパートに着いてノックすると、Kは待っていたかのようにドアを開けて外に出てきた。

「ファミレスで話しましょう」

Kはドアを閉めると、先に歩き始めた。

「彼女、そういう話苦手なんで・・・」

窓際のテーブルで、Kはカレー、俺はピラフを食いながら、しばらく沈黙が続いた。

Kは話そうか話すまいか躊躇してるみたいだった。

「本能がどうとか言ってたよな」

少し焦れて、尋ねてみた。

「ん?・・・ああ・・・」

学食では饒舌だったのに、Kは何故か、何も話そうとしない。

俺は話題を変えようと彼女について聞いてみた。

「2人は何?付き合ってるってわけじゃないの?」

Kは

「先輩・・・ここでの話彼女には黙っててもらえます?」

俺は当然、首を縦に振った。

「彼女の兄さん、先輩が言ってたような、心霊スポットみたいなとこ行って・・・死んじゃったんですよね。」

Kが思いもよらない事を話し始めたので、俺は何故か周りを見渡した。

「俺が殺したようなもんなんです。」

Kはうつむいてため息を吐いた。

「どういう事???」

俺は何を話したら良いのか見当もつかなくなった。

「先輩、俺A県出身なの、知ってますよね」

「ああ・・・」

何となく気持ちがざわざわしてきた。

「俺の生まれた村ってのは、昔は、ほんと貧しい寒村で・・・・・姥捨てやら、間引きやら、普通にあったとこなんですよね」

「間引き?ってあの?」

Kは頷いて

「江戸時代の事だと思ってる人多いと思うけど、実際は、明治になってからも続いてたんです」

俺はもうKの話に耳を傾けるしかなかった。

「俺の村では、間引きした赤子は、ある山の中腹にある沼に捨ててたらしいんですけど・・・・・実際は違ってたらしいんですけど、底なし沼だと信じられていた沼があって・・・」

Kはそれらの話を、隣の家に住む霊能者から聞いたらしい。

その霊能者はさらに恐ろしい事をKに話した。

村にいつまで経っても子供ができない女がいた。

その女が諦めかけていた頃、待望の赤子がお腹に

宿った。

しかし、生まれた赤子は、もはや人間とは呼べない程の奇形児だった。

全身が蛇の鱗(うろこ)のようなもので覆われており、目は蝮(まむし)の目のようだったという。

産婆は母親にそれを見せぬまま、底なし沼へ捨てさせた。

霊能者のおばあさんは言った。

「母親にそれを見せていれば、そんな事にはならんかったろうに・・・」

待ちに待った子供を勝手に捨てられた母親は、「奇形だった」という声には耳も貸さず、狂ったようにその山に入って行った。

捨てた場所は分かっていた。

以後、その母親の姿を見た者は誰もいない。

姿を見た者はいないが、その泣き声は、毎晩のようにその山から、漏れ聞こえてくる。

村の人間、恐れて誰も、その山に近づかなくなった。

霊能者のおばあちゃんはKにきつく言ったという。

「絶対にあの山には近づいてはならぬ!」

と。

「その話をS(彼女の名)の兄さんに話したんだな?」

俺はうるんだKの目を見て言った。

Kは突然立ち上がると、

「話さなきゃよかった」

と吐き捨てるように言うと出口へ急いだ。

俺は腰が抜けたように、しばらくは立てなかった

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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