俺が県外での仕事を終えて実家に帰った時、その子はいた。
真っ白な毛に、真ん丸の茶色の瞳。
ちっちゃな、ちっちゃな子猫。
可愛い子だった。
いつも親父の傍で寝てたのに、いつしか毎晩俺の部屋に来て、俺の傍で寝るようになった。
そんなあの子が、大好きだった。
不思議な子でもあったよ。
俺が悲しんでると、すぐに駆け寄って来て、「大丈夫?」というように見つめてくれた。
「大丈夫だよ」と言って撫でてやると、俺の傍で丸まってた。離れようとはしなかった。
甘えん坊だけど、優しい子だった。
また県外に行くことになった時は、正直辛かった。
おふくろに抱かれて、俺を見送ったあの子は、ただジッと見つめていた。
2年間…忘れることもなく働いて、今年の9月に実家に帰った日。
あの子は、ちゃんと裏庭で待っていた。
撫でてやると、「お帰り」と言われてる気がした。
あの子も、俺を忘れちゃいなかった。
地元で新しい仕事が決まり、俺が働きだすのを見届けるのを待っていたかのように、9月のある日、あの子はその命を終えた。
まだ4歳だった。
仕事が終わって、帰ってから両親に聞かされた。
来るしんだ様子もなく、穏やかな顔をしていたらしい。
それが救いだった。
最期を見届けてないから、実感は無かった。
でも、あの子との思い出を思い返し、これからは二度とあの子が甘えてくることが無い…そう思ったら、泣いた。
涙は、止まらなかった…。
今にして思えば、最期を俺に見せなかったのは、あの子の優しさだったのかも知れない。
動物にも、四十九日があるのかなんて分からない。
でも、四十九日目の夜に、あの子が夢に現れた。
忘れられない、頭を撫でてやる時の、嬉しそうに目を細めた顔。
俺は、「そうか、もう行くんだな…。最後に、会いに来てくれたんだな…ありがとう」…そう、言ってやった。
あの子は何も言わなかったけど、溢れる気持ちが、心に流れ込んできた。
「ありがとう」
その言葉が、尽きることの無いように溢れてきた。
目覚めた時、俺の心は穏やかさに満たされていた。
もう、悲しいとは思わない。
あの子はちゃんと、行くべき場所へと行ったんだから。
もう一度、あの子がこの世に生まれてくるなら、また会いたい。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話