続きです。
その日は休館日で私は一日中一人で指導員室で担当の体操やクールダウンの練習をしていました。
指導員室は体育館のフロアの隣で、格子の入ったガラス扉からフロアへ行き来でき、ガラス扉の横には鉄扉があり、そこからは昇降口や事務所へ行けました。
仰向けになってクールダウンの練習をしていた時に、ガラス扉越しにフロアの真ん中辺りにおじさんの姿が視界の隅に入りました。
「清掃業者の人かな?」
そう思いながら、しばらくすると
ターーーンっターーンっターンッタンタン…
フロアにテニスボールが落ちてきました。
「業者の人が天窓に引っかかってたボールを落としたのかな?あ、フロアにいたおじさん居ない。他の場所に行ったんだな。」
と気にも止めず練習を続けました。するとまた、ガラス扉越しにフロアの真ん中辺りにおじさんが視界の隅に見えました。
「フロア清掃終わってなかったんだ…。大変だな。」
そこで、変なことに気がつきました。
「あのおじさん……全く動いてない!ずっと立ってるだけ……。」
フロアの真ん中に居るのは、視界の隅に入っていましたが、真ん中に行くまでの移動は見ていません。立っている以外の動きを全く見ていなかったんです。いきなり現れたという感じでした。
気付いたことに怖くなり、仰向けの状態のまま目線をフロアが視界に入らないよう壁の方へやり、
「一度指導員室から出よう。」
と思い、体を起こそうと思った瞬間……
バンッッ!!!!!!
体を起こすよりも先に思わずフロアを見てしまいました。
「!!!!!!!!!!」
声が出ませんでした。
ガラス扉におじさんの横顔だけがベッタリと張り付いていました。
格子はフロア側に付いてるため、フロア側から顔をベッタリ付けるなんて出来ません。
そして、私は仰向けになったままでしたが、おじさんの目線も同じ……つまり、首から下は床に埋まっているような感じでした。
なので顔がはっきり見えました。髪の生え際や、充血したような目、汗ばんだような肌……
おじさんは顔はあまり動かさず、ゆっくりと視線だけを私の方に向けました。
何が何だか分かりません
どうしたらいいのかも分かりません
金縛りではないのに、動くことすら恐怖でできません
「あ゛〜〜〜あ゛、あ゛〜」
おじさんが呻くような声を出したかと思うと
消えた!?
直後に
「○○さん(私のこと)、練習どお?レッスンイケそう?」
鉄扉から2人の先輩インストラクターが入ってきました。
一瞬、今あった事を話そうかと思いましたが、信じてもらえる方が大変そうだし、怖がらせてはいけないと思い言うのはやめました。
恐る恐るフロアを見るとテニスボールが落ちており、ガラス扉の下の方には皮脂汚れのようなものが、うっすら付いていました。夢や気のせいではありませんでした。
そして、気付いたことが私達インストラクター以外フロア周辺には人はおらず、清掃業者もすでに帰っていたのです。なぜテニスボールは落ちてきたのでしょう?
その時にこの職場を辞めようと思いました。一人で指導員室で練習はおろか誰もいないフロアを見るだけでも、怖くてたまりませんでした。とにかく一日でも早く辞めようと思いました。
学業との両立が困難と言う理由で辞めました。嘘ではないし。その時先輩インストラクターが今まで辞めていったインストラクターの話題を出しました。仕事が大変と言って辞めた人、妊娠して辞めた人がいた中で、
「辞めるのに本人じゃなく父親が『辞めさせて下さい』って来たこともあるよ〜。」
「父親がこの仕事に反対してですか?」
「ううん。何か本人はノイローゼ気味になっちゃって、ここに来るのも嫌って言ったらしくて、代わりに父親が来たの。」
「ノイローゼって……何でですか?」
「分からないけど…。この仕事がキツかったんじゃない?うちらはそんな事ないんだけどね〜。」
もしかしたら、その人もアレを見たのかもしれません。
私もあの時先輩インストラクターが来てくれなかったら、どうなっていたんでしょう?
先輩インストラクター達はアレを見ていないのでしょうか?
そしてアレは何だったのでしょう?
今となっては分かりません。
長文、駄文にも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話