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中編5
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転生(コピペ)③

相憲の血は逆流した。

相憲は林家を慮って、妻も子も設けなかった。

時憲に暴行され子供を身篭り、結婚させられた歳若い妻と息子がいなければ、その場で時憲を殺していただろうと相憲は語ったと言う。

相憲はかなりの額の手切れ金を「妻と子の為に」渡し、時憲に絶縁を言い渡した。

マサさんは姜相憲の話を手掛かりに日本に戻った。

林家の菩提寺を訪れたが、林家は既に断絶していた。

マサさんは住職に姜相憲から預かってきた金を渡し、林家の供養を依頼すると共に当時のことを知っている人物はいないかと尋ねた。

住職は金を固辞した。

林家は檀家を追放され、寺の墓地にも林家の墓はもうないと言う事だった。

ただ、林家から檀家総代を引き継いだ大森家は林家の親戚であり、当時を知っているご隠居さんは100歳近くで健在だった。

マサさんは住職の紹介で大森家を訪ねた。

大森家の長老は当時のことを鮮明に覚えていた。

その部落には歳若くして亡くなった死者の背中に筆で名前や家紋を書いて葬る習慣があったそうだ。

そして、文字や家紋の「痣」のある子供が生まれると、死者を葬った家と赤子の生まれた家とは新たに「親戚」となるのだという。

親戚となった両家は子供によってもたらされる福運により発展するのだと言う。

子供の痣は、死者を葬った墓の土を水で溶いたもので7日間洗い続ければ落ちるのだそうだ。

幸恵の体にも善太郎の手により家紋が墨書されたという。

やがて、全財産を失い孤独の身となった善太郎は、町外れの洞穴に住み着いていた祈祷師の元に通うようになった。

祈祷師と善太郎が洞穴でなにをしていたのかは判らない。

だが、善太郎は妻の死から2年後に発狂した。

土葬された妻の墓を暴き、洞穴で割腹自殺したのだ。

暴かれた幸恵の遺体(骨)の殆どは善太郎に「喰われて」残っていなかった。

幸恵の実家の父親が若者を駆り出して祈祷師を捕らえ、事情を聞きだした。

詳しい内容は判らず仕舞いだが、どうやら善太郎の行動は呪いの儀式だったようだ。

それも、檀家総代が先祖累代と共に寺から追放されるような外法であった。

マサさんは大森家で話を聞くと共に、1枚の写真を貰い受けてきた。

林幸恵・・・女性化した姜種憲に酷似した、若い女の写真だった。

キムさんに伴われて連れて来られた姜種憲・・・ジュリーは美しい「女」だった。

ニューハーフ、特に性転換して完全に女性化した者の中には、本物の女よりも美しく物腰も女性らしい者が少なくない。

しかし、どんなに美しく優雅な物腰でも違和感は隠せない。

少なくとも、女だけでなくニューハーフともかなり遊んだ俺には判る。

その違和感の部分が堪らないのだが・・・

女性経験のない男性諸氏はニューハーフには近付かない事だ。

ある意味「違和感」とは、若い男が女に抱いている妄想や幻想そのものだからだ。

だが、ジュリーには、その「違和感」がなかった。

精神、いや、魂の根本から女性なのだ。

とにかく、ジュリーの美しさにはゾクッとくる迫力があった。

それは天性の危険な魅力。

この女の為なら破滅するのも悪くはない、と思い込んでしまっても無理はない魅力があった。

まさに「魔力」。

事実、彼女は「女」になる前から、普通の異性愛者だった男も虜にして何人も破滅に導いているのだ。

危険この上ない女だった。

自発的にではなく、砂鉄の中に磁石を放り込まれたかのように、有無を言わせずに引き込まれ、情欲を沸き立たされる「何か」があった。

確かに、ただの空手屋には手に負えまい。

何日も一つ屋根の下にいれば、我慢できずに襲い掛かりかねない。

だが、コイツは猛毒の針を持った食虫植物のような女なのだ。

だからと言って、女でも駄目だ。

どういう訳か、ジュリーは美しさ故と言うわけでもないのだろうが、女から敵視され、しばしば殺意さえ持たれた。

彼女の母親となったバーク夫人でさえ、彼女を押さえ付けて犯していた夫ではなく、ジュリーに殺意を抱いていた。

事前情報の「彼女が誘惑して」と言うフレーズには、バーク夫人とジュリーと関係を持った男達の主観が大きく作用しているのだ。

俺は仕事でストーカーからのガードをしたこともある、ニューハーフのアリサに身の回りの世話の為、同行を依頼した。

アリサは日本人のニューハーフだ。

帰国子女で英語にも堪能。

ジュリーと同様、近親者に慰み者にされた末に放逐された過去を持つ。

さらに、鋭い霊感を持っていた。

アジア系のニューハーフで美しいのは、タイ人と韓国人が双璧だと俺は思っている。

しかし、アリサも「生まれつき」の女にも、ちょっといないレベルの美人だった。

いや、ジュリーもそうだが、神が何かミステイクを犯して彼女達にY染色体を配分してしまっただけで、彼女達はあくまで「女性」なのだ。

アリサの通訳を介して俺はジュリーに色々と質問をした。

予想通り、ジュリーは「意識的に」男を誘惑したことはなかった。

彼女の主観では、むしろ男に襲われ嬲り者にされ、女からは常に敵意を向けられてきた。

女性に対する恐怖は死んだ母親やバーク夫人の影響が強いようだ。

韓国にいた頃は同級生や上級生の女児から酷いいじめを受けており、大人の男性から性的な悪戯もされていたようだ。

彼女の凶暴な側面が現れたのは、発作的に弟をマンションのベランダから投げ捨てた時からだった。

父親から性的な暴行を受け、母親から激しい折檻を加えられている自分と弟を比べて堪らなくなったと言うのだ。

それ以来、彼女は時々自分自身では制御できない衝動に駆られて行動するようになった。

父親の時も、街角に初めて立ったときも、バーク氏の拳銃を持ち出して使った時も・・・

始めは襲われて無理やりだったのに、そのまま男達と関係を続けてしまったのは、自分を「女」と確認する為だったらしい。

それと、逃げたり拒絶する事に強い恐怖を感じていて、抜け出せなかったとも語っていた。

彼女本来のキャラクターは、気弱で大人しく、いつも他者から傷付けられる事を恐れている、か弱い女性のものだった。

だが、その「いかにも」な性格の反面として内在している彼女の「獣」は凶悪で危険だった。

俺の中の警報装置は、危険!危険!と赤ランプを点滅させっぱなしだった。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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