小学生の時に体験した話です。
私の住んでいた町は四方を山に囲まれていてレンタルビデオやコンビニは勿論ない田舎町でした。
小学生になると友達と「探検」と称して山の中に入りよく遊んでいました。
麓では大人が畑仕事をしていて薄暗くなると大人からそろそろ帰るよう声をかけられていました。
家族の者ではありませんが近くにいる大人が声をかけるのが暗黙の了解でした。
低学年の頃は大人の目につく範囲で遊んでいましたが高学年にもなると好奇心から山の上の奥の方まで遊びに行く者もいました。
勿論、大人にはないしょでした。
私は女なので高学年になってからも山で遊ぶ事を家族に止められていました。
興味はありましたが親に逆らえない性分でしたので約束を守っていました。
夏休みがあけると私の通う学校に転校生が来ていました。
家庭の事情で叔父さんの家に引っ越してきた女の子です。
身なりからして都会的な彼女に田舎育ちの子供達は憧れてみんな友達になりたがり彼女の回りはいつも賑わっていました。
私も彼女と仲良くなりお互いの家を行き来するようになりました。
都会から田舎暮らしに変わった事が不憫に感じて退屈している事や不満は常に口にしていました。
特に、畑に立っている案山子を見るのが初めてらしく気持ち悪いと怖がっていました。
ある日、彼女が風邪で学校を休み、私は連絡網を持って彼女の家を訪れました。彼女の家の叔父さんと叔母さんは隣町の病院に勤めているので夕方までは誰も帰って来ないのです。
連絡網を直接彼女に渡そうと思い、縁側に回り名前を呼ぶと、彼女は顔を真っ赤にして飛び出して来ました。
「さっき案山子にそっくりなオジさんが家の庭をウロウロしてたの。鎌持って私の事探してるんだ。」
と言って泣き出してしまった。
叔母さん達が帰るまで一緒にいて欲しいというので彼女の家にいる事にしたが子供二人でいるのも怖かったので他の友達も呼ぼうと電話をするが暗くなり初めたのもあり誰も来てくれなかったのです。
とにかく怖いのでカーテンを全て閉めてテレビのボリュームを大きくして恐怖を凌いでいました。
しばらくすると勝手口の方でバタンと大きな音がしたので叔父さん、叔母さんが帰って来たとホッとすると彼女が
「勝手口の前には荷物がたくさん積んであって使われてないよ。案山子が来たんだ。」
と泣きじゃくりました。
私もつられて泣きました。
しばらくすると叔父さんと叔母さんが帰ってきて、事情を話すと近所の人達に連絡をして近辺のパトロールをしてくれました。
私は両親が迎えに来て無事に家に帰りました。
次のも彼女は休みでした。昨日の事もあり一人で連絡網を持って行くのが嫌だったのでクラスの男子三人と女子二人の六人で家に行きました。
人数も多いので彼女も心なしか元気になったようでした。
盛り上がってきた時に、男子三人が「俺達約束あるからそろそろ行くな。お前らも来るか?」
と遊びに誘われた。
場所は彼女の家の裏手にある山でそこに小屋があり彼らはそこを基地にしていたそうです。
普段から山に入るのを禁じられていた私は迷いましたが先に基地で待つ男子もいると聞き、他の女子二人も行くと言うので一緒に行く事にしました。
病気で休んでいた彼女は一人になるのは嫌だから連れて行って欲しいと言うのでその場のノリで皆で山小屋を目指す事になりました。
思いの他楽しんでいる彼女を見て少し安心しました。男子も憧れの彼女の前だからか張り切っていました。ちょっとした遠足気分で山を登り目的の山小屋に到着すると先に四人の男子がいて中でトランプをして遊んでいました。
私達女子は基地の外と中を掃除して一緒にトランプで遊びました。
山の奥の方にあるので人目につかず、子供だけの世界です。すごく楽しくて毎日遊びに行きたいくらいでした。
トランプの途中、女子の一人がトイレに行きたいと言いました。
山小屋にはトイレがないので外でするよう言われ、私と彼女以外の二人の女子は外へ出ていきました。
用を足して戻った二人は用を足している時に視線を感じて振り返ると案山子が立っていたからビックリしたと話してきました。
男子「こんな山の中に案山子が立っる訳ないだろ。それ本物の人じゃなかったか?(笑)」
女子「人じゃなかったよ。案山子だった。確認したもん。」
この会話で私と彼女のテンションは一気に下がっていました。
とくに案山子が嫌いな彼女は帰りたいと騒ぎ出しました。
大丈夫だと男子はなだめるけど彼女が泣き出してしまった為、今日は帰ろうという事になりました。
私は彼女の手をとり立たせようとすると
「キャーーーーーーーーッ」
女子が叫びました。すると山小屋の入口を出たすぐの所に案山子が斜めに立っていました。
男子の「逃げるぞ。」の声で私達は叫びながら山を駆けおりました。
私だけではなく全員がパニック状態でした。
普段から案山子を見慣れている私達でしたが山小屋でみた案山子は顔に石がめり込んでいて茶色い汁の様な液体がそこから垂れていたのです。
一番近い彼女の家に全員で逃げました。
今日の出来事は大人に絶対言わない事と男子から口止めをされました。
私も家族に知られると怒られるので絶対に言わないつもりでした。
そして暗くなる前にと私以外の友達は帰ってしまいました。
昨日の事、今日の事もあったので私は彼女の叔父さん、叔母さんが帰って来るまで待つ事にしました。
彼女は「もう嫌…家に帰りたいよ」と泣いていました。
突然彼女が泣き止み話をしてきました。
「具合が悪いって言って早退した日、一人の帰り道は初めてで案山子の横を通るのが怖くて…大きめの石を投げつけたら案山子の顔に当たって案山子は倒れたの。そのまま走って逃げてきたんだけど…さっきの山小屋でみた案山子はその時の案山子と同じだったよ。どうしたらいいんだろう…。」
私にはどうにも出来ない問題でした。
叔母さんが帰ってきたら正直に話そうと言う彼女を私は必死に止めました。
私は家族に山で遊んだ事を知られたくなかったからです。
もう、山小屋へ行くのは止めよう。なにがあっても下校は一人でしないようにしよう。となだめて無理矢理納得させました。
その日は彼女の叔母さんが私を家まで送ってくれました。
その時、家庭の事情でしばらく彼女を預かっている事、また落ち着いたら彼女は元の家に戻る事を聞かされました。
「短い間かもしれないけどあの子と仲良くしてあげてね。」
叔母さんから優しく言われました。
それからも彼女は学校を休み続けました。
連絡網を持って行っても出て来てくれませんでした。先生からも連絡網はもう届けなくてよいと言われました。
学校では重い病気の為、隣町の病院に入院する事になりましたと告げられ、半年もしないうちに、彼女は町から引っ越してしまいました。
家庭が落ち着いたから家に戻ったのか。それとも彼女の身に何かあったのか。
分からず仕舞いでした。
少なからずあの時の案山子が影響しているだろうと私は思っています。
あの案山子事件をきっかけにクラスの男子も基地には行かなくなりました。
今は山小屋がどうなっているか分かりません。
あの時のままなら山小屋の中を案山子は覗いたまま立っているのかもしれません。
完
怖い話投稿:ホラーテラー 不思議町さん
作者怖話