幼なじみ(A)は物静かな男だった。そして優しい奴だった。Aとは幼稚園から中学まで一緒で、部活やクラスが違っても、話をしたりたまに一緒に帰ったりしていた。
別々の高校に入ってからは会う機会が減り、次第に遊ばなくなっていった。
地元を離れ、県外の大学に進学して初めての夏。蒸し暑く中々寝付けない夜だった。寝苦しさを感じながらやっと眠りに落ちた…と思ったその時、
「コンコン」と玄関をノックする音が。
せっかく眠れたのに!と少し苛立ちながら玄関に行き、誰ですかと尋ねても返事はない。聞き間違いかと思い、覗き穴から覗いてみると男らしき黒い影が立っているのが見えた。
もう一度、誰ですかと尋ねても返事はない。
思い切ってドアを開け、「誰だよ?」と尋ねた。 目の前には黒い影がぼんやり立ちすくみ、顔ははっきりと見えない。
話しかけても全く反応がなく、気味が悪くなりドアを閉めた。半分寝ぼけてたのもあり、そのあとはすぐ布団に入って寝てしまった。
バイトやサークルなどで忙しい日々、そんな出来事はすっかり忘れていた。
夏、秋が過ぎ、クリスマスも近くなった頃、人づてに聞き初めてAの死を知った。
葬式は親類だけで行ったようで、地元に残っている友達も少なかったので、知ったのがかなり遅くなった。Aは夏に事故で亡くなったと聞いた。
夏?そういえばあの時不思議なことがあったよな…と思い出した。
……………………… 俺はあの黒い影はAだったのだと確信している。俺に最後の挨拶をしに来たのだと。Aは俺に何を伝えたかったのか。今となってはわからない…俺はAの分まで頑張って生きていこうと思っている。
霊感ゼロの俺の唯一の体験でした。
怖い話投稿:ホラーテラー まさむねさん
作者怖話