古典の話です。
昔昔一人の若者が気ままに旅をしておりました。
若者がとある峠に差し掛かると雲行きが怪しくなってきました。
「こりゃひと雨くるな」
若者は雨が降る前に峠を越えた先にある宿場町に着かねばと走りだしました。
峠の頂上に着こうかというころ、とうとうポツポツと雨が降り出してしまいました。
「まいったなぁ~。おや?」
ふと峠道から少しはなれた森の中にちらちらと明かりがみえます。
「助かった。きっと民家の明かりに違いない。」
若者が光のほうに向かって走ると、若者の読み通りそまつな作りの小屋がありました。
「ごめんください。」
若者が戸をたたくと、
「ほほほい。」
中から老婆の声で返事がありました。
「旅のものですが、雨に降られて困っております。軒下でもよいので雨宿りをさせてはいただけないか。」
「さぞやお困りでしょう。どうぞあがっていってくださいな。」
そういうと戸が開き若者は中に招き入れられました。
老婆は感じのよい人で峠を越えるにはまだ長いので今夜はここに泊っていってくださいと若者を厚くもてなしてくれました。
老婆の言葉に甘え若者は一宿することにしました。
その晩のことです。
若者はギーコ、ギーコという刃物を擦るような音で目が覚めました。
すると、若者がねむっている和室のふすまからうっすらとろうそくの明かりがもれています。
音は隣の部屋から聞こえています。
こんな時間に老婆は何をやっているのだろうか。
興味をそそられた若者はふすまの隙間からとなりの部屋の様子を盗みみました。
ギーコ、ギーコ
そこには鬼のような形相で包丁を研ぐ老婆の姿がありました。
「半殺しにしよか。
皆殺しにしよか。」
「うっ。」
若者はつい声をあげそうになりあわてて口をふさいぎました。
「半殺しにしよか。
皆殺しにしよか。」
若者があまりの恐怖にしばらくふすまの前から動けずにいると、
「皆殺しにしよか。」
そう言うと老婆がおもむろに立ち上がり、左手に包丁をもって若者のいる和室に向かってゆっくりと歩いてきます。
このままでは殺される。
そう思った若者は震える足をなんとか動かして部屋の隅に置いてあった荷物の中から護身用の小太刀を持ち出すと
急いでふすまの陰にもどりました。
そして、
老婆がふすまを開けてはいってきた所へ心臓めがけて小太刀をずぶっと刺しました。
冷たくなった老婆の体を飛び越えて若者は雨の中その小屋を飛び出していきました。
小屋の中には老婆の死体と包丁そして小豆袋だけが残されていました。
それ以後若者を見たものは一人もおらんそうです。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話