【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
  • 表示切替
  • 使い方

リモコン

俺が高田から不意に見せられた携帯には、「ただいま教室に到着いたしました。」というメッセージが表示されていた。

俺「なんだよこれ」

俺が問うと高田はニヤつきながら「窓から顔を出せ」とそのメールに返信した。

高田「あれ」

高田は俺に自分たちのいる体育館から反対側の校舎を指差した。

高田「あの三階の窓」

言い終わらないうちに窓から男子生徒が顔を出していた。

痩せた小男だった。

高田はなおもメールを送った。

暫くすると窓の男がポケットから何かを取り出して見ているのが分かった。

男「ちん◎ぉぅぅ!」

男は叫ぶと逃げるようにして教室へ消えた。

俺「なんだよ?あれ」

高田「リモコンだよ、俺の」

俺「りもこん?」

高田の話によると窓から四文字言葉を叫んだのは中学の先輩なのだという。

高田は高校になってからはもちろんだが、中学のときから体格は大人顔負けだった。

高田「あいつ、鈴木。ズッキっ呼んでんだ。」

ズッキの家は母子家庭で市営住宅に住んでいた。

高田の家はその市営住宅の裏で小さな鉄工所を営んでいる。

高田「小さい頃からアイツ、ほんと弱虫でなぁ」

と、高田がズッキについて話し始めた。

ズッキは体が小さかったせいもあって、メッタに同級生と遊ぶことはしなかった。

いつも自分より一つ二つ下の子供と遊んでいた。

当然、高田も一緒に遊んだことはあり、二人は知り合いだった。

中学に入り、帰宅途中の草むらで生徒数人から殴りつけられているズッキを見つけた。

高田は割って入り、殴るのをやめさせた・・・というより、逆に有無も言わさずそいつ等を殴って追い返した。

彼らはズッキの同級生で高田より一年上だった。

俺「正義の味方じゃん」

高田「そうじゃねえよ。ただ、ムシャクシャしてた時に、ぶん殴るのに都合のいいやつ等がいただけだよ。」

その言葉通り、今度は高田がズッキをいじめるようになった。

不思議な事に高田がズッキに目をつけていじめているのを見ると他のいじめがなくなった。

ズッキは高田専用の「リモコン」になったのだった。

今では朝起きてから寝るまでの時間、逐一ズッキは高田に行動を報告し、必要であればズッキをなんにでも「使う」ことができる。

高田は昼食になるとメロンパンとコヒーと打つ。

暫くすると彼らが溜まり場にしている体育館倉庫の裏にズッキがやってくる。

「ラーメン」と打つと学食からラーメン入りのドンブリを持ってきた。

少しでも遅れたり、麺が伸びていると正座やモモカンと呼ばれる太股の急所を蹴り上げられたりする。

ズッキはアッと呻きながらも痛みに耐える。

その顔が面白いと言ってまた殴る蹴るの繰り返しだった。

あと、町へ出てリモコンナンパもさせた。

高田が気に入った女を指さすとズッキが代わりにナンパをしに行く。

成功するはずもないのだが、残酷に無視されたり、時には叩かれたり怒鳴られたりするズッキを見て楽しむのが目的だった。

しかし、ズッキは全然嫌がってる風には見えなかった。

喜んでるわけではないが、何か変な関係が出来上がっていた。

高田は「リモコン万引き」もさせていたという。

ズッキは高田に命じられるままに万引きを繰り返していた。

そしてある日、書店で写真集をパクったのを店員に見つかったズッキは店外に飛び出し、危うくトラックに轢かれそうになった。

本は全て店内に捨ててきたので騒ぎにはならなかったが、ズッキは高田に「リモコン万引きだけはやめてほしい」と初めて抵抗した。

高田はズッキにヤキを入れたがズッキは、万引き以外なら何でもするから、とにかく許してほしいと言い張った。

高田「以外なら何でもするのか。」

ズッキ「はい」

高田「絶対だな」

ズッキ「はい」

高田「じゃあ、明日の朝までに犬の首をもってこい」

高田は冗談のつもりでズッキにそう言い放った。

ズッキは驚愕して高田の顔を見つめた。

「でなきゃ、あの本屋にもう一度行かせる」

高田はそう言い放つと立ち去った。

翌日、高田の鉄工所の脇に濡れたコンビニ袋が置いてあった。

犬の首が入っていた。

そこことがきっかけで初めて高田はズッキに対して恐怖を抱き始めた。

高田はズッキを捨てた。

高田「あいつ変態だ」

高田はズッキを薄気味悪がった。

袋を発見したのは高田本人だった。

まさかほんとうにやるとは思っていなかったため、血でごわごわになった毛と苦いような腐臭のぷんぷんする袋を開けた瞬間、高田は吐いてしまったと俺に言った。

二日後、ズッキから高田の携帯に「命令は?」というメッセージが入った。

それを無視しているとまた「犬の首」が届けられたのだという。

しかし高田の話では近所で犬が殺されたという噂は出なかったので、ズッキの奴、だいぶ遠くまで行ってやってるんじゃないかと言っていた。

それからもズッキからのメールはひっきりなしに続いたという。

「クビトドキマシタ?」

「クビミマシタカ?」

「モットイリマスカ?」

「マダタリマセンカ?」

「ドウスレバイイデスカ?」

しかし高田は無視し続けた。

首はポツリポツリと届けられた。

時には二つはいっていることもあったという。

ズッキは自分から高田の元にやってくることはなかった。

ただ気づくと高田を窓からジッと見つめていたりした。

そんなある日、高田がついにキレ、ズッキを半殺しにした。

ズッキを溜まり場で滅茶苦茶に殴りつけていた。

高田「お前、今度近寄ったら殺すぞ!」

高田が倒れているズッキにそう宣言した。

ズッキは学校に来なくなった。

夏休みに入り、首は届けられなくなった。

二学期になっても、ズッキは欠席したままだった。

近所でも彼の姿を見かけることはなかった。

案外、おふくろさんの故郷にでも戻っていたのかもしれなかった。

いつものように俺と高田が並んで体育館倉庫の裏に行くと、ひさしの陰にドンブリがあった。

学食のドンブリが置いてあるのだが、ラーメンの中に腐った犬の首が生えていた。

全身の毛が総毛立つのを感じた。

その時、高田の携帯がなった。

「ドウスレバユルシテモラエマスカ」

とメッセージが入った。

高田はとっさに「死ね」と送った。

すると柱の陰で着信メロディーが鳴った。

高田も俺も動けなかった。

人影が出てきた。

真っ青な顔をしたズッキが包丁を手にゆらりゆらりと揺れていた。

ズッキは俺たちを睨みつけたまま物凄い速さで近づくとドンブリの首を掴み、半ば腰を抜かしていた高田の口に、その糸ひき粘る死骸の鼻面を突っ込んだ。

俺は這うようにしてその場から逃げると職員室に飛び込んだ。

駆けつけた教師にズッキは捕らえられ、嘔吐したまま気を失いかけていた高田も見つかった。

その後、高田は転校し、ズッキは精神異常ということで病院に送られた。

あれから半年たつ。

そろそろズッキが出てくる。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
0
1
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ