友人と旅行にきていたときのこと。
ザァー…
「やだー。雨降ってきちゃった」
「天気予報外れてるじゃん。最悪」
近くの古いタバコ屋の屋根の下で友人とそう話していた。
天気予報では雨が降る予定はなかったはず。あまりの豪雨に友人と身を寄せ合いながら、震えてきた。風もある。
昼間が暑かったので、薄着だった私たちはどこか泊まる場所を決めることにした。
「由香!あそこに宿みたいなのあるよ」
「なんか不気味な場所だね」
「でもずっとここにいるよりかはいいと思わない?」
「そうだけど…」
「なら行こうよ。風邪ひいちゃうよ」
そう言い、友人は私の手をひいて宿へと走っていった。
私たちの他にもたくさんの人がいた。見た目に寄らず、中は結構きれいな場所だ。
「こんにちは」
「こんにちは。あの、一晩でいいんで泊めさせていただけませんか?」
宿の女将は黙り込んだ。
「…え、ええ。大丈夫ですよ。では、こちらへどうぞ。お部屋をご案内いたします」
なんだろう、と不思議に思ったものの、私は部屋へ向かった。
持っていたバッグを放り投げ、布団の上に身を飛ばせる。ふわふわと温かい布団にうっとりしている友人に言った。
「髪ビショビショじゃーん。ほら、お風呂行こうよ」
「んにゃ〜疲れた」
「亜梨沙、起きて!」
友人は寝てしまった。
仕方ない1人で行こう、そう思い、部屋のドアを開けてみると、先にきていた人がロビーに集まっていた。
大きな荷物をまとめている。
なんだろう、と思いながらも私は浴室に向かった。
一時間後。私は部屋に戻った。
入浴前と変わらず、友人が寝ている。布団をかけてやるなり、友人がなにかを言った。
「にごうしつまえ…」
なにを言っているのか上手く聞き取れなかった。私は、どうせ寝言だろう、と思い、布団の中に入った。
携帯をいじっている間に、もう10時半になっていた。さすがにもう寝ようと、携帯を閉じると、メールがきた。
ピリリッ!
見覚えのないアドレス。
間違えだろう。そう思い、文章を見ずに携帯を再び閉じた。そろそろ眠気がやってくる。
こんな不気味な宿からさっさと帰りたい。旅行なんかくるんじゃなかった、と思いながら、布団にくるまった。
――…
ピリリッ!
メールが受信される音に目が覚める。
携帯を開くと、さっきのアドレスと同じだった。返事をしていないのに件名に「Re:」と、書かれている。
誰か知り合いかもしれない。眠そうに文章を見てみると、画像が貼られていた。真っ暗闇だ。
なんだこれ。不思議に思いながら、前のメールを見てみる。
真っ暗だった。
「なんだ…イタズラか」
そう思い、携帯を閉じる。
隣りでは友人が寝ている。雨は、まだ降っているようだ。風があって、窓がガシャガシャいっているのがわかる。
目が覚めてしまい、眠気がなくなってしまった。はやく寝ないと、そう思いながら目をつむる。
ピリリッ!
メールが受信される。
また携帯を開くと、画像がある。また真っ暗なんだろう、と思い見てみると、輪郭が薄らと見えた。
人のようなものに思える。
なんだ、と驚きもせずに携帯を閉じる。
ピリリッ!
いい加減にしろ、そう思いながら携帯を開くと、画像の貼られたメールがきている。
見てみると、今度は鼻と口が見えた画像だった。これを見て、人だとわかった瞬間、怖くなった。
件名は「Re:」のままだった。
次は目か、と予言をしながらも携帯の電源を切った。
そして布団にくるまり、友人のほうに体を向ける。
怖い。雨が強くなっていき、震えが止まらなくなってきた。
ピリリッ!
電源を切ったはずなのに!
メールが受信される。震えながら携帯を手にするが、メールを見たくない。
携帯を手放し、友人を起こそうとする。
「亜梨沙、起きて」
友人が起きる気配はなかった。
誰かに会いたい。それしか考えずに部屋を飛び出した。2号室前に、女の人がいた。
「あ、あの!」
そう声をかけたが、彼女はなにも言わなかった。ただ、一言だけかすかに聞こえた言葉。それは……。
「なんでメール見てくれないの?」
――…
あれからの記憶はまったくない。私は友人の隣りで寝ていただけだった。
携帯にあのメールは残っていたものの、画像は見れなくなっていた。
なにがあったのかわからないまま、私と友人は帰った。
「なんかさ、変な宿だったよねー」
「うん…」
「どうしたの?元気ないじゃん」
友人に問われたが、私は「なんでもない」としか返事をしなかった。
あのメールを送ってきたのは、あの女の人だったのだろうか。まだわからない。
でも、あれ以来メールはこなくなった。
私たちは無事、自宅へ帰っていった。
: JHARD
怖い話投稿:ホラーテラー JHARDさん
作者怖話