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中編4
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ごめんね

私には弟が二人いて、二人とも結婚して子供もいる。

当然、両親は私の結婚も望むんだが、まだ時間が必要だ。

地元で業担をしていた頃、仲の良い他社の業担のKさんに、彼の後輩のY君と飲み会に参加してくれ、と言われた。

行ってみたら、別の派遣会社の女性従業員が二人。

ハメラレタ…合コンだった。

後でKさんが言うには、

「ゴメンゴメン。でも、本当のこと言うと参加しないでしょ?」

どうやら彼女のいない私に、つき合わせたい女の子がいて、セッティングしたらしい。

その女性…Tさんは、背が高くて髪の長い美人。しかし礼儀正しくて、性格の穏やかな人だった。

Kさんの計算外だったのは、Y君が積極的にTさんにアプローチしたこと。

Y君は若くて背が高く、性格も明るい。

私は身長は平均だし、温厚(人畜無害)な顔なだけ。

翌日、Y君から、

「Tさんとつき合うことになりました。」

と言われても、素直に納得。むしろ祝福した。

ところが後日、私が残業確認の為に現場を回っていると、Tさんがスッと近寄って来て、

「あの…Yさんが私とつき合ってるって言ったみたいですけど、信じないで下さいね。私、つき合ってないですから」

と囁いた。

混乱してしまった。

あれ? じゃあY君の言ったことは?

Kさんが真相を説明してくれた。

「Yの言ったこと、嘘なんだ。告白したけど断られたらしい。でも、まだ好きだから、君をTさんに近づけさせないよう、嘘をついた」

Tさんが好意を持ったのは、私だったそうだ。

嘘をつかれたとはいえ、私はY君を憎む気は無かった。

仲良くやってきた仲間だし。

むしろ、Y君とTさん二人の気持ちに挟まれて、戸惑ってしまった。

ヘタレな私は、自分の気持ちは抑えて二人には普通に接することに。

毎日、現場を回るとTさんと会釈で挨拶を交わす。

お互い、会社が違うから、おおっぴらに会話するワケにはいかない。

でも、いい歳して芽生えた初恋みたいな淡くてほのかな想いは、二人の間で育っていった。

当然、勘の良い人は気づく。

私は、彼女の周囲にいる男性従業員達に、訝し気な目から、敵対心剥き出しの目で見られることに。

しかし、彼女の気持ちは揺るぐことなく、男性従業員達も諦めモードに。

でも、別れは突然やってきた。

ある日、Kさんが暗い顔で教えてくれた。

Tさんが、退職して地元に帰ると。

複雑な心境だった。

お互い、正直な気持ちは言ってなかったし…。

現場に行くと、Tさんが寂しそうな顔で、

「辞めて地元に帰ることになりました」

と、頭を下げた。

私は、

「お疲れ様でした」

と返して、頭を下げた。

気の利いた言葉は、出なかった。

Tさんの同僚達と、私の会社の従業員達が、不思議そうな顔で私達を見ていた。

二週間が経って、私は仕事の合間に事務用品の買い出しに、スーパーに行った。

その時、

「こんにちは」

という声に振り返ると、Tさんがいた。

「あれ?」

と言う私にTさんは、

「いろいろ片づけとかあるから、まだ帰ってないんです」

と微笑んだ。

でも、寂しそうな顔だった。

「あの…」

Tさんが続ける。

「私、○○(私)さんが好きでしたよ。今も…」

「俺も…好きです」

別れる時が来てから、告白するなんてな…。

Tさんは、少し寂しそうな…でも笑顔で、

「ごめんね…。もし違ったかたちで会ってたら…」

「あの…会いに行きますよ!連休になったら絶対!」…私は言った。

寂しい顔をさせてるのは、私だから。

Tさんは、「ありがとう」と言った。

もっと話したかったけど、時間が無かった。

必ず会いに行くから、ともう一度言って、私は会社に向かった。

Tさんは、笑顔で手を振っていた。

会社に戻ると、Y君が暗い顔をして近づいて来た。

「○○(私)さん…Tさんが…亡くなりました…」

はっ? 何言ってんの? さっき会ったよ?

混乱する私に、Y君は、

「彼女が辞めた理由…病気だったんです。先週、帰って入院したんですけど…」

えっ?えっ? 先週帰った?

Tさんの会社の業担に聞くと、間違いなく先週で退寮して地元に帰っていた。

Y君は、ずっとTさんに電話していたが繋がらず、昨日やっと繋がったら出たのはTさんのお母さん。そこで、全てを知ったらしい。

彼女は、一昨日に亡くなっていた。

彼女が亡くなったのは、事実だった。

その年の暮れ。

私は、Tさんの地元に行った。

その県の、何処の市かは知らなかったけど。

「ごめんね…俺に勇気があれば…」

呟く声に、答えは無かったけど、冬の街に温かな風が流れていった。

怖い話投稿:ホラーテラー 元業担さん  

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