■シリーズ1 2 3 4 5
俺的に一番危険だったのは、帰りの車内であって『封じ』の一件はちょっとサプライズなイベントみたいなものだ。
俺の部屋で厄払いの酒盛りをする事にした。なんと言っても、今回の『封じ』の「云われ」を友明に聞かなくてはならない。
それで全て終わる。
俺と泰俊は焼酎、友明は缶ビールで乾杯をし友明が語りだす。
「俺も全て詳細に知っている訳じゃない。俺等『御役』4家には、『封じ』は昔話みたいにして伝わっていて、家長にならないと全ては解らない。」
左手にビールを持ち替えツマミをあさる。
「今回、俺は親父の代理だった訳で『封じ』の作法しか新しい情報はない。作法の話をしても泰俊は面白いかもしれないが康介は暇だろうから『御役』に伝わる昔話をしようと思う。」
江戸時代の初め頃の話。大きな戦があってその村の男衆も大勢亡くなった。働き手を欠き、残された村人は餓えに苦しんだという。
それでも戦が無くなり次第にもとの生活に戻っていった。こういう事があったからか、この村では多産で網で獲物を捕らえて放さない『蜘蛛』を大切にする様になったそうだ。
(今でいう「コガネグモ」で地元では「ダイジョウ」と呼んでいた)
そしていつしか蜘蛛の世話は必ず男がし、女は触れてはならない。蜘蛛を殺すことは御法度などの村律(そんりつ)『村の掟』が出来たという。
ある時、この村の名主の家で婚礼があった。隣村から名主の次男坊を婿に迎えたのだ。
若夫婦は仲が良く、妻はすぐに身籠った。名主夫婦も大変に喜び孫はまだか?と言わぬ日がない程だったという。
しかし、隣村から来た婿はどうしても蜘蛛に馴染む事が出来なかった。
ある日、婿が涸れ井戸のほとりを歩いていると見た事も無い大きな蜘蛛がそこにいた。
彼は、これ程の蜘蛛だから家人に見つかれば必ず自分が世話をさせられると思い、蜘蛛を殺して井戸へと捨ててしまう。
それを運悪く身重の妻に見られてしまう。
妊婦のいる家での蜘蛛殺しは御法度であり不吉と考えられていたので、妻は夫をなじった。詰め寄る妻をなだめていたが、揉みあっている最中に誤って妻も井戸へと落ちてしまった。
すぐに助けを呼んだが妻は井戸の中で亡くなっており、惨いことに落ちた衝撃かどこかにぶつけたか腹が裂け赤ん坊が外へ出てきていた。
女の子であったが助からず当時は、水子は供養されること無くそのまま井戸の底に埋められたのだという。
それからしばらくたった夜に「猫の声の怪異」が始まった。
聞く人が聞くと「まんま、まんま」と言っているという。
その内、夜、寝ている間に体を虫に何ヶ所も齧られるという家人が増えていった。傷口は治りが遅く、ヒドイ痛みが伴った。そしてこういった出来事は決まって「猫の声の怪異」があった晩であった為、若夫婦の水子が空腹の余り化けて出ているとの噂が流れていったそうだ。
そしてとうとう婿もこの怪異に遭ってしまう。しかしいつもと違い、齧られるというより喰われると言った方がいい状態で出血もひどかった。
だが、婿本人は痛みすら感じておらず、これ以降他人がこの怪異に遭うことは無くなったが、婿は少しづつ・・少しづつ・・喰われていった・・・。
名主の老夫婦は一人娘を失ってから婿に辛く当たり怪異の対象が婿1人になると婿を実家に追い返した。ところが婿が居なくなると怪異の災いが村中へと広がってしまった。明らかに婿を捜している様子だったので、村のために婿を呼び戻す事になったが、隣村の名主は息子が魔物に喰われていくのを黙って見てはおれず申し入れを断った。
困り果てた老夫婦は遠方の寺に使いを出し怪異を鎮めてもらうよう懇願した。
知らせを受けた寺の者達は、このような怪異を鎮める法を知らず困っていると、ちょうどこの寺に逗留していた旅の雲水がこの役を買って出たという。
雲水が使いの者と村に着いたときには村人ほとんどが怪異に遭い、疫病のようになって死に絶えていたそうだ。使いの者は恐れ慄いて逃げ出そうとしたが何とか怪異の元の名主の家まで案内したのだが、老夫婦も既に亡くなった後だったという。
雲水は怪異の正体を探るため、結界を張りそこで一晩を過ごした・・・。
数日が過ぎ、雲水は隣村の婿のもとへ現れた。婿と親夫婦の前で雲水は語る。
「婿殿はタチの悪い蜘蛛を殺されたのであろう。彼の村が蜘蛛を祭るを知り遠方より流れ来たる古の悪霊が蜘蛛に取り憑いたモノです。貴方は良い事をされた・・・。しかし肉より離れた悪霊は今度は貴方の奥方に取り憑き貴方を陥れようとしました。しかし貴方に付いている神がそれを許さず、奥方ごとまた地獄へ送り返されました。
ここで不憫なのは奥方もさることながら御腹の赤子です。死した蜘蛛にも子があったようで、今、魂は混じり合っています。
井戸は冥界に通じ、魔物を産む産道となって人の子が親を慕うが如く、蜘蛛の子が親を喰らうが如く起こったのがこの怪異です。
貴方はこれらの魔物の親として祭らねばなりません。死した後喰われ、御霊を安んじ四方四家を建て鎮まるまで・・。」
その後、婿は雲水の指導の下、井戸で『願』を立て僧籍に入ったという。
コップを持ったままだったのに気付き、俺は焼酎を一口呑んだ。
寺で見た名札。
あれ程続けてまだ成仏していない魔物・・・。
泰俊も心なしか顔色が悪い。
しこたま呑んで俺達は寝た。
起きた時、泰俊の姿が見えなくなっていた。携帯に連絡しても応答がない・・。連絡が取れなくなって数日後、泰俊から俺宛に手紙が届いた。
いきなり居なくなり、連絡を取らなかった事をまず詫びて、その事は書かれていた・・・。
泰俊は今、ある場所に閉じこもり御払いを受けているという。井戸で見た女の子が取り憑いているそうだ。
蜘蛛と人の融合体。一番封じなくてはならなかったモノ。
でもなんで泰俊に?
泰俊がいうには婿が僧籍になってもらった名が『タイシュン』(泰俊)。
泰俊(やすとし)と同じ名前だった。寺で名札を見て一目でわかったそうだ。
魔物が親と間違えたのか?他に何か理由があるのかはわからない・・・。
俺達は手紙のやり取りで魔物の事を『蜘蛛水子』と呼んだが、本当の名が何なのか未だに知らない。
泰俊が最初に見た無数の魔物の方が蜘蛛の性が強く親を喰いに行き、井戸の横にいた女の子は人の性が強く親を慕ったというのが俺達2人の結論だ。女の子は昔から居たのか、泰俊が居たから出てきたのかわからない。
女の子の存在を友明を含め4人の御役も知らないようだった・・・。
例の寺にも新しい住職が出来た。なんと友明だ。坊主の真似事すらした事のない奴がだ・・。まるで生贄だと思った。
実際そうなのだろう・・・。友明は泣いていた。今度遊びに行く・・・・。
あれから随分、時が過ぎた。
・・・・泰俊はまだ出てこない・・・・・・・・
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怖い話投稿:ホラーテラー 最後の悪魔さん
作者怖話