学生の頃の体験話
長文ですがご容赦下さい。
昔住んでいた私の家の近くに古い廃ビルがあった。
ビルはもう何年も使われていないようで
全体的に薄汚く敷地内は雑草で生い茂っている。
その廃ビルにはこんな噂があった。
ビルの二階に2枚の鏡だけが今も取り残されていてる。
そしてその鏡は合わせ鏡になっており、その鏡の間に立ち一方の鏡からもう一方の鏡を覗き見ると何か良くない事が起こる。
という噂。
たしかに合わせ鏡には不吉な話も多く、いかにも出そうというシュチュエーションだが、いかんせん作り話っぽかったので私はそんなに興味が沸かなかった。
しかし好奇心の強いAはその噂話を確かめようぜと言い出したので、
まるで興味のなかった私と、よくいっしょに遊ぶB、
自称霊感が少しあるというCさんの計4人で、
深夜の廃ビルに忍び込む事になった。
時間にして0時前だったと思う。
辺りはすっかり暗くなっていて、私は必要だろうと思い懐中電灯を持って廃ビルの前に集まった。
すでにAとBはビルの前に集まっており、Bは手ぶらだったがAはリュックに懐中電灯のほか、ライターや方位磁針など何に使うんだよ??というものまで持ってきている。
そのまま軽く話をしながらCさんを待っていたのだがいっこうにやってくる気配がない。
A「遅ぇなぁ、Cのやつ」
B「やっぱり怖くなったんじゃないかな」
たしかにCさんは女子だしこういうのは好きじゃないだろうと思った。
そもそもメンバーに加わったいきさつもAが「コイツ霊見えるんだって」とか言い出して無理矢理参加させたようなものである。
A「あぁ?んだよ、アイツ。しょうがねぇ俺たちだけで行くか。」
そういってAがビルの敷地内に入ろうとした時、
A「おわぁ」
Aが突然悲鳴を上げたので、驚いて私とBはAに近寄る。
私「おい、どうした」
見るとビルの敷地内からCさんがこっちに向かって歩いてきた。
A「馬鹿、おまえかよ驚かすなっつの。」
私「なんだCさん先に来てたんだ。」
A「なんで先にひとりで入ってんだよ。」
AはCさんに驚いた事が恥ずかしかったのか怒ったような口調でCさんにつめよる。
C「ごめんなさい。中で声がしたからもう皆ビルの中に入ったのかと思って・・・」
そういってCさんは申し訳なさそうにつぶやく。
A「は?声?」
C「あ、ううん。多分気のせいだと思う。」
A「おまえ怖がらせんなよ。」
Aはそう言って笑い、私とBもつられて笑った。
私たちはAを先頭にビルの中に足を踏み入れた。
B「けっこう雰囲気あるな。」
中はとても暗くて地面は砂埃に覆われていてるようだ。
いたるところにクモの巣もはってある。
いかにもなホラー屋敷であった。
A「1階はなんもねぇな。」
私「ああ。」
とりあえず私たちは1階にある部屋の中をぐるっと一周してみたが、
ビルの1階は特に目立つモノがあるわけでもなく殺風景だった。
私はそんな中、Cさんがやたら天井を見ているのが気になった。
私「どうかしたの?」
C「え?いや大丈夫・・・」
Cさんはそういったが、彼女はあきらかに肩をふるわせて天井を気にしている。
A「上のぼるか。」
そういってAは懐中電灯の灯りをチラチラと階段に向けている。
私たちはAに連れ立って2階への階段をのぼった。
2階には部屋が3つほどあったが、噂の鏡はすぐに見つかった。
何も無い部屋の中、
窓から差し込む薄暗い光に照らされ、向かい合わせにポツンと鏡台が置いてある。
正直、鏡なんかほんとに置いてあると思ってなかった私であったが、
そのあきらかに不気味な配置に置いてある鏡台に私は悪寒がはしった。
想像してみてほしい、何も無い暗い部屋の中にただ鏡が向かい合わせに置いてあるのがどんなに気持ち悪いかを。
私「あれヤバいって、帰ろうぜ。」
B「俺も無理。絶対鏡とか見れない。」
Bもこの異様な雰囲気の部屋に入ろうとせず、Cさんは無言で肩をふるわせながら鏡台を凝視していた。
しかし、Aはそんなことおかまいなしと部屋にづけづけと入っていく。
私「おまえ、やめろって。絶対呪われる。」
A「大丈夫だって。」
B「馬鹿じゃねえの。これはヤバいって。」
私とBは必死にAを止めたが、聞く耳もたないAは鏡台を一人で観察している。
A「普通の鏡じゃん。おまえらもビビってないで来いよ。」
Aはそういってこっちにくるよう、手招きしているが誰も部屋には入らない。
Aはしかたなく一人で動き回っていたが、思い出した様に口を開いた。
A「そういや鏡の間に立って鏡を見るんだっけ?」
そうだ、たしか噂では間に立って鏡の中からもう一方の鏡を見るとかそんなんだった。
Aはほんとに恐怖心が麻痺してんじゃないのかと思うくらいあっさり鏡の間に立った。
私も正直ものすごく怖かったが、好奇心もあったのだろう。
息をのんでAを遠目に見守っていた。
私「大丈夫か?」
A「ぜーんぜん。普通に鏡しか見えない。」
B「なんだよ。ビビリ損じゃん。」
A「つまんねぇな。」
BはAに異常がないことに安堵し、肩の力が抜けたようだった。
私も何事もなかったことに安堵していたが、ふとAのさっきの言葉がひっかかった。
私「鏡しか見えないって、おまえは映ってんだろ?」
私はただ確認のために聞いたつもりだったが、Aの反応は予想と違った。
A「え?」
Aは私の言葉に一瞬固まり、また鏡に視線を映す。
A「え?あれ?か、鏡しか見えねぇ。」
B「は?え?何?」
Bもそこで異常に気づいたらしく、やや混乱してAの方を見た。
A「ぁぁああぁ。」
Aはその事実にショックを受けたのだろうか、情けない叫び声を口からこぼしながら後ずさろうとした時だった。
C「動かないで!!」
突然の大声に驚き、私もBも体がビクッと震えて声の方に振り向いた。
先程まで無言だったCさんがこちらを睨みつけるような形相で立っていた。
C「Aくん、そこを動かないで。」
CさんはAに向けてもう一度大声を張り上げた。
A「あああああああああああああああああああああ」
すると今度は背後でAの叫び声があがった。
先程の漏れるような悲鳴ではなく絶叫だった。
私はわけも分からずCさんから目を離し背後を振り向く。
Aは鏡を見たまま棒立ちの状態で目が飛び出さん限りにまなこを開き、口を大きく開けて叫び声をあげている。
その異常な光景に私は意味も分からなく、ただ寒気だけがゾワゾワと背中をかけあがってきた。
C「(私の名前)くん、Bくん、Aくんがそこから動かないように押さえてて。」
突然の展開についていけずただ固まっていた私とBに、Cさんはさらに言葉を続ける。
C「いい。私が戻るまで絶対にAくんをその場から動かしちゃダメ。あと絶対に二人は鏡を見ないで。分かった?早く!!」
Cさんにまくしたてられ私とBは急いでAに近寄った。
お互いこれが尋常じゃない事態だということは直感出来た。
部屋の入り口を見るとCさんはすでにその場所にいなく、足音から階段をかけ降りているのだろうとだけ分かった。
B「おい、なんだよこれ。」
Bは不安そうにこっちを見るが私だって何がなんだか分からない。
私「とりあえず二人でAを押さえよう。おまえ反対側な。」
依然Aは先程より小さいが叫び声をあげながら棒立ちで鏡を凝視している。
Bは黙って頷き、反対側からAの肩を押さえた。
私「あと鏡も見ないほうがいい。」
B「うん。」
そういってAを挟む様に二人で立つ。しかし何が起きたのか。いつまでこうしていればいいのか。と、不安ばかりが頭をめぐる。
とにかくCさんが早く戻ってくるのを願っていた。
すると突然Aの体が前に傾く。
私とBはあわてて腕に力を込めて引き戻したが、さらに強くなって傾く。
A自身が動こうとしてるのではない。
鏡にAが引っ張られていくような感じがした。
どんどん力が強くなっていくので、私は足にしがみつき、Bは胴に腕を回して抱きついた。
Aは何かうめくようにぶつぶつとつぶやいている。
すると今度はピシッと何かが割れるような音がした。
その後もピシピシと何かにヒビが入るような音が耳をつんざく。
私の恐怖心も最高潮に達し、目をつぶってとにかくAが助かるよう祈りつぶやいた。
Bもひたすら「ごめんなさい」と謝りながらAを押さえている。
その時、足音が階段の方から聴こえてきた。
どうやら、Cさんが人を連れて戻ってきたみたいだ。
Cさんの連れてきた人はお坊さんのような格好をしていて、頭も坊主にしていたがたぶん女の人だと思う。
その人は何かお経のようなものを唱えながら、
私たちに近づき、突然大声をあげながらAさんの体を叩き始めた。
よく分からなかったがたぶん除霊かなんかなのだろう。
私はこれで助かると安心した。
しばらく続けるとお坊さんに「もう放して大丈夫」と言われ私とBはAから離れた。
お坊さんに鏡は見ていないかと聞かれたので、私もBも見ていないと答えた。
Aはいつのまにか気絶していたようでお坊さんに支えられながら仰向けに寝かされた。
そしてお坊さんはAの服のすそをまくりあげた。
なんだろうと見てみると、Aの体のあちこちに歯形の跡のようなものがついている。
お坊さんは「大丈夫。どこもモッテイカレテナイ。」と言っていた。
終わったのだと思うと、すごい疲労感が体をおそった。
聞くと、Cさんも以前霊に取り憑かれたとかでそのお坊さんには世話になった事があるらしい。
その後、お坊さんとCさんにAをまかせて私とBはそのビルを離れた。
その日はそこで解散して私は帰路についた。
次の日、Aは学校に来ていなかった。
私とBは心配してCさんに聞いたが念のため病院にいるらしいとのこと。
そこで私はCさんに昨日のアレはいったいなんだったのか聞いた。
Cさん自身も詳しい事は分からないけど・・・と前置きして、自分が見たのは鏡から首を伸ばした無数の人の顔がAに絡みついていたという。
中にはAの体を貫通しているのもあり、下手に動いたらそのまま中をモッテイカレルと思い私たちに動かないようにしてと言ったとのこと。
Aはそのため病院にて内蔵の検査等をしてもらっているのだそうだ。
数日後、Aは無事に退院出来たがひどくやつれた顔をしていた。
話を聞いても記憶が混乱しているらしく、私ももうその話題に触れないようにすることにした。
Aの体についた跡も数週間後には目立たなくなっていたようだ。
私たちはもうそのビルに近づくのも怖かったので極力避けるようにしていたが
いつのまにかそのビルは取り壊されたらしい。
私が知っているのはここまで
だからあの鏡がなんなのかは今もよく分からない・・・
怖い話投稿:ホラーテラー ヒノさん
作者怖話