バーク夫妻はビジネスで成功を収めており、夫婦ともに多忙だった。
彼の世話は主にメイド?がしていた。
英語も初歩的な日常会話がやっとのレベルであった彼は学校へは行っておらず、家庭教師がついていたらしい。
彼は放置状態にあった。
そんな中、彼は家庭教師を誘惑し関係を結んでいた。
家庭教師は本来はノーマルだったらしいが、種憲とのホモの関係が夫人に露見し解雇された。
やがて彼は街角に立つようになり、例のビデオ屋に拾われた。
女性ホルモンの注射もビデオ屋の手によるものだった。
彼の保護観察期間終了後、バーク家は世間の目を逃れるようにカナダに移住した。
移住後数年、彼の外見は美しい女性の姿になっていた。
そして、バーク家に破局が訪れた。
彼が義父であるバーク氏を誘惑し関係を結んでいたのが伯母に露見したのだ。
バーク氏はキムさんに「悪魔に魅入られたように、『彼女』の魅力に抵抗できなかった」と語った。
夫人は半狂乱になって種憲を問い詰めた。
彼は何かに取り憑かれたかのように、狂気じみた高笑いをしながら韓国からの経緯を夫妻に話した。
弟の事故死は彼による殺人だった。
高層アパートのベランダから弟を投げ落としたというのだ。
母親と父親の離婚の原因は、彼が父親と関係しているのを母親に見つかったからだった。
母親は、彼の父親が彼を無理やり暴行していたものと思って離婚に踏み切ったが現実は違った。
彼が父親を誘惑し関係を結んだのだ。
離婚後も彼は父のアパートに通い関係を続けた。
ある日、種憲は不眠症となっていた彼の母親の薬を酒に混ぜて父親に飲ませた。
そして、父親が寝付いたのを確認して、石油ストーブを蹴り倒して父親を焼き殺したと言うのだ。
バーク夫妻は彼を沢山の精神科医やカウンセラーに診せた。
話の内容よりも、彼が一瞬垣間見せた、悪魔に憑かれたかのような狂気に恐れを感じて。
あるカウンセラーが退行催眠という手法で治療を施した時、彼の口から思わぬ言葉が出てきた。
「自分は日本のXX県OO市に住んでいた林善太郎の妻、林サチエだ。
夫が雇っていた朝鮮人、姜時憲(カン シホン)にお腹の子と共に殺された。
姜一族を根絶やしにして、夫と子供の恨みを晴らすために転生した」と言うのだ。
バーク夫人は驚愕した。
姜は彼の父親の姓だった。そして、時憲と言う名は確か、彼の祖父の名だと思い当たったのだ。
彼女は韓人コミュニティーの祈祷師を頼ったが、「これは祓えない」と言われてしまった。
何人かの祈祷師・霊媒師を経て、カナダ在住の貿易商経由でキムさんにこの話が伝わった。
キムさんが北米で、マサさんが日本と韓国で動く事になった。
マサさんは、まず韓国で姜家を当った。
問題の種憲の祖父、時憲には兄がいた。
姜相憲(カン サンホン)である。彼は韓国で存命だった。
林善太郎、林幸恵は実在の人物だった。
相憲は日本に出稼ぎに来て、材木商を営んでいた林家に雇われていた。
林家の当主、善太郎は人格者としてその地域で多くの人に慕われていた。
朝鮮人の内地渡航が制限されていた折、密入国同然で日本に渡り、行き倒れていた相憲は善太郎に拾われた。
彼は善太郎に感謝し、恩に報いる為に一所懸命に働いた。
善太郎は相憲に信頼を寄せるようになり、国に残した弟も呼び寄せてはどうかと彼に言った。
相憲は弟・時憲を呼び寄せた。
内地に渡った時憲も人一倍頑張って働いた。
善太郎には親子ほどに歳の離れた後妻の幸恵がいた。
まだ10代で、雇い人の中で一番若かった時憲に幸恵は優しかった。
時憲は幸恵に恋心を抱いていたようだ。
ある晩、善太郎の留守に時憲は本宅に忍び込み幸恵を襲った。
幸恵の悲鳴に家人が殺到し、時憲は他の雇い人達に半殺しにされたようだ。
その時に負った傷が元で、時憲は顔面麻痺で顔の片側が引き攣ったままになった。
相憲は善太郎に土下座をして謝罪し、受け入れられた。
時憲は隣町にある製材所に飛ばされ、年末年始の挨拶といえども本宅に近寄る事は許されなかった。
幸恵が時憲に酷く怯えていたからである。
やがて終戦となった。
善太郎は朝鮮人の雇い人に国に帰るもよし、このまま残って働くもよしと言い、半数ほどが日本に残る事になった。
相憲・時憲兄弟もそのまま日本で働く事になった。
敗戦に街の雰囲気は沈んでいたが、林家に明るいニュースが生まれた。
幸恵の懐妊である。
善太郎にとって諦めかけていた初めての子。
林家は喜びに沸いた。
そんなある日、善太郎は相憲を伴って遠方へ商談に赴いていた。
非常に大きな商談だったらしい。
商談が纏まり、林家に戻った善太郎と相憲を待っていたのは、とんでもない悲劇だった。
妻の幸恵が暴行された上に絞め殺され、手提げ金庫ごと多額の現金が持ち去られていた。
賊は更に屋敷にも火を放っていた。
それだけではなく、林家の材木置き場にも火は放たれた。
長い間雨が降っていなかった冬の強風の夜、火はあっという間に広がり町を広範囲に灰とした。
戦後の物不足の折、材木不足も深刻で、備蓄の全てを失った林家は契約履行に必要な材木の手当てがつかず多額の賠償を負った。
幸い、雇い人の宿舎は離れた場所にあったので、雇い人は全員無事だった。
大火の晩、姿を消していた時憲を除いて・・・
幸恵殺しと放火は時憲の仕業とされたが、三国人の犯罪に警察の動きは鈍かった。
そして、雇い人の放火で火事を起した林家には町の住民への賠償も圧し掛かった。
林家は破産した。
相憲は善太郎に暇を請い、捕らえて自首させるべく、時憲の跡を追って日本中を回ったと言う。
ある時、相憲は同じ町で働いていた朝鮮人の男に善太郎の死を聞かされた。
「せめて線香の一本でも」と町に戻った相憲は、町の人々に墓参りも許されないまま石を以って追われた。
町から朝鮮半島に渡っていた家庭は多く、引揚船で戻ってきた引揚者の惨状が広まっていた。
特に女子供の受けた仕打ちを見聞きして、朝鮮人に対する感情が最悪となっていた。
何より、町の名士から受けた恩を仇で返して破滅させた朝鮮人、極悪人・姜時憲の名は忘れられてはいなかったのだ。
暫くして相憲は帰国船に乗って韓国に戻って行った・・・
相憲は朝鮮戦争後の韓国で、日本とのコネクションを活用して貿易商を営んでいた。
ある日、相憲の所に男児を連れた時憲が現れた。
相憲の成功を聞きつけてやって来て「たった2人の兄弟だ云々・・・」と言って、時憲は相憲を頼ろうとした。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話