夜、車を走らせていると、妻が声をかけてきた。
「ねえねえ、今交差点の所にいた老人見えた?頭から血を流してた老人」
俺にははっきり言って霊感と言う物が全くない。
「いや…見えなかったが…」
そう答えた。
すると妻が今度はビルを指さして言った。
「じゃあさ、あのビルの屋上の手すりの所に立ってる女の人は?」
俺はビルの屋上を一瞬見て見たが、妻の言う女は見えなかった。
「いや…見えないが…」
妻は不満そうに黙りこんでしまった…
墓地の横を通り過ぎようとした時、妻が大きな声で言った。
「ねえ、あのふわふわ浮いてるヒトダマくらいは、さすがに見えるでしょ?」
俺は首を横に振りながら答えた。
「いや…見えない…」
妻が呆れた声で呟いた。
「あなたって本当に何も見えないのね…」
そうなんだ…俺は何も見えないんだ…
一年前に死んだ妻の姿さえ見えない俺は、妻の声がする方に向かって「ごめんよ」と呟いた…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話