僕は朝1番に駅前にあった交番に向かった。
『あの…』
『はい、どうしました?』
四十代くらいの人の良さそうなお巡りと、二十代後半くらいのお巡りがいっせいに僕を見た。
覚悟してきたが、足が震える。
『あの、僕…あそこに置いてある自転車…。
僕が盗んだんです…』
『君が?』
ちらりと二人が顔を見合わせる。
『座りなさい。』
僕を座らせると、何か紙を取り出し 若い方に自転車を見てくるようにと言った。
『それで?どこで盗んだの?』
『それ…は、わかりません』
『わからない?じゃあ、名前を言いなさい。』
『〇〇×××です』
『歳は?』
『二十歳です。』
『住所は?』
『〇〇市の△△町です』
『は!?〇〇市?ここまで何で来たんだね!?』
『歩きと…自転車です。』
『そんな…あそこからここまで300kmはあるんだぞ!?何故電車などを使わなかったんだ?』
『…お金が無かったんです』
『今持っているのは いくらなんだ?』
僕はポケットを探ると、残ったお金を机に置いた。
『10円だけ?』
『はい…』
『ふぅむ…』そういうと、お巡りは椅子に座り直した。
その時若いお巡りが入ってきた。
『確認取れました。T県の〇△町から昨日盗難届けが出ていて、その自転車と一致しました。』
『〇△町…君の住んでいた場所から80kmは離れている。そこまでは歩いたのか…?』
『はい。』
『なんでそこまでしてここへ来たんだね。』
『弟に…伝えなければいけない事があるんです。』
『伝えなければならない事?』
『はい…父が亡くなったという事を…』
僕は全ての事を吐き出した。二ヶ月前に入院した父が亡くなった事。 病院にお金を払ったら、ギリギリだった事。生活にまわすお金がなくて、電話も止まっている事…。
歩く事に疲れて 自転車を盗んでしまった事…。
『本当にすみませんでした!』
僕は、頭を下げ謝るしか出来なかった。
それを見ていたお巡りは
『とにかく盗んだ自転車は、持ち主に返さなくてはならない。君も来なさい』
と言った。
そして折り畳んだ自転車と一緒に、パトカーに乗せられた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話