地元に帰ってくるのは何年ぶりだろうか…
バスの停留所に降り立ち、私は周りを見渡した。
何も変わらない村、家も空き地も森も、あの頃と全く変わらない…
バスの停留所から、少し行くと、私の実家までつながる近道がある。
知る人ぞ知る、秘密の道だ。
溜め池の横を通るその近道は、子供は通ってはいけないと、よく怒られたものだ…
(キヨちゃん…)
あれは、真夏の暑い日だった。
僕と、キヨちゃんは、街に行くため、この近道をつかった。
バス停まで競争だ!
はしゃいでたキヨちゃん。
足が早いから、僕はどんどん離されてしまった。
(キヨちゃん…待って)
僕は夢中で後を追った。
近道の溜め池で、キヨちゃんの声が聞こえた。
「た…ぷは…たすけ…はあはあ…たすけて…ぷは…」
足が滑って溜め池に落ちてしまったのだ。
僕は何もすることができなかった。
体が動かなかったたんだ…
ただキヨちゃんが、池に沈んで行くのを見ていることしかできなかった…
(キヨちゃん…)
キヨちゃんの遺体は、次の日見つかった。
僕は、地元に帰って来なかったのじゃなく、帰りたくなかったのだろう…
悲しい思い出が、僕をそこから遠ざけていたんだ。
何年かぶりに通る近道も、あの時のままだ。
もうすぐ、キヨちゃんを奪った溜め池に着く。
その時、溜め池の方から、声がした…
「た…ぷは…たすけ…はあはあ…たすけて…ぷは…」
(キヨちゃん…)
僕は、溜め池を見ることができなかった。
キヨちゃんを見ることが怖かった…
(ごめん、キヨちゃん、僕はあの時のまま、なんもかわってないっちゃが…)
僕は家まで走り出した。
(ごめんキヨちゃん、ごめんキヨちゃん)
と、泣きながら…
家まで着くと、僕の姉さんが家の前で待っていた。
僕は、泣き腫らした目を必死で隠した。
姉さんは、僕を見て、
「あんた、遅かったねえ、あれ? うちのケンタがバス停まで迎えに行ったんだけど、あんた、見なかったと?
ケンタめ、またあの近道さ使ったんね、危ないから使わんねと、いつも言ってるのに…」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話